総選挙の政策争点を解明する 渡辺秀美



はじめに

 小泉内閣初の総選挙を自民党は「小泉構造改革」の是非を問う選挙と位置づけたのに対して民主党は「政権選択」の選挙と位置づけた(1)。多くの党がマニフェスト(政権公約)を事前に提示することによって今回の選挙では政策がより重視され議論されることになった(2)。政策争点は小泉改革とそれに対する対案という比較的明確な形をとった。本稿は争点のうち高速道路、郵政事業、年金、経済の4点について解明をした。この選挙の政治的意義などについては別稿を参照されたい(3)。

見過ごせない使い分け

 政策の内容に入る前に今回の選挙で小泉内閣と自民で主張が重要な点で違うという特異な現象について述べたい。たとえば小泉改革宣言で道路4公団改革(民営化)を明示しながら、自民党道路族は整備路線は計画通り建設するという。また同宣言で明記した郵政の民営化をおこなうには特定郵便局の改廃が避けられないはずであるにもかかわらず自民党議員は黙している。

 これは衆知のように自民党が、構造改革を掲げる小泉内閣の高い支持率で選挙を有利にするとともに既得権を擁護して保守基盤の票をも固めようとするものである。これは有権者を騙し裏切る行為であるばかりでなく、今後の政策形成に重大な悪影響を及ぼすことになる。

 官僚機構などの弊害や既得権があることは事実であり、非効率と改革の阻害要因となっている。国民の不満と怒りは当然である。そうでであるがゆえに有権者は構造改革に期待をかけ、高い内閣支持率となっているのである。自民党の狡猾な使い分けは国民の期待を悪用するものでもある。

 表裏の使い分けにくわえてスケープ・ゴート手法が用いられている。道路公団問題では官僚トップが糾弾されるが、道路をつくらせた自民党議員、工事を高単価で受注してきた企業などの責任は問わない。糾弾劇で国民にカタルシスを覚えさせ、大きな問題を隠蔽している。

 とくに小泉首相の思考方法は「官僚王国解体論」にみられるように官僚攻撃にねらいをつけている(4)。確かに特権化している官僚は改革または解体する必要がある。しかし、官僚をそうさせているのは、自民党の利益誘導による集票、許認可や受注などによって寡占利益をはかる大企業なのである。

道路公団問題の根源は建設計画

 日本道路公団の問題は解散後大きな争点になった。自民党は「2005年度から四公団を民営化する法案を2004年の通常国会に提出する」と政権公約に明示した。

 民主党は「高速道路は、3 年以内に、一部大都市を除き無料とします。日本道路公団 ・本州四国連絡橋公団は廃止します」とマニフェストに掲げた。社民党は総選挙政策では道路公団問題については触れていない。

 石原国交相が10月5日藤井日本道路公団総裁に辞表の提出を求め、17日聴聞が開かれ、高速道路問題で悪いのは公団であり、それを追求する小泉内閣が正義であるかのような雰囲気がつくられている。しかし、問題の根幹はそこではない。道路4公団問題は、高い通行料金、巨額な債務、赤字路線の建設にあり、この原因を冷静に見る必要がある。

 まず四全総(87/6/30)において21世紀初頭に14,000kmの高規格幹線道路網を完成することとし、その骨格が高速自動車国道11,520kmである(国土交通省HP)。この全路線は予定線として国土開発幹線自動車道建設法(同年法68)で定められた。この路線のうちどこを何時どのような規格で建設するかは、同法で設置された国土開発幹線自動車道建設審議会(国幹審)が基本計画、整備計画として決める。これを受けて国土交通大臣が道路公団に施行を命令する。同審議会の委員は、衆議院議員6人、参議院議員4人、国交大臣の任命10人以内で構成される。

 これで分かるように高速道路は国交相の所管、監督、権限のもとに建設されているのである。したがって現在の高速道路の問題に全責任を負うべきは歴代と現在の国交相、自民党内閣なのである。公団にも問題はあるが、内閣に対して従属的地位にある。

