「進歩と改革」850号    --2022年10月号--


■主張  旧統一教会問題解明、国葬反対の声を高めて政権包囲を

旧統一教会による政界汚染


 参院選投開票日の2日前の7月8日、奈良市で起きた安倍晋三元首相銃撃事件は、元統一教会(現・世界平和統一家庭連合)が選挙で支援を求める政治家と密接かつ歪な関係を築き、日本政界に浸透していた事実を明らかにした。安倍元首相銃撃事件そのものについては、ジャーナリストの横田一氏が、郷原信朗弁護士(元検察官)の「今回の事件の発生直後から、『言論を暴力で封じ込める行為』『自由な民主主義体制を破壊する行為』などの言葉が使われていることには違和感を覚えます」「犯罪の動機が、選挙運動の妨害などの政治目的であったとする根拠は、今のところありません。選挙期間中の街頭演説中の犯行だったことだけで、犯行の政治性や、選挙との関連を決めつけた見方をすることは、逆に選挙や政治に不当な影響を与えることになりかねません」との冷静な分析を紹介している(『紙の爆弾』9月号)。

 逮捕された山上徹也容疑者の供述として、母親が入信し多額の献金をする旧統一教会への怨念が犯行動機として浮上し、また「安倍元首相が教会と関係があると思った」ので狙ったとしたことから、旧統一教会と政治家との関係に注目が集まった。メールマガジン『オルタ広場』最新号には、羽原清雅氏の「低劣な感性、政治家は何のために存在するのか―旧統一教会の政界汚染を見る」とタイトルされた論文が掲載されているが、そこに記された表「旧統一教会周辺と政治家との関わり」には、「第1次岸田政権閣僚」「第2次岸田政権閣僚」「副大臣、政務官」「自民党」とともに、「立憲民主党」「公明党」「国民民主党」の関係議員一覧があり、新潟五区選出の無所属・米山隆一衆院議員の名前まである。報道によると、米山議員は、2009年の衆院選で自民党から出馬した際、「組織の人がボランティアに参加していたのではないかと思う」とし、また、「2009年に集会の場で選挙演説した記憶がある」としている。旧統一教会が、さまざまな関係団体を組織し、その名で行った政治家への浸透ぶりには驚くばかりである。

 旧統一教会と岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三の「三代」


 旧統一教会と政治家との関係において、主に問題とされるのは自民党であり、とりわけ元A級戦犯被疑者でありながら首相になった岸信介氏、岸氏の娘と結婚し外相、自民党幹事長を務めた安倍晋太郎氏、そして岸氏の孫で晋太郎氏の息子である安倍晋三氏との関係である。安倍寛→安倍晋太郎→安倍晋三という『安倍三代』を書いたのはジャーナリストの青木理氏であるが、安倍晋三元首相は政治潮流としては右翼の岸信介氏の流れを汲んでいる。

 「統一教会は、朝鮮戦争が休戦した翌年の1954年、韓国ソウルで文鮮明氏により設立された。4年後に日本での布教が始まり、64年7月に宗教法人として認証」されており、1968年には、70年反安保闘争への備えとして右翼・児玉誉士夫、笹川良一とともに国際勝共連合を結成している。その運動は、「朝鮮大学校認可取り消し」「中国承認反対」など反動極まりないものであり、その先兵として大学では原理研が組織された。そうした旧統一教会の日本での活動当初から協力してきたのが岸信介元首相であり、旧統一教会と岸信介氏は「反共」で手を組んだ。その関係は安倍晋太郎、晋三氏へと引き継がれてきた。これは旧統一教会と密着した『三代』である。春名幹男著『ローキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』(KADOKAWA刊)には岸信介の姿が描かれているが、ここで巨悪とされるのが岸信介氏である。

 1980年代、旧統一教会は「つぼ」や「高麗にんじん」を高く買わせる霊感商法や元アイドル歌手の合同結婚式参加などで注目と批判を浴びた。この反社会的行為を糾弾し、被害者救済の弁護士の活動も行われてきたが、85年の地下鉄サリン事件などでオウム真理教問題が浮上し、旧統一教会の存在は社会のなかから忘却された。革新サイドの運動からしても同様であった。この過程で、旧統一教会の政界への浸透と霊感商法による被害は拡大した。「全国霊感商法対策弁護士連絡会によれば、1987年〜21年に3万4千件を超える被害相談があり、被害総額は約1237億に上る」(月刊『FACTA』9月号)。

