「進歩と改革」854号    --2023年2月号--


■主張  憲法・国民生活を破壊する岸田政治からの転換を!

 専守防衛を否定する「安保関連3文書」の閣議決定


 昨年12月16日、岸田政権は安保関連3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を閣議決定した。平和憲法によって規制されてきた自衛隊の専守防衛政策を否定し、「反撃能力」と言い換えた「敵基地攻撃能力」保有へ転換した。米国トマホークの購入など日本の軍事超大国化へ舵を切るものであり、防衛費増額に直結する。この安保関連3文書の内容と決定にいたる手続きに対し、「立憲デモクラシーの会」が、次のように批判している(12月22日)。

 ・政府は敵基地攻撃能力の保有により「抑止力」を高めることが日本の安全に不可欠だと主張する。しかし、一般に抑止という戦略は相手国の認識に依存するので、通常兵力の増強が相手国に攻撃を断念させる保証はなく、逆にさらなる軍拡競争をもたらして、安全保障上のリスクを高めることもありうる。

 ・政府は日本が攻撃を受ける事態の意味について、「敵国」が攻撃に着手することを含むかどうかについてあえて曖昧にしている。すなわち、日本に向けたミサイルの発射の前に日本から攻撃を行う可能性を否定していない。そもそも、「敵国」が発射するミサイルが日本を攻撃するためのものか否かは、発射された後にしか確定し得ない。「先制攻撃」と自衛のための「反撃」の区分はきわめて不明確であり、敵基地攻撃能力の保有は専守防衛という従来の日本の防衛政策の基本理念を否定するものと言わざるを得ない。

 ・来年度(註:23年度)から5年間の防衛費を43兆円、GDPの2%にすると政府は表明した。しかし、今回の防衛費急増は、必要な防衛装備品を吟味したうえでの積み上げではなく、GDP比2%という結論に合わせた空虚なものである。壮大な無駄遣いに陥る危険性をともなう。

 ・臨時国会が閉幕してわずか1週間の間に、与党調整を済ませ、閣議決定するという手法も批判しなければならない。岸田首相にその気があれば、7月の参議院選挙で防衛費急増とそのための増税を争点とし、国民の審判を受けることができたはずである。選挙の際には争点を隠し、秋の臨時国会でも国会と国民に対する説明をせず、内閣と与党だけで重大な政策転換を行ったことは、国民不在、国会無視の独断である。

 「ぜひ改憲を実現したい」と産經新聞・新春対談で岸田首相


 「日台に軍事連絡ルート 中国の台湾侵攻に備え」(毎日新聞)、「日韓レーダーを接続 北ミサイル 探知、即時共有へ」(読売新聞)と、新年1月1日の両紙朝刊には一面トップで中国・北朝鮮を包囲する日米韓、それに加えて台湾との軍事連携・一体化の動きが大きく報道された。毎日新聞では、自衛隊現場や情報部門と台湾軍との密接な連携が図られているとする。読売新聞は、日韓のレーダー接続・共有は米インド太平洋軍を交えて検討され、年内の実現がめざされているという。

 こうした報道は、安保関連3文書の閣議決定を意識したものである。「国家安全保障戦略」には、中国が台湾への「武力行使の可能性を否定していない」「これまでにない戦略的挑戦である」とされている。ここでは、日中共同声明(1972年)で、台湾を「領土の不可分の一部」とする中国政府の立場を、日本が「十分に理解し、尊重する」と約束したことが投げ捨てられている。北朝鮮に対し「軍事動向は、我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている」としているが、日朝国交正常化への外交姿勢は何も示されてはいない。敵基地攻撃でなく東アジアの平和構想こそ緊要な課題である。

 岸田首相は、産經新聞(1月1日)で歴史学者の磯田道史氏と対談しているが、司会者から自民党総裁任期中(令和6年9月まで)の最優先課題を聞かれ、即座に「ぜひ、改憲を実現したい」と応え、自民党改憲四項目に言及している。安保関連3文書の閣議決定は平和憲法の理念をトコトン破壊するものだが、岸田首相はそれに止まらず、明文改憲に突き進む意思を表明している。戦後政治の転換をめざす岸田政治の実際を見誤ってはならないだろう。

 統一自治体選で社民・リベラルの前進を


 佐高信氏らが呼びかける「共同テーブル」も、安保関連3文書の閣議決定に抗議声明を出している(12月22日)。そこでは「統一地方選挙では、『安保関連3文書』を決定した自公両党の議席を減らし、憲法理念の実現を目指す立憲野党の議席を増やしましょう。今後の総選挙で政権交代を実現し、『安保関連3文書』の閣議決定を撤回し、東アジアでの平和を構築していきましょう」とアピールされている。

 統一自治体選挙の重要性が一段と増してきた。4月9日に9道府県知事選、6政令市長選、41道府議選、17政令市議選が、23日に一般市や特別区、町村の首長と議員の投票が行なわれる。衆院補欠選挙も重要な位置を占めている。統一自治体選挙では、旧統一教会が自治体議員へ浸透し影響力を発揮してきたこと、維新・参政党などが積極的な候補擁立を図るなかで、社民・リベラル、立憲野党の前進を勝ちとるのが課題である。そして、地域における憲法改悪阻止の共同を担う主体を強めたいものだ。

 東京新聞(1月1日)の「本音のコラム」欄に登場した前川喜平氏の発言が秀逸なので紹介したい。「安倍政権、菅政権、岸田政権と続くこの10年の政府は、日本国民が見舞われた最悪の凶事だ。憲法九条の戦争放棄と戦力不保持の原則を破壊し、集団的自衛権が行使できるようにして自衛隊を米軍と一体化させ、隣国を先制攻撃する能力も持つことにして米国の兵器を爆買いし世界第3位の軍事大国を目指す。原発事故で苦しむ人々を忘れたかのように原発の再稼働を進め、『次世代革新炉』なるものまで新設して次世代に押しつける。低賃金と物価高騰に苦しむ人々を救うどころか、『1億円の壁』という明々白々な不公平税制を温存して富裕層を優遇し続ける」。

 「最悪の凶事」から脱出する力を新年に築いていこう!