 現に大問題となりながら、自民党の道路族は道路公団を民営化した「新会社の料金収入を残り約2100キロの建設費に充てるよう求めている」のである(5)。これをを放置するなら、今後いっそうの赤字道路がつくられ、巨額な負債(道路公団だけで30兆円)が増え、高い高速料金が続くことになる。

 官僚や公団が権益拡大のため赤字高速道路を作ってきたというのは第2義的なことである。 自民党議員が選挙で当選するために道路を選挙民に約束し、それを国幹審で決め、建設しているので ある。選挙民に将来大きな負担になることが明示されれば道路建設を支持しないことがありうる。 しかし実際は負担のことは伏せて宣伝される。道路の便益と工事は地元にくるが、負担は全国民が する仕組みになっている。

 まず高速道路の建設費は金利も含め一切費用ではなく、その額すべてが資産(建設仮勘定) として計上される(以下数字は道路公団の02年度決算による)。この資金はすべて借入れであって、 道路債権(17兆円)と長期借入金(10兆円)である(6)。これには財投資金が投入されてきた。

 道路公団の収入(2.1兆円)は通行料金である。費用は、道路管理費(0.3兆円)、利払い費(0.6兆円)、償還費(0.9兆円)である。そして当期利益はない(道路事業に関しては)。道路公団は費用から逆算して通行料金を決めればよいのである。だから赤字路線をつくっても全国の高速料金に上乗せすればよい。さらに、国民の不満で料金を下げたとしても償還費を少なくし、借換えをすればよい。ここから巨額債務、高料金だけでなく、高い工事単価、ムダ、ファミリー企業の優遇、企業献金が発生する。

応益負担原則を徹底せよ

 民営化(株式会社)の最大の特徴は、競争条件(生産する商品・サービスの価格を自分で決められない)のもとで利益をあげることである。この制約によって効率的な運営をはかることである。高速道路では通常の意味での価格競争がない。この競争条件に近づけるため路線ごとの適正コストに基づいて料金を決めるべきである(利用者国民が真に料金を決めるなどの他の条件でもよいが、制約条件は必要である)。この上で利益を出し、配当ができるよう運営されるべきである。この条件によってムダな投資や費用は削減できるはずである。

 こうすると現在の赤字路線の料金がいっそう高く設定されるが、国民が生活に必要と考えれば、別途に国民の同意をえて一般財源から運営補助金を支出するか、高い料金で我慢するか、第3セクタに売却するか、廃止するかを決めるべきである。高速道路の利用者(受益者)はそのコストのみを負担すべきであって、利用しない路線の赤字分を負担する必要はない。

 したがって、現行高速道路の料金には、その道路にかかわる管理費、未償還分の金利と償還費のみが参入されるべきである。これで半額以下になる路線がでてくる。料金引上げになる路線については上記の措置が必要である。さらに既存の不採算路線の資産は相当部分が不良資産であって国民が負担せざるをえない。これが民営化において執るべき措置であろう。

 この点からみると、民主党がいう無料化は応益原則をふみはずし、道路予算からの繰入れもこの原則に反する。道路関係税は一般道路利用に応ずる負担なのであって、高速道路にまわす余裕があるなら道路関係税を減税すべきである。

 同党の政策には公団に似た融通思考がある。細かく区分してそれぞれを独立採算にし て費用負担を明確にしなければ建設の是非判断が明確にできない。そのうえで、公共財である高速道路は、国会で民主的に議論して建設や負担の仕方を決めればよい。しかし、その審議がはよく機能しなかったというのが経験である(国幹審には野党議員も委員になっている。国土交通委員会でも審議できたはず)。

 したがって常時細かく監視しなくとも効率的な運営ができるルール(個別採算と適正な減価償却)を設定する必要がある。ちょうど業法(供給条件など)によって規制している株式会社である電力、ガスのようにすることである。電力は外国に比べて割高という批判はあるが、道路公団のようなことはない。これは社会民主主義理論にとっても重要な示唆となる。この理論では企業を民主的にコントロールするというのが基本であるが、その適切な形態は運営の個々を協議するのではなく(困難)、むしろ効率的運営を確保できる適切なルールを民主的につくることであろう。

