「進歩と改革」851号    --2022年11月号--


■主張  岸田政権の「国葬」強行、壊憲政治から転換を

 鈴木エイト氏が暴く統一教会と安倍・菅政権との癒着


 安倍晋三元首相と旧統一教会との関係は密接で、次のように指摘されている。安倍氏は、2021年9月12日、旧統一教会のフロント組織・天宙平和連合(UPF)主催の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」にビデオメッセージを寄せ、「UPF主催のもと、より良い世界実現のための対話と諸問題の平和的解決のために、演説の機会を迎えたことを光栄に思います」「韓鶴子(ハンハクチャ)総裁をはじめ皆さまに敬意を表します。UPFの平和的ビジョンにおいて、家庭の価値を強調する点を高く評価します」「偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」などと呼びかけている。安倍氏は、旧統一教会の「広告塔」の役割を担った。参院選では比例で、安倍氏が統一教会の票を差配したことが、宮島喜文前参院議員の『朝日新聞』への証言で明らかにされていた。しかし、報道ではこの両者の歪な関係を指摘する声は弱い。

 ところが、ジャーナリストの鈴木エイト氏が出した『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)には、統一教会と安倍政権、さらに菅政権との癒着関係がテンコ盛りで書かれている。統一教会が政治家への対策を強化するターニングポイントになったのは2000年代後半のこと。「全国の複数都市において統一教会系の霊感商法販社が摘発され、その追及が東京都渋谷区松濤の本部教会にまで至ることや宗教法人解散命令へ発展することを危惧した教団松濤支部は、組織防衛のために政治家対策を強化。一連の働きかけが露わとなったのは12年12月の第2次安倍政権発足以降のことだった」「教団が様々な運動を行う見返りに政権サイドから体制保護などの便宜供与を受けるという共存共栄関係が垣間見える」。

 「共存共栄関係」として指摘される一つが、参院選比例での統一教会票の差配であり、2013年の北村経夫、16年の宮島善文氏の選挙である。19年参院選比例では再度、北村氏が統一教会の支援で当選、22年には第一次安倍政権で首相秘書官を務めた井上義行氏への組織支援が統一教会によって指示された。とりわけ驚いたのは「2016年6月上旬、安倍首相が統一教会・家庭連合の徳野英治日本会長と李海玉総会長夫人を首相官邸に招いた」との統一教会内部からの情報の記述である。安倍元首相の憲法改正・右翼政治と一体となって政界工作し浸透したのが統一教会である。

 鈴木エイト氏は指摘する。「政権サイドにおける主役が安倍だとすると、この共存共栄関係におけるバイプレーヤーが第2次安倍政権発足以降、官房長官に就き20年9月に第90代内閣総理大臣となった菅義偉だ」。〈負のレガシー〉は菅政権に引き継がれた。鈴木氏によって、安倍元首相のみならず菅元首相に連ねる統一教会との癒着関係が暴露された。

 「国葬」で安倍政治を礼賛し継承を誓った岸田首相


 9月27日、安倍「国葬」が強行された。「国葬」の法的根拠、実施の理由、決定手続き、費用など立憲野党・国民の追及が解明されることなく、いつの間には「国葬」の開催意義は「弔問外交」に取って変わられた。しかし「国葬」で行われたのは取るに足りない弔問外交などでなく、憲法の破壊であり、各省庁・多くの自治体での半旗掲揚であり、そして岸田首相の安倍政治礼賛と継承を誓った弔辞であった。

 岸田首相が弔辞で挙げた安倍政治の成果とは、「防衛庁の防衛省昇格」「憲法改正にむけた国民投票法制定」「教育基本法改正」など「戦後レジームからの脱却」であり、「安全保障法制」「特定秘密保護法」など、いずれも日本国憲法の理念を破壊し、国民的批判を浴びたものであった。それにも関わらず、岸田首相は「あなたが敷いた土台の上に、持続的で、すべての人が輝く包摂的な日本を、地域を、世界をつくっていく」ことを誓うとした。冗談ではない。安倍元首相の敷いた憲法改悪の道など歩んではならないのだ。

