「進歩と改革」849号    --2022年9月号--


■主張  山崎一三「第26回参院選総括―政権交代への展望と課題」

一 「自公が勝った」のではない
 

 芥川賞作家でもある辺見庸が、『朝日新聞』で次のようなことを言っていたのは6年前のことであった。

 「いまの局面をなぞらえるとしたら、すべてが翼賛化していった1930年代じゃないですか? 南京大虐殺が起きた1937年前後のことを調べてつくづく思いました。人はこうもいとも簡単に考えを変えるのか、こうもいとも簡単に動員されるのか、こうもいとも簡単に戦争は起こるのか――と。現時点で、日本はもう37年と同じような状況に入っているのかも知れません」と。

 今次参院選は、最終盤での安倍元首相銃撃事件を含めて「歴史の分水嶺」だった、ということになるのかどうか。日本の行方を決定する重大事については、われわれ社会民主主義者は、常に歴史と世界とアジアの三つの視点から洞察していかねばならないであろう。

 すぐる第26回参院選は、又もや又もや「自民大勝」「自民単独 改選過半数63」で終わった。そして各新聞は、「岸田自民 舞台整う」「改憲・経済 『黄金の3年』」等の大きな見出しを打った。また、各新聞の2〜3頁に「野党共闘不調 立民敗北」「しぼむ共闘 かすむ立憲」等の大見出しが躍った。

 まずは「自民大勝」という結果についての分析だ。確かに63議席は、第2次安倍政権発足翌年(2013年)の65議席、小泉政権時の2001年の64議席に次ぐ大勝利であった。しかし、この結果は実に驚くことでもなく、各新聞の「序盤→中盤→終盤」での予測による分析予想通りであった。この点こそは今次参院選での一つの特徴点だ。驚くことには、開票日の一週間も前に店頭に並んだ『サンデー毎日』の「完全当落」予測は、自民63、公明14であった。また、『週刊文春』では、自民62、公明14で、ほぼドンピシャリであった。2つとも岩手の立民敗北が予想を外れたぐらいである。言うまでもなく、この自民の大勝は野党共闘が不調で、前回敗北した7つの県で自民が奪還したことによるものだ。

 しかし、われわれはさらに冷静・客観的に分析しておかねばならない。自民党は本当に勝ったのか? それぞれの党の客観的実力を表す比例獲得票と率はどうだったのか。自民の比例得票数は1826万票で、3年前より54万票増やしているが、しかし得票率は1ポイント減っているのだ。8か月前の衆院選と比べても今回は0・3ポイント減らしている。結果として比例代表の改選議席を1名減らしているのだ。選挙区はどうか。今回は2060万票で前回より50万票増やしているが、得票率では1・1ポイント減らしている。自民は、自らの力を大きく伸ばして勝ったわけではなかった。ここはまことに重要点だ。

 投票日2日前の安倍元首相銃撃事件の影響はどうだったか。『共同通信』の調査では、翌9日の期日前投票で前日より5ポイント増えたと報道した。また、選挙直後の世調では、「事件の影響」について、「あった」が15・1%で「なかった」が62・5%であった。以上について整理するならば、「あった」可能性については否定できないが、しかし自民党の得票数・率を押さえるならば大勢に影響は無かったとみるべきではないか。

二 「野党分断 立憲沈む」


 「自民大勝 野党敗北」の構図が、新聞・メディアでこれ程までに、鮮明に予測されたケースも珍しいのではなかったか。開票日翌日の新聞は、「野党1人区 共倒れ」「野党分断 立憲沈む」等々、実に情勢の本質をズバリと突いた大見出しを打った。考えても見れば至極当然な結果であった。直近2回の参院選では「1人区決戦」というべき全32選挙区で候補者を原則一本化したが、今回はなんと11選挙区にとどまった。結果として、立憲民主党と野党は自滅路線を突っ走ったのだ。

 われわれ野党・市民の側は、まことに残念ながら、3年前の総括の最大ポイントを又もや今回も繰り返えさねばならない。3年前の参院選公示の1か月前に『なぜリベラルは負け続けるのか』(集英社)を出版した岡田憲治・専修大学教授は、端的に言っていたではないか。