 道路公団総裁解任劇にふれておこう。任命権者である国交相は、効率的運営をしなかったことを理由に総裁を解任するのが当然である。官僚トップであろうと、経営者であろうと委任者に責任を負うのは当然かつ必要なことである。しかし法律では、大臣は心身故障、義務違反、または「その他役員たるに適しない」ときに解任しなければならないとなっている(日本道路公団法第13条)。

 国交省は、藤井総裁にたいして財務諸表問題への適切な対応を怠ったとして「その他役員たるに適しない」との条項を適用した。これは強引の感をまぬがれない。効率的運営の責任を問うものでなければならない。しかし、国交省が適切な運営の監督をしなかったからこれを問えない。また、法律自体が役員に瑕疵がなければ解任できないように定められ、役員を保身的にしている。法律の規定も改める必要がある。これは国民に対する責務である。

資金を市場で生かす郵政事業に

 郵政事業は自民党が政権公約に「2007年に郵政公社を民営化します」と明記したことで大きな選挙争点となった。同党は「日本郵政公社の経営改革の状況を見つつ、国民的論議を行い、2004年秋頃までに結論を得る」としている。民営化はすでに小泉内閣のもとで議論が進んでいた。

 首相の私的懇談会「郵政三事業の在り方について考える会」は昨年9月、そのまま特殊会社に移行、郵貯・簡保を維持した完全民営化、郵貯・簡保を廃止した完全民営化の三案を示した。つづいて経済財政諮問会議は10月3日本格的議論をし、@郵政三事業を民間市場システムに吸収統合A金融システム、規制、財政改革など構造改革全体との整合性を取るB国民の利便性に配慮C郵便局ネットワークの活用D公社職員の雇用に十分配慮、の五原則で合意した(7)。

 民主党はこれに対して次のように主張している。 

 「最終的な経営形態を考えるには、その前に膨大な郵貯・簡保資金をどうするかを決めることが先決です。まず、金融情勢を見定めつつ、郵便貯金の預入限度額及び簡易保険の加入限度額の段階的な引き下げをはじめます。さらに、郵貯・簡保資金を地域、中小企業に役立たせるシステムを市場機能を活用して構築することを検討します。」

 郵政公社の最大の問題はその資金をどうするかである。社民党は「郵政公社が効率・収益、経営最優先に流されることなく、国営公社の事業として郵政三事業を一体で運営するという公的な性格・公共性がしっかり発揮されなければなりません」と国営公社を主張し、資金問題についてはふれていない。

 郵政公社の資金は郵貯230兆円、簡保120兆円、合わせて350兆円であり、個人金融資産1400兆円の4分の1を占める。預金残高は東京三菱銀行51兆円、みずほ銀行69兆円であるから、郵政の資金は巨額であり、その動向が日本の金融に無視できない影響を及ぼす。

 郵政資金の運用先は、国債117兆円(郵貯67兆円、簡保44兆円)、地方債16兆円(郵貯9兆円、簡保7兆円)、地方公共団体貸付20兆円(郵貯1兆円、簡保19兆円)となっている(8,9)。国民は郵貯・簡保をとおして大量の国債を購入していることになる。

 また、郵貯から財投資金に129兆円がまわっている。財政投融資残高は391兆円であるが、主な融資先は住宅金融公庫66兆円、国民生活金融公庫10兆円、都市基盤整備公団15兆円、日本道路公団22兆円、地方自治体93兆円などとなっている(10)。

 郵政資金は、元利が安全という理由で政府、公社、公団、公庫などの政府系機関に融資されている。つまり国民の資金(郵貯等)は政府に取り込まれたまま民間にはでていかない。しかも、途中で利子補給が税金で行われたり、道路公団のように放漫経営ができるので利子を高めに設定することができる。これは定額預金利子に顕著にあらわれた。しかも郵貯は銀行と違って法人税、預金保険など不要であった。これによって非効率な公的部門に資金が取られるとともに金利引上げ要因にもなり民間企業を不利にした。