 『東京新聞』(9月28日)の「こちら特報部」が書いている。「モリカケは…追悼映像触れず」。「政府が作った約八分間のビデオは肯定的な政策評価であふれており、『森友、加計、桜』の疑惑など、物議を醸した話はつゆほども出なか2- た」。森友学園問題で、決裁文書改ざんを強制された赤木俊夫さんの無念な自死、森友で139回、桜で118回に及ぶ国会偽証答弁にも触れられていない。

 付け加えたいことがある。統一教会とのズブズブな関係の細田博之衆院議長の責任もそうだが、ここでは「国葬」中、「唯一大きな拍手が上がった」(『東京新聞』)という菅元首相の弔辞についてである。菅氏の弔辞では、平成12年(2000年)、日本政府の北朝鮮への米支援に反対したことに安倍氏が共感し、その際「北朝鮮が拉致した日本人を取り戻すため、一緒に行動してくれればうれしい」との言葉をかけられたことが「政治活動の糧」となったという。和田春樹東大名誉教授の『日朝交渉30年史』(ちくま新書)によれば、この2000年は「北朝鮮をとりまく国際関係が激変した」年である。「2000年6月の金大中大統領の訪朝は特筆すべき一大事件であった。10月にはオルブライト米国務長官が訪朝して、金正日に会った。その前に北からはナンバーツーの趙明禄国防委員会副委員長が訪米し、クリントン大統領に訪朝の招致状を渡していた。かつてない雪解け状態が生まれた」。おそらく、こうした南北朝鮮、米朝関係の雪解け状態に無縁の二人であったのだろう。安倍政権から菅政権へと政権を繋いだ二人の対北朝鮮強硬策の下、拉致問題解決へ前進したのかを問いただしてみたい。

 揺らぐ岸田政権追い詰め大軍拡阻止・日中友好の道を


 統一教会問題の解明要求、「国葬」反対で高まった岸田政権批判の声をさらに強め、憲法擁護・民主主義強化の政治を築くのが我われの直面する課題である。政府・与党は臨時国会を10月3日に召集することを決めたが、野党に会期や提出法案を示せない体たらくで、岸田政権の基盤が揺らいでいる。「国葬」の徹底検証、細田衆院議長をはじめ自民党と統一教会との癒着解明、物価高騰と国民生活防衛、新型コロナや災害対策、原子力政策など臨時国会の課題は多いが、立憲野党の奮闘で岸田政権を追い詰めよう。

 岸田政権は年内に改定予定の国防三文書(国家安全保障戦略、防衛計画大綱、中期防衛力整備計画)で「敵基地攻撃能力」保有をめざし、姑息にも「反撃能力」と言い換え世論誘導している。同時にGDP(国内総生産)比2%以上の軍事費増強・大軍拡をめざしている。防衛省が8月31日に決定した2023年度の概算要求は九年連続で過去最高の5兆5947億円になり、しかも金額を明示しない「事項要求」が100件以上あり、総額は6兆円台半ばになるとされる。相手のミサイル発射基地などを叩くため、射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」増産を始める。その一つが、相手艦艇を攻撃する陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾(SSM)の改造で、現行射程200キロを1000キロに伸ばす。車両のほか、艦艇や航空機からも発射できるようにすることが決まっているという。一層の軍事大国化を阻止しよう。

 安倍元首相は「台湾有事は日本の有事」とし、23年度予算について、「防衛費は6兆円の後半から7兆円が見えるぐらいの増額が相当な増額だ」としていた。岸田政権の軍事費増強策は、安倍氏の言うがままだ。台湾独立勢力を励ますペロシ米下院議長訪台とそれに対抗する中国の重要軍事演習行動が実施され、「中国脅威論」が一段と喧伝される中、9月29日、日中国交正常化50周年を迎えた。日中関係の基本は、「台湾は中国の不可分の領土」との中国の原則を認めた日中共同声明(1972年)以下の4つの政治文書を遵守することである。これに背を向けてきたのは日本政府に他ならない。我われは、安倍政治の継承を誓う岸田政権に対抗し、憲法理念で東アジアの共生・連帯、平和創出へ積極的な位置を占めたいと思う。