 「野党陣営はいったいなぜこのような『ボロ負け』状態になったのでしょうか? それはひとえに野党側が、小さな違いを懐に収めながら大同団結するという判断をせず、非常に狭い範囲で戦いをしてきたからです。もし少数野党が一つにまとまって自公政権に対峙していたならば、たとえ政権交代には至らなかったとしても、ここまで横紙破りの政権もできなかったことでしょう。そんなことは何も私の『大発見』などではなく、小学生にだって分る理屈です。……そもそも野党陣営の一部の人たちが『あそこの党と組むくらいなら死んだ方がマシだ』などと思っている節さえあるのですから、これはもう相当絶望的です」。この直言は3年前のものであり、「絶望的」と結論づけているところがすごい点だ。

 3年前の参院選直後に『自公政権とは何か』(ちくま新書)を発刊し、その後政治情勢の節目節目で「野党は自公連立政権20年に学べ」との核心を突いた提起を行い続けてきた中北浩爾・一ツ橋大学教授は、今次参院選直後に次のような重要な提起を行っている。

 「政権交代可能な政治体制は、岐路に差しかかっている。政権交代の可能性が2012年から一気に減退してきたのがこの10年だと思います。その最終局面に入りつつあるということで、まさにその状態が完成して、政権交代の可能性がなくなっていくのか、それともかろうじて残っていくのか。私はそうした意味で今回の参院選は重要な選挙であったと思う」(NHK7月12日「クローズアップ現代」)。

 まさに重大な総括点だ。参院選2日後のNHK特集「クローズアップ現代」(以下、NHK特集)の参院選特集の焦点とはズバリ「連合」であった。連合の動向が鍵を握っている、との提起だ。この間の局面を考えるとその通りであった。8か月前の衆院選決戦では野党共同戦線は大きく前進する情勢にあったが。闘いのド真ん中で野党共同戦線の破壊工作が炸裂した。労働者の結集軸であるはずの連合による執拗な共産党叩きであり、立民が進めた共産党を含む野党共同戦線への批判の繰り返しであった。結果として立民は大敗し、共産党も後退した。まさに自民党の遠藤選対委員長より「連合会長が共産党はダメよと、そんな話しをしていたこともあって勝たせていただいた」と大いに感謝される結果となった。

 今年に入り、連合による野党共同戦線の破壊工作はさらに加速した。「参院選では支援政党を明記せず、共産党と連携する候補者は推せんしない」ところまで踏み込んだ。のみならず、NHK特集において「野党最大の基盤―労働組合に異変」と銘打って、「この間連合は、自民党の諸会合への出席や執行部との会食を繰り返してきたのです」と、NHKとしては信じ難い解説をはっきりと行うこところにまで連合は変質してきたのである。

 このような連合の動きと今次参院選での立民・野党の敗北の関係性について、参院選直後にズバリと抉ったのは、中央紙ではなく、ローヵル紙の『新潟日報』だったのではないか。開票日翌日の2頁目の大見出しは「野党分断の作戦奏功」「国民(民主党)取り込み1本化阻止」であった。この大見出しは、選挙結果の本質を実に的確に突いたものであった。野党共闘は自然に自壊したのではなく、明白に自民党が手を入れて破壊させられたのだ。その翌日の『新潟日報』は社説において端的に指摘する。

 「共同通信社の出口調査では有権者の67%が投票先を決める際に物価高を考慮したと答えたものの、野党の票につながらなかった。従来の野党共闘の枠組みが崩れたことが大きいだろう。

 背景には、自民が憲法改正に一定の理解がある国民民主党の玉木代表の取り込みを図るなど、時間をかけて野党の分断を仕掛けてきたことが指摘される」。「時間をかけて野党を分断」という表現がまことに優れた分析ではないか。

三 「連合―国民民主党」を規定する力とは


 中北浩爾教授の警告通り、政権交代の可能性が消滅する最終局面に入りつつあるこの重大局面において、われわれはこの絶望的流れの最大要因たる「連合―国民民主党」を貫く本質について改めて分析・把握をしておかねばならない。

 その第1は、今や労働者の結集軸たる連合は、民間6単産(電力労連、UAゼンセン、自動車総連、電機連合、基幹労連、JAM)によって制圧されつつあるが、「主力民間6単産制圧」の内実とは、「旧同盟・友愛会グループに連合が乗っ取られつつある」ということを意味する。友愛会の前身の民社協会が掲げた旗印とは「左右の独裁と対決する」というものであり、その内実とは「反共」を原理的思想とするものだ。現代日本の右翼的運動を主導する「日本会議」の会長である田久保忠衛とは、かつて「民主社会主義研究会」(民社研)の中心的イデオローグ、理論的指導者であったことは注目すべき点だ。すでに2年前に中島岳志・東工大教授が「民社・同盟系の動向がカギ。連合と右派運動」という論稿のなかで、次のように言っていた。