 国債、地方債の引受け手、公社公団への融資は郵政資金である必要はないばかりか多大な弊害がある。現に国債購入は民間の金融機関、あるいは個人まで行っている。また元本の保護は銀行と同じ行えばよい。要は郵貯・簡保は、小さい町村にも窓口(または委託先、CD、必要な助成はありうる)をもった通常の銀行、生命保険会社(分割が必要であろう)として機能するようになり、集めた資金が地方の企業、個人に流れるようにすることが重要である。政府と関係機関は国民の資金を強制的に取り込むのではなく、新しい郵政を含めた広い一般金融市場で資金を調達すべきである。

 郵便に関しては民間の参入を門戸をひらくべきである。信書の秘密に関する信頼性は、株式会社となったNTTや他の通信業者での経験からみて民間でも確保できる。残る問題はユニバーサル(普遍的)サービスであるが、民間が行える力を持ってきている。

冷静な討議が望まれる年金

 年金に対する国民の不安が高まっている中で基礎年金の国庫負担を1/3から1/2に引上げるのに必要な財源2.7兆円が差し迫った争点となった。この引上げは00年の年金改正法付則で「04年までに安定した財源を確保し」と条件付で決められている。

 自民党は「年金制度は、基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる。年内に改革案を取りまとめ、2004年の通常国会に法案を提出する」というだけで財源を示していない。

 民主党は、「平成16年度から徹底して予算のムダづかいにメスを入れ、それによって 生み出される財源を段階的に基礎年金に充てることで、5年間で国庫負担率を2分の1に引き上げます」 としている。社民党は財源について「無駄な公共事業の見直し等で確保する他、不足する分については、年金積立金から借り入れ」るとしている。公明党は財源を「所得税の定率減税及び年金課税の見直しにより確保」するとしている。共産党は「公共事業費の削減、道路特定財源などの一般財源化、軍事費の削減など歳出の見直しによってまかなう」としている。

 04年度から国庫負担を引き上げることが決まっているにもかかわらず自民党が財源を示さないのは、この政権の人気とり的性格を示している。選挙後に増税や福祉削減を言い出すと疑われても仕方がない。

 公共事業費は現在9兆円であり、景気動向を見ながら年5%(0.45兆円)程度削減することができるであろう。これを5年続ければ財源の大半を確保することができ、妥当な案であろう。ただし、公共事業は過半が建設国債で賄われていることに留意しなければならない。治山治水、道路、学校などを作った場合、便益を受けるのは今後であるから、公債で建設して60年間で返済すればよいという財政上の理屈(けじめ)がある。したがって公共事業を減らした時はその分国債発行を減らすのが筋である。しかし、4条(建設)国債6兆円に対して特例(赤字)国債30兆円(03年度)という現状ではすでにけじめが薄れている。

 他の歳出のムダを削減するという場合少なくとも大まかな項目は示す必要がある。 社会保障費(19兆円、今年度、以下同し)、文教及び科学技術(6兆円)、地方交付税(16兆円)など は増額が必要でも削減は困難であろう。防衛費(5兆円)の削減は別に論じられるべきである。

 年金の将来展望について自民党は、社会保障負担で「税と保険料負担を合わせたの国民負担を50%以内に抑制」と主張している。税と社会保険料の国民所得に占める割合いは現在36%であるが、現行制度では25年度に52%となるので、この上限は当然である。しかし年金改革の具体案は示していない。 

 民主党は、厚生年金等と国民年金を一元化し、税を財源とする「国民基礎年金」と 所得比例年金の二階建てにし、その財源は「デフレ経済を克服して安定的な経済成長が回復すること を条件に、年金控除の見直しや消費税の一部を年金目的税化することで確保」するという案を示した。 必要な財源は新たに10兆円規模になろう。消費税額は9.5兆円(03年度予算)であるから、その財源は 消費税5%引上げ分に相当する。充分な経過期間をとるといっているが、大きな税負担になる案である。 社民党は「2010年までは年金積立金の借入れなどにより、給付水準の切り下げや保険料の引き上げを行いません」 と言っている。しかし、この借入れ金を何時どのように返済するのだろうか。2011年以後はこの返済と年金収支ギャップを 埋めるためにより大幅な負担と給付引下げが必要とならないだろうか。また積立金を今から取り崩す ことは世代間不公平を拡大する。

