「進歩と改革」858号    --2023年6月号--


■主張  ウクライナ戦争「今こそ停戦を」の声を大きく!

 「2023憲法大集会」のスローガンに思う


 今年も5月3日、東京・有明防災公園を会場に「2023憲法大集会」が開催される。「憲法大集会」は、岸田政権の安保関連3文書による敵基地攻撃論を前に「あらたな戦前にさせない! 守ろう平和といのちとくらし」が集会名とされている。スローガンは「改憲発議を許さず、憲法をいかし、平和といのちとくらしと人権を守ります」「軍拡と敵基地攻撃能力保有の閣議決定を撤回し、外交努力での平和を求めます」「辺野古新基地建設と南西諸島へのミサイル基地配備の中止を求めます」「エネルギー危機と脱炭素社会を口実とした原発推進政策に反対します」「ジェンダー平等の社会をめざします」「これら実現のため岸田政権の暴走をストップさせ、安心してくらせる社会をめざします」としている。この六つのスローガンに異議はないし、集会の大成功を勝ちとらねばならないが、なぜウクライナ問題が提起されないのか疑問である。昨年、三年ぶりに開催されたこの「憲法大集会」では、提案者が「プーチン」と呼び捨てにしての『ウクライナ特別決議』が採択された。それに比べての今年のスローガンである。なぜウクライナ問題が打ち捨てられているのか。

 プーチン・ロシア批判の特別決議を再現しろというのではない。ウクライナ戦争が開始されて1年以上が経過した。ロシア軍と米NATPの軍事支援を受けたウクライナ軍との戦闘で、民間人を含め甚大で悲惨な死者、負傷者、難民が発生し、戦火が止む気配がない。これ以上の犠牲を出すべきではないと願う立場から、いま求められるのは「ウクライナ戦争の停戦」であるはずだ。5月19日〜21日にG7サミット(主要国首脳会議)が広島で開催されようとしている時期でもある。「憲法大集会」は、広島へ集うG7首脳へ日本市民のウクライナ戦争停戦・和平を求める声を届けるべきではないか。

 今こそ停戦を。ceasefire now! 停戦の呼びかけ


 4月5日、伊勢崎賢治(元アフガン武装解除日本政府特別代表)、田原総一郎(ジャーナリスト)、羽場久美子(青山学院大学名誉教授)、和田春樹(東京大学名誉教授)、マエキタミヤコ(サステナ代表)、岡本厚(前岩波書店社長)各氏が記者会見し、30名を超す学者、文化人、ジャーナリストの連名による「今こそ停戦を。ceasefire now! 停戦の呼びかけ」が行われた(本誌15、16頁に紹介)。G7広島サミットに集う各国首脳に、ウクライナ戦争の「今こそ停戦」を日本市民の声として届けようという趣旨で、新聞広告へクラウドファンディングが呼びかけられた。

 記者会見では、参加者から「今こそ停戦を」提案に批判的な意見が出された。フリージャーナリストの志葉玲氏は、「提案者の皆さんはどちらかというと、中立というよりもややロシアの言い分を語っている」とした。今すぐ停戦を!との呼びかけが、なぜロシアの言い分なのか不明だが、被害者であるウクライナの人々の頭越しに停戦提案などするな、ということと理解した。そこからは、停戦提案への道は拓かれないと思う。志葉氏は、ロシアのウクライナ侵攻後、現地を二度訪れたとのことで、社民党機関紙『社会新報』は志葉氏の現地レポートを掲載している。それだけに今回の発言には残念かつ悲しい思いがした。そう言えば、『社会新報』にはこの記者会見の紹介記事がない。志葉氏と同じ考えなのであろうか。

 ある市民ジャーナリストは、「停戦提案には、護憲派から手厳しい批判がある」とし、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原こうじ氏の次のようなツイートを紹介した。「現状による停戦は体制立て直しによるプーチンの侵略と占領(その下での虐殺、拷問、レイプ、誘拐)の拡大につながりかねず、最低でも占領の固定化にしかつながらない。…プーチンの手足で踊るな、恥を知れ」。このツイートを直接読んだわけではないが、戦争による犠牲を止めようとする今回の提案に、異論はあっても「恥を知れ」とは激しい言葉で驚きだが、このように「今すぐ停戦」の呼びかけは十分に広がっていない。

 「今こそ停戦を」を呼びかける意義


 これらの意見に、まず和田春樹氏が答えた。「批判は理解できるが、それではこれからどうして行くのか。かつてのドイツや日本の指導者のように、プーチンを降伏させればロシアは戦争国家から平和国家に変わるという展望をもって批判するのであれば、それは幻想である。ロシアとアメリカが核兵器をもって対峙している世界で、そうした形で戦争を終わらせることはできない。朝鮮戦争も、米ソが核兵器をもって対峙し、最後はアメリカがソ連と戦争をしたくないということで停戦になった。停戦は暫定的なものであるかもしれないが、まず戦争を止め、人びとの苦しみを止めねばならない」。説得的だと思う。

 羽場久美子氏が続いた。「日本の情報が限られていることから、停戦提案への批判があることは承知しているが、アメリカ、カナダ、ヨーロッパでも停戦への声は大きくなっている。中国が停戦要求をした際、ウクライナのゼレンスキー大統領もクレバ外相も話合う余地があると言った現実もある。今年1月に国連に行ったが、ウクライナ問題担当者は『虐殺は双方にあった、現在もある』ということで、『いま公正な事実を集めてチェックしているところだ』と言っていた。一方的にウクライナだけが被害者だということは、国連でさえも言っていない。しかし日本では違う。そこにインフォメーションのギャップがある」。

 4月24日には、2度目の記者会見が行われた。そこで伊勢崎氏により強調されたのは、@停戦をロシアにでなくG7に訴えるのはウクライナ戦争が「米国の代理戦争」だからだ、Aこの戦争は、ミンスク合意などが試行錯誤された「ドンバス戦争の延長」であり、「停戦の呼びかけは時期尚早ではない」ということである。詳細はHP「今こそ停戦」で見て欲しいが、この呼びかけを支持して広げたい。(5月1日)