 「立憲民主党と国民民主党の亀裂は労働運動のイデオロギー的な再分化・先鋭化を加速させる可能性がある。これは野党共闘の大きなネックとなるであろう。国民民主党は草の根の右派運動とどのような関係性を保つのか。両者の関係が深まるほど、リベラルな価値観を重視する立憲民主党との溝は深まり、自民党との思想的近さが鮮明になる」。

 この2年間の流れは中島岳志教授の指摘通りとなっているのではないか。まさしく国民民主党の深部を規定する内実とは、まぎれもなく旧同盟・友愛会の反共思想集団である。

 主力民間6単産による連合制圧の第2の本質とは、NHK特集の通りである。「揺らぐ労組、自民シフト」にある。自民党を支持していく方針へと舵を切っていく現実について、NHK特集は生々しく切り込んでいる。この流れは先の衆院選において、自動車総連の中核たる全トヨタ労連によって堂々と切り開かれた。参院選直前の6月17日に、岸田首相が豊田市のトヨタ自動車を異例の訪問。労組幹部とも懇談する場面がNHK特集で写し出された。熾烈なグローバル競争下の生き残り戦略として、今や労働者の身も心も抱え込んでいく状況へと日本資本主義は突入しつつあるということだ。

 さらにまた、しっかりと押さえておくべきことは、これら民間6単産路線を推進する中核部隊が、軍需産業を背景としたミリタリー・キャピタリズムと、原発の死守にかける原子力関連産業だという点である。もはやわれわれ野党・市民の側にとって打つ手が無いかの如くである。この6年間、野党・市民の共同戦線を牽引してきた学者グループの中心軸であった山口二郎・法政大学教授は、NHK特集のなかで、かかる情勢を前にして次のように述べている。

 「労働者がまとまって民主党なり、それに類する政党を支援しながら政治の転換を図っていく、という闘い方は終った。働く市民を代表する労働組合が政党を支えていくという従来の戦略はもう崩壊してしまいましたね。そのあとに出てくるのは、ガリバーとこびとたちみたいな感じの、自民1強で、まわりに野党がポロポロ取り巻いているという政党システムなのかなぁという感じがしますね。まぁ非常に残念だし、ちょっと無力感に陥りますね」。

 まことにお粗末な分析ではあるが、まさに「今や政権交代の可能性はなくなった」と明白に吐露しているのである。彼には労働者一人一人の本当の「現場」感覚(認識)が欠如しているのであろう。

 われわれに展望はあるのか? 「在る」と言おう。NHK特集では山口二郎教授の前に、安河内賢弘・JAM会長・連合副会長がインタビューに対して驚くべき発言を行っていた。JAMと言えば、まさに吉野友子連合会長の出身産別で、かつあの民間6産別の一つである。

 「労働運動の私の20年の歴史は自民党との闘いの歴史です。それは敗北の歴史でもあります。私たちの政治方針は、私たちが人生をめちゃくちゃにした候補者たちの死骸の上にできています。自民党との連携は私の労働運動への侮辱です、とツイッターで批判、発信しました」。

 われわれは、連合運動を担う中心的幹部のなかに、ほぼわれわれと同じ経験をもっている人びとが厳然と存在していることを確認し合おうではないか。自治労、日教組、全農林、私鉄、全港湾などにはこのような考えをもった幹部・活動家は多数いることも知っている。われわれは労働者自身の内部からの闘いを開始していかねばならない。衰退か再生か。われわれは、野党・市民の共同戦線形成という基本戦略のなかに、あきらめることなく労働者・労働組合の可能性を粘り強く押し広げていかねばならない。

 連合労働運動を変えていく第2の課題は、逆説的ではあるが、野党・市民の共同戦線を強め、広げていくなかから、連合の右派指導部を包囲していく闘いだ。コロナ対策であれ、非正規労働者問題であれ、原発問題であれ、国民のより多数が賛同し結束する具体的課題を野党の側が社会に突き出し、野党の側が市民の多数派を形成することによって連合が現実に動かかざるを得ない状況をつくりあげていけるかどうか。われわれ社会民主主義者の根本的任務は、労働者・民衆の側の共同戦線を形成することにあることを踏まえるならば、この厳しい課題に立ち向かっていかねばならない。