 現在の給付引下げと保険料引上げになろうとしている再計算はGDP成長率と出生率の低下に起因しているのであるから、世代間の公平、保険料と税の割合などを冷静に議論する必要がある。受給者の期待権は尊重されなければならないが、期待はその時々の経済成長と人口構成の基づいていることに留意する必要がある。とくに保険料(元利合計)に対する給付倍率が20才で1.7であるの対して60才5.5、70才10.8であるのは(11)緩やかにする必要がある。

立論の明確化が必要な経済政策

 デフレ不況を克服するための経済政策は総選挙の最大争点である。世論調査でも国民がの最も望んでいる。しかし論点が不明確で見えにくく、論争が深まっていない。経済政策に関してはこの点の解明が大切である。

 自民党は「2006年度に名目GDP2%以上の経済成長を達成」「2004年度末に不良債権比率半減」「2010年代初頭のプライマリーバランスの回復]「530万人雇用創出プログラムの達成」などを掲げている。

 民主党は「失業率を、任期中に4%台前半以下に引き下げることをめざ」すとしているが、経済政策については「「経済再生5カ年プラン」を平成16年度中に作成します」といいうだけでその内容を選挙で提示できないでいる。これが同党の政策の最大の欠陥であり、責任の欠如である。

 社民党は「最低2年間にわたり名目経済成長率2%以上を達成後、10年間程度を目安とする財政再建を実現します」「当面3年間、国債発行額を対前年度比5%〜10%の幅で削減します」といっている。

 ここで問題なのはどのようにして名目GDP成長2%を達成するかである。名目GDPは、実質GDPとGDPデフレータの積である。前者は短期的にケインズ理論、中長期的にサプライサイドで、後者はマネタリ理論の適用が妥当である(もちろん副次的要因、外的条件はある)。まずこうした理論を踏まえなければ(他の理論でも良いが)マクロ経済について議論はできない。ところが政党によっては理論を明示せずに議論する。この点が道路、郵政、年金などの政策と事情が異なる。これらの政策は費用、収益、負債、資産など複式簿記の概念を用いては議論している。政策上の意見は異なってもこれらの概念や数値を無視したり否定することはない。

 およそ立論は理論的枠組み、事実認識、価値判断(選択)に基づくが、とくに最初の点を明らかにしないときちんとした議論はできない。総裁選で財政による景気対策か構造改革かが対比して争われたのも奇妙である。前者は短期、後者は中長期政策にかかわる事である。それぞれの政策の過不足と内容が問われるべきことである。

 GDPに関して現在大きい問題はデフレータである。02年度の実質成長は1.5%であったが、名目成長率は▲0.7%である(12)。03年度の政府見通しはそれぞれ0.2%と▲0.6%である。政府は「日本銀行と一体となって強力かつ総合的に取り組む」としている(13)。

 このデフレにはマネタリ政策が強くかかわっている。日銀は金利による貨幣量調節できなくなり、日銀当座預金残高目標によって資金供給をしている(14)。この数値をさらに引上げてオペレーションを増やした場合の効果と弊害など、金融政策手段が充分論じられなければならない。

 経済は、GDP成長がはかられても、生産された財、サービスの内容と質、所得格差、失業、倒産などの問題が当然のこる。しかし、所得水準、総雇用量、中小企業経営などは最もGDPに依存するのであるから、選挙ではマクロ経済政策は明確にして争われなければならない。