 貴重な前川喜平、有田芳生氏の証言


 『社会新報』(8月31日号)で、福島党首とモンタナ州立大学准教授の山口智美さんが「政策歪める宗教右派と政界」をテーマに対談している。その中で、「旧統一教会もジェンダーバッシングに深くかかわってきた」とされ、旧統一教会をめぐる今日的課題の一つが突き出されている。その旧統一教会の日本政界・社会への浸透に決定的な影響を及ぼしたのが2015年の「名称変更問題」である。

 この年、統一教会(世界基督教統一神霊協会)は「世界平和統一家庭連合」という現名称への変更申請を行い文化庁に認められている。名称変更の狙いは、霊感商法で社会的批判を浴びたことからの「統一教会隠し」である。それなのに、なぜ認められたのか。その間の事情を『サンデー毎日』(8月14日号)が解説している。名称変更申請は2015年が2回目で、1997年の1回目の事前相談では申請も出させないまま文化庁の窓口の文化部宗務課が門前払いした。全国霊感商法対策弁護士連絡会の反対もあった。その文化部宗務課の姿勢が変わり、一転、名称変更が認められたのだ。当時は第2次安倍政権で、所轄庁の長である文科大臣は旧統一教会に近いとされた下村博文氏であった。

 『サンデー毎日』誌上で、元文科次官の前川喜平氏が証言している。前川氏は97年の門前払い時、文化部宗務課長であり、2015年時は、文科省官僚ナンバー2の文科審議官として担当課から報告を受ける立場にあった。まさに当事者であり、これほど事情に詳しい人もいない。その前川氏が「実態が変わってないのに名称だけを変えることはできない」とし、「役所は1回前例ができると踏襲する。過去の方針変更は、よほどの理由がなければできない。逆噴射のようなことが起きた」「政治的な判断だということは容易に分かる」、なぜなら「役人限りの判断なら前例踏襲、受理しないという対応のはずなのにそれをしなかったからだ」としている。『サンデー毎日』にはジャーナリストの有田芳生氏(前参院議員)の証言も載っている。有田氏は、警察庁幹部から旧統一教会への捜査を「『政治の力でできなかった』と言われた」と証言している。この2人を国会に呼んで、旧統一教会問題の徹底究明を実現したいものである。

 「国葬は憲法違反」と憲法研究者84名が声明


 岸田第1次政権では7人の閣僚の旧統一教会との関わりが明らかになった。二之湯智国家公安委員長まで関連団体行事の実行委員長を務めた。「警察行政の民主的管理と政治的中立性の確保を図ろうとする」のが国家公安員会である。その長の所業、「これでは持たない」と思ったのか、急遽、内閣改造が行われたが、改造内閣では第1次を上回る8人の閣僚の旧統一教会との関わりが明らかになった。散々である。旧統一教会問題の解明に背を向け、統一教会隠しに必死の岸田内閣の支持率が、物価上昇・新型コロナ対策の無策も重なり急落している。岸田政権の危機に他ならない。

 岸田政権の閣議決定で、9月27日に税金を使って強行されようとするのが安倍元首相の国葬である。8月3日、84名の憲法研究者が「政府による安倍元首相の国葬の決定は、日本国憲法に反する」と声明した。そこでは(1)国葬令は憲法の平等主義や基本的人権に反することから戦後、廃止された。(2)岸田内閣は内閣府設置法を根拠に国葬を実施しようとしているが、内閣府設置法は国葬という実体を定めているものでなく、これは「法治主義に違反する」などと明解である。国葬への支持は、安倍元首相と旧統一教会とのゆ着関係が明らかになるとともに減り、今や反対する声の方が多い。市民の反対運動も高まっている。国葬反対の声を一段と強め、民主主義回復へ岸田政権包囲の輪を広げよう。