四 社民党を根拠地に、改憲阻止と統一自治体選へ


 今次参院選闘争における社会民主主義者の主体的、かつ中心的課題とは、言うまでもなく日本で唯一の社会民主主義の政党―社民党の旗を守り切ることであった。そして125万8501票(得票率2・4%)を獲得することができた。われわれは、まずこの勝ちとった成果の「意味」についてお互いに確認し合いたい。自民党と真向うから対抗していく「野党共同戦線形成」をめぐる現実状況の厳しさと、中軸たる立民の動揺と後退、そして労働組合の結集体である連合の急激な変質等々の「時代の逆流」のなか、社民党が全国政党の旗として残ったことの意味は巨大だ。われわれは社民党を根拠地として「歴史における役割」を明白に果たしていけるのだ。

 今から2年半前、又市征治、吉田忠智、吉川元等社民党の中枢中の中枢であり、最高の責任者集団が、自治労13県本部派の幹部・議員・党員を抱え込んで、鐘・太鼓を鳴らして社民党の解体作業に猛進した当時、彼らがなだれ込んでいった立憲民主党とそれを全面的に支えていた連合がかくの如き変質過程に突入していくとは誰も想像できなかったであろう。そうであるが故に、今更ながら、社民党という「根拠地」を守り切ったことの意味を何度も何度も噛みしめたいのである。

 われわれはこの間、今次参院選に向けて「ホップ→ステップ→ジャンプ」論を掲げてきた。そして、ホップとしてわれわれは、2021年2月の社民党全国代表者会議までにほぼ全国各地に社民党組織を再建、確立した。そして昨年秋の衆院選においては得票率1・8%を確保し、ジャンプに向けたギリギリの「バネ」を構築することができた。過去、2017年の衆院選で得票率1・7%であったが、それをバネとして2019年の参院選で2・1%を獲得し政党要件を確保することができた。その経過と実践を踏まえ、今回も打って一丸頑張れば必ずや2%を超えることができるとわれわれは確信した。

 しかし考えてもみれば、今回は前回とまったく異なり、吉田忠智(前回14万9287票)に集約される自治労13県本部の社民党内最強部隊がすっぽりといなくなったのである。それに伴ない全国で169名の県会議員・市町村会議員が立憲民主党に移行し、社民党の全国的拠点の東北各県をはじめ多くの地域の党組織が半数以下となってしまった。さらには仙台・宮城、山形、福井、徳島の各県組織が消滅してしまったのだ。前回の参院選を闘った組織体制と主体的条件を考えるならば、8か月前衆院選の1・8%の得票率はどう考えても飛躍へのバネに値するとは考えられなかった。

 しかしわれわれは、現実には1・8%の社民党のギリギリの岩盤層とも言うべき支持者の力をバネとして、2・4%にまで押し上げることができた。ここまでの頑張りは、率直に言って全国の党員の予想を超えたのではないか。党組織が見事に消滅した仙台・宮城や福井での得票数に象徴されるように、社会党以来の社民党の岩盤層は今回も崩れなかった。「日本で唯一の社会民主主義の旗」「鮮明な護憲の党」を絶やしてはならない、との多くの人びとの思いが寄せられた。

 この闘いの成果を可能とした要因と条件とは何であったろうか。もちろん「第一義的には全党員の驚異的な踏ん張りによるもの」(党中央声明)であるが、その点を前提としつつ考えてみたい。

 第1に「福島党首の奮闘」を挙げたい。3年前は肺がんを病みほとんど全国展開が不可能であった又市氏が党首であった。福島党首は今回、18日間で日本列島を7633キロ踏破して頑張った。国政選挙とは、何よりも全国政治闘争なのだ。各政党がどのような「顔」で闘い、どのような政治戦略と戦術で闘うのかで激突する勝負なのだ。3年前には、このような全国政治闘争の当り前の原理を熟知していた佐高信氏は、又市氏の党首辞任と福島さんの登場を強く主張していた。あの時にしっかりと党首交代を実現していたならば、2名当選に迫る結果をたたき出していたのではないか。そして、その直後から始まった「社民党解体」劇は無かったのだ。この間の社民党(員)にとっての汗と涙の苦労とは又市前党首の万死に値する「無定見さ」と「我欲」とによってもたらされたのだ。