終わりに

 総選挙での政策争点について検討したが、本稿では、不況、国民負担増、社会保障引 き下げなどをまねいている要因に目を向け、次の点を明らかにした。

 政府と与党の使い分け、争点の移動と隠蔽で得票獲得と既得権維持しようとしている ことを見抜かなければならない。道路建設などの便益には必ず負担が伴うという当然の理に基づ て判断する必要ある。預貯金は元利の保障だけを求めるのではなく、資金を国民が活用する視点 と政策をもたなければならない。年金は合理的計算の上での冷静な判断が求められる。経済政策 は立脚する理論と政策手段の明確にするべきである。

 社会民主主義勢力は、このような課題について正確な把握と具体的な指摘によって 世論を喚起して改革を実現するべきである。政官財に癒着を一般的に非難し、社会保障の 維持拡充を要求するだけでは国民の納得を得られない。小泉首相と抵抗勢力を同じ穴の狢と だけみるのは誤りである。「構造改革」を国民への攻撃、搾取支配強化とだけ定型的に批判している だけでは国民のための改革はできない。ここに社会民主主義の立ち遅れがある。

 本稿では論じられなかったが、これらの問題の背後には日本資本主義の動向がある。キャッチアップ後のグローバリゼーションと情報化、アジア諸国の追上げ、製造業から第3次産業への移行のなかで、非効率部門を撤退させ、資源を効率的部門に充当しようとしている。それは国民に犠牲を強いるとともに、官僚機構、大企業、保守支持基盤の改変を伴っている。この視点からの議論も重要である。

 なお、教育、労働、地方分権、外交、安全保障、憲法などの重要な政策については本誌の他の論文を参照してください。


(1)各党の政策は、本文中では参照番号を省略して次の(1)-(5)から引用した。
自民党「小泉改革宣言 自民党政権公約2003」同党HP
民主党「民主党政権政策/マニフェスト」03/10/05,同党HP
社民党「社民党の政策 3つの争点8つの約束」03/10/03,同党HP
公明党「マニフェスト」03/10/02,同党HP
共産党「総選挙にのぞむ日本共産党の政策」03/10/08,同党HP
(2)マニフェスト(政権公約)とは「税や社会保障などの分野をはじめ、多くの施策に数値目標や財源の裏付け、達成時期が明記されている」ものをいう。その意義は英国を例にすると次のようになっている。 「このマニフェストを、有権者は投票行動の参考にする。直接、マニフェストを手に入れる有権者もいるが、それ以外の人もメディアやシンクタンクの分析や解説に注意を払う。政党は対立党のマニフェストの問題点を指摘し、選挙の争点が明確になる。……  選挙に勝利した政党は、マニフェストの実現に全力を挙げる。達成できなかった場合、次回選挙のマイナスポイントになるからだ。/官僚機構もマニフェストの実現に協力する。選挙前に各党のマニフェストを検討し、施策の準備を行う。つまり、マニフェストが中心になって、政治が動いていくわけだ。」(以上高知新聞社説,03/09/22)  それは政策でより争われこととともに、体制変革に依存するのではなく、現状の改革のなかで争われることの意義は大きい。また、数値目標、財源、達成時期が明記されることにより、政党が「専門店」と称して福祉などの要求だけを掲げてすますことはできなくなる。まして社会民主主義政党である以上それはしてはならない。財源は経済政策の上にのみありうる。
(3)松本弘也「主張―小泉第二次改造内閣と総選挙の課題」『進歩と改革』03年11月号
(4)小泉純一郎『官僚王国解体論』1996, 光文社
(5)毎日新聞, 03/10/05
(6)日本道路公団「日本道路公団の(JH)の決算(平成14年度)」同公団HP
(7)読売新聞, 03/10/04
(8)総務省「02年度郵便貯金資金運用報告書」同省HP
(9)総務省「02年度簡易生命保険積立金運用報告書」同省HP
(10)財務省「財政投融資リポート2003」同省HP
(11)厚生労働省「厚生年金の将来見通し」同省HP
(12)内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算報告」2000年度, 同所HP
(13)閣議決定「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」03/06/27, 首相官邸HP
(14)日本銀行「2002年度の金融調節」同行HP