「進歩と改革」853号    --2023年1月号--


■主張  「敵基地攻撃能力」の保有は許されない!

 「閣僚辞任ドミノ」で岸田政権の危機深化


 岸田政権の基盤沈下が著しい。閣僚の辞任ドミノによってである。「同じことが次から次へ連続して起きること」が〈ドミノ現象〉で、岸田政権の場合、旧統一教会問題で山際太志郎経済再生担当相、死刑をめぐる発言で葉梨康弘法相、「政治とカネ」をめぐって寺田稔総務相が辞任(更迭)した。いま秋葉賢也復興相の統一教会系団体への関与などの問題が浮上している。岸田首相の任命責任は当然問われるべきだが、これは内閣総辞職すべき事態であろう。〈ドミノ倒し〉という言葉もあるのである。

 そもそもの発端は、統一教会と自民党の癒着で内閣支持率急落に直面した岸田首相が、8月10日に行った内閣改造であった。この内閣改造、時事通信の『コメントライナー』(22年9月9日)で、読売新聞編集委員の伊藤俊行氏が次のように書いていた。「過去の内閣改造の直後はたいてい、『ご祝儀相場』と言われる支持率アップが見られた。ただし、継続的な支持率の上昇や、高い支持率の持続が3カ月以上続いた事例は少ない。最も多いのが、改造前後の3カ月をそれぞれ見て、『あまり効果がなかった』と評価されるパターンだ」「内閣改造の直後に支持率が急落した明確な『失敗』例はわずかながら、不吉な展開をたどってきた」。「失敗」例とは@1988年の竹下内閣の改造、A97年の第2次橋本内閣の改造、B99年の小渕内閣の改造、C2012年の野田内閣の改造、D2019年の第4次安倍内閣の改造だという。

 面白いのは次の指摘である。「『内閣改造』失敗後、いずれも1年以内に首相が交代した」。岸田首相は、「23年5月、地元・広島で開催されるG7サミット(先進7カ国首脳会議)で議長を務めるまで衆院解散・総選挙をしない」とされるが、岸田政権とは安倍政治の継承である。批判を高めていかねばならない。

 「反撃能力」に名を変えて「敵基地攻撃能力」保有、軍事超大国化へ


 岸田首相が党内求心力回復へ必死なのが、「新・原発推進」政策とともに「敵基地攻撃能力保有」である。敵基地攻撃能力の保有は、安倍・菅政権から引き継いだものであるが、その実行で安倍政治の後継者としての姿勢を強調しようとしている。11月23日、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(防衛力有識者会議)が報告書で、「反撃能力の保有は、抑止力維持・増強のために不可欠」とし、「今後五年以内に十分な数のミサイル装備」を求め、自公が容認した。ロシアのウクライナ侵攻があり、ウクライナの次は中国の台湾侵攻だと宣伝され、米韓軍事演習に対抗する北朝鮮のミサイル発射も口実に世論誘導して「抑止力」の必要が言われ、「敵基地攻撃能力」を抑止力としての「反撃能力」に言い換えた。

 敵基地攻撃能力として目指されているのは、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程延長と米国製の長距離巡航ミサイル「トマホーク」の導入である。まさに、相手国に対する先制的攻撃武器である。さっそく11月30日の『読売新聞』は、2027年度までに「トマホーク最大500発購入」と報道した。「12式の配備が遅れたとしても、反撃能力を早期に確保するため、トマホークを導入したい」(同)のだとする。米国の圧力での武器購入が露骨である。専守防衛から逸脱し、憲法に違反し、日米軍事一体化、日本の軍事超大国化が堰を切ってすすめられている。

 米国製と日本版トマホークを配備


 「12式地対艦誘導弾」は、日本版トマホークと呼ばれている。米日のトマホークが配備される。日本版は、その射程1000キロ程度に延長するという。地対艦誘導弾は、戦闘機からも発射できるようにされる。ところが、この日本版トマホークは有用か?との声が上がっている。「巡航ミザイルの速度は音速には満たず、12式も米軍のトマホーク並みの時速900キロ前後が見込まれる。空自戦闘機が北朝鮮領空にぎりぎりまで接近して発射しても、ミサイルが平壌に到着するまでに10分以上かかる。相手の移動式ミサイルはすでに姿を消し、、空き地に着弾するだけだ」。馬鹿馬鹿しい話だが、「現実ばなれした議論に気づいたのだろう。自民党国防族は、指揮統制系統を『反撃』対象にすべきだと国家安全保障戦略改定に向けた提言に盛り込んだ。……これも絵に描いた餅だ。北朝鮮の金正恩総書記の居場所を特定するのは米軍でさえ困難。司令部は険しい山岳地帯の地下にある可能性があり、破壊するには米軍が保有する『地中貫通爆弾』が必要になる」(『コメントライナー』22年5月6日、不動尚史)。日本は、地中貫通爆弾など到底保有できない。相手の指揮統制系統(司令部)攻撃など、まさに敵基地攻撃論の出鱈目さを示している。

 「こんな馬鹿で危険な戦略はない」と孫崎享氏


 外交評論家の孫崎享氏が、敵基地攻撃論について、「これまで様々な戦略があったが、こんな馬鹿で危険な戦略はない」と指弾している。「敵基地攻撃を実施した時に、相手国の基地を全滅させるわけではない。中国は日本を攻撃しうる中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイル・クルーズミサイルを1200以上配備していると言われている。敵基地攻撃を行っても、対日攻撃能力は実質的にほとんど減じていない。かつ核兵器も搭載しうる。日本が敵基地攻撃をしても、相手は黙って見ているとでも思うのであろうか。北朝鮮も200〜300発の中距離弾道ミサイルを保有している。中国に対すると同様の論理が働く」(『平和を創る道の探求』かもがわ出版)。先の不動氏も、「一撃を加えることは『倍返し』を覚悟しなければならない。自衛隊幹部は『報復を抑止するためには相手の2倍のミサイルが必要だ』と話す。北朝鮮を念頭に置けば1000発以上の弾道ミサイルが必要とになる計算だ」。このような道を日本は歩むのか。「日本の安全は軍事力では確保できない」「軍事費を福祉へ」の声を広げよう。