 今回、9政党中唯一の女性党首のアピール力は、多くの女性票を引き寄せることができたであろう。先の衆院選では、無党派層の2・8%が社民党を選んだが、今回は4・1%と増加した。

 第2に、秋葉忠利さんや山口わか子さんに象徴される土井たか子さん直系の世代の人たちの決起と頑張りを挙げたい。まさしく「社会党以来の岩盤層」の人びとにアピールは響いたのではないか。さらに、大分県連の同志の皆さんの努力によって、村山富市元首相の「全国の党員ガンバレ!」のアピールも『社会新報』の1面報道によって広がった。

 第3に、岡崎彩子さんを押し立てて闘った新社会党の皆さんの頑張りを挙げたい。岡崎さんの1万7466票の票だけではない全国各地域における社民・新社の共同行動の力を大きく評価すべきだ。

 第4に、佐高信さんや神田香織さん、竹信三重子さん等市民・文化人の皆さんによる応援団(共同テーブル)のアピール力を挙げたい。ここに参加していただいている皆さんとの絆は、この選挙に止まらず今後の社民党の広がりを創造していく上で大きな力になっていくのではないか。

 われわれは以上の経過を踏まえ、いよいよ新たな闘いを自信をもって開始していく。反原発闘争や反基地闘争をはじめとする全国各地域の諸闘争に直面しているが、われわれは、全国的政治闘争としては改憲阻止の闘いに総力を挙げていく。言うまでもなく、国会は見事に衆・参両院において改憲政党が3分の2議席を制圧するという「戦後77年の歴史」を画する危機の時代を迎えた。開票翌日の各新聞においても「改憲勢力3分の2維持」の大見出しが躍った。11日の岸田首相の記者会見でも「改憲発議『できるだけ早くに』」と表明した。首相は年内にも改憲議論を始める意向だ。

 こうしたなか、われわれの改憲阻止の闘いの戦略は明白だ。国会内の改憲多数派に対抗する大衆運動を再び国民の只中に形成していかねばならない。この間の安保法制反対の共同行動をベースにしつつも、今後の緊迫した改憲情勢に対抗していくための、さらに幅を広げた市民・野党の共同戦線を創出していく必要がある。社・共・市民の結束を軸として、大衆運動のうねりを形成するなかから立憲民主党勢力を巻き込み、さらには国民民主党や連合勢力をも下から突き動かしていくことをめざそう。今後さらに弛緩していくであろうと予想される野党・市民の共同戦線の行方は、まさしく改憲阻止の闘いのうねりの規模と強さによって規定されていくであろう。

 第2の課題も明白だ。参院選闘争が終って各党派は、来春の統一自治体選挙に向けた具体的行動に突入しつつある。新人候補者のあいさつ回りがスタートした。再選に向けた運動は、今次参院選のとりくみとセットで展開されてきた。すでに一人一人、一票一票の積み上げに必死である。「社民党の力」とは全国の一人一人の党員の活動力にあるが、決定的に重要な力は自治体議員の存在と頑張りにある。国政選挙を闘うとき自治体議員がいるかどうかが闘いの水準を決める。と同時に、われわれは社会民主主義者として、生活している地域を変革し、その力と成果をバネに県政を変え、そして国政を変えていくことをめざすが、そうした闘いを可能ならしめる土台が自治体議員であることを再度認識し合おうではないか。さらにはまた、「世代交代」の最大のチャンスが自治体議員選挙であることをもしっかりと確認し合いたい。若者の力を社民党内に注ぎ込もうではないか。

五 現代世界の構造変化と「ジェネレーション・  レフト」のうねり


 さて、日本という国、と言うよりも日本の労働者・民衆にとって「21世紀の展望」はあるのか、という根本問題にわれわれは今直面している。この間、野党・市民の共同戦線を主導する位置にある山口二郎教授は、「無力感に陥りますね」とNHK特集で端的に言っている。また冒頭に紹介した辺見庸氏は、6年前に「何か他国による武力攻撃のようなことがあった場合、新しい国家主義的なものを簡単に受け入れてしまう可能性はありませんか。それに抗するバネがないでしょう。危ういものを感じますね」と言っている。

 われわれが直面する時代状況は確かに厳しい。しかし、翻って日本の歴史を考えてみる時、日本の歴史の大転換は、残念なことに一度として民衆の力で勝ちとったという経験を経ては来なかったのだ。明治維新というあの変革期は。1853年のペリー率いる黒船4隻の浦賀来航により始まった。艦隊の数発の号砲が300年にわたる徳川時代の夢を終らせた。さらに、明治以降全面展開した日本軍国主義の打倒とあのアジア・太平洋戦争の終結は、日本の民衆の力により達成されたのではなく、中国人民の反日武装闘争と、アメリカの近代的軍事力とによって実現したのである。

 このように日本の近代史を振り返ってみるならば、21世紀日本の変容は、島国一国の内部的条件変化に規定されるよりは、文字通り世界とアジアの条件変化によって作り出されていくのではないか。現代世界はまさにコロナが象徴する如く、瞬時にして連関し普遍化・一体化する時代に入った。そうした観点から、現代世界の21世紀的変容に関して簡単に2点だけ提起したい。

 第1点は、現時点で世界の最大課題であるウクライナ戦争に関してである。この戦争は年内はおろか2〜3年は続くとの厳しい分析もなされているが、戦争開始以来の動きのなかで、この戦争が「今後の現代世界の変容」にいかなる意味をもっていくのかについて一定の提起がなされている。

 この戦争勃発直後に早々と、岡田充・共同通信客員論説委員が「ウクライナ危機と世界秩序」という論稿で一つの見解を提起していた。すなわち、ウクライナ戦争はポスト冷戦時代から始まった「米一極支配の終えんと『多極化』の時代へ」という現代世界の構造変化を一気に可視化していくであろうと言う。岡田氏は、3月2日の国連緊急特別会合のロシア糾弾決議において「棄権」した35か国の顔ぶれに、アフリカ、中東、アジア、中南米諸国の他に、中国、インド、ブラジル、南アフリカの4か国が揃っていたことを重要視する。確かにそれ以降、4月7日の国連人権理事会での「ロシアのメンバー資格を停止する決議」では、「賛成93に対し反対が24、棄権58」となり賛成票は大幅に減少した。

 さらには4月20日のG20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)や、7月8日のG20外相会議(インドネシア・バリ島)において、ロシア制裁の強化を図った米国とG7の方針に対して、アルゼンチン、ブラジル、インド、インドネシア等半数の国々が同調しなかった。今や購買力平価ベースでのGDPにおいて、1位は中国で、かつG7合計38・8兆ドルに対して非G7の上位7か国の合計は45・5兆ドルと、世界経済は逆転の時代に入っている。まさしく世界史的構造変化が始まっていると見ておかねばならない。

 注目すべき第2点目は、「ジェネレーション・レフト」と呼ばれる、左派を支持する若者たちの変革の波がいま世界的に広がりつつある動きだ。6月19日のフランス国民議会選挙で、メランション党首率いる最左派「不服従のフランス」を軸に、社会党、共産党、緑の党、ジェネラシオン党の5党が共同戦線を組み、57議席から一挙に142議席へと伸長した。一方、マクロン大統領派の与党連合は100議席以上失った(極右「国民連合」は87議席)。「こうした社会民主主義的方針に期待をかける人々は、いま、フランスのみならず、他の資本主義国―アメリカやイギリスをはじめ、世界中で増加し続けている」(綿貫ゆり「変革への代替案」『世界』8月号)。

 さらに、6月19日の南米コロンビアの大統領選挙において、元反米ゲリラ出身で左派のグスタボ・ペトロ氏が勝利し、初の左派政権が誕生したことが世界的に注目されている。ラテンアメリカでは、2018年にメキシコ、2020年にボリビア、昨年はペルーで左派の大統領が誕生した。10月2日のブラジルの大統領選では左派のルラ元大統領(労働者党)が極右のボルソナロ現大統領を倒すであろうことは確実視されている。

 世界各国において、このような変革へのうねりを巻き起こしているのは、格差の拡大や気候危機等への根本的対策を求め社会運動を繰り広げてきている若い世代なのだ。3年前ではあるが、米国ギャラップ社の調査によれば、「社会主義に好意的」と答えた人は18〜29歳の若者で51%に上り、「資本主義に好意的」の45%を上回ったとの報道があった(毎日新聞)。「ジェネレーション・レフト」のうねりが日本でも広がる可能性はあるだろうか? コロナが象徴する如く、現代の人間世界には、本質「国境」は無くなりつつあるのだ。