「進歩と改革」848号    --2022年8月号--


■主張  核兵器なき世界へ―核禁条約第1回締結国会議を終えて

核兵器禁止条約による「核兵器の違法化」
 

 核兵器禁止条約第1回締結国会議が、オーストリアの首都ウィーンで6月21日開会し、23日に閉会した。核兵器禁止条約は2017年7月7日、国連加盟国の6割を超える122か国の賛成により採択された。同年12月には、同条約への貢献により核兵器廃絶国際キャンペーン(TCAN)がノーベル平和賞を受賞、同年九月からは各国による署名が開始され、2020年10月24日、50か国目の批准がなされ、条約の定めに従って、その90日後の2021年1月22日に条約は発効した。

 核兵器禁止条約は、原子力発電などでの核保有は禁じていないが、その意義は次のようにされる。「これまでも核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)など、核兵器を規制するさまざまな条約が作られてきましたが、核兵器禁止条約はこれらとは本質的に異なります。核兵器を減らしたり管理したりするのではなく、完全に禁止し、廃絶を定めているからです。核兵器保有をいかなる国にも許さず、作ること、持つこと、使うこと、使うと脅すこと、これらに協力することの一切を、いかなる状況下でも禁止しています。その根底にあるのは、核兵器は非人道的なものであるので拒絶するという発想です。国家間で軍事力のバランスをとるというそれまでの発想から、大胆に転換したのです」(川崎哲ICAN国際運営委員)。わかりやすく鮮やかな解説だ。

 核兵器はついに違法化されたのである。広島、長崎のヒバクシャが大きな役割を果たした。この条約に署名し批准をした国を締約国と呼ぶ。この条約は締約国を法的に拘束する。広島市のホームページによると、2022年6月29日現在 核兵器禁止条約の署名は86か国・地域、批准は66か国・地域である。今回の第1回締結国会議には、締結国のほかに署名だけを済ませた国などオブザーバーを含め83か国・地域が参加した。

ウィーン宣言―核兵器約のない世界への私たちの誓約


 核兵器禁止条約第1回締結国会議は、最終日、14項目の「ウィーン宣言」(核兵器のない世界への私たちの誓約)を採択した。そこでは、次のように核兵器禁止条約のもつ道徳的・倫理的要請を再確認している。その一部を紹介したい。

 1、法的拘束力のある核兵器禁止の確立は、核兵器のない世界の達成および維持にとって、したがって国際連合憲章の目的および原則の実現にとって必要とされる不可逆的で検証可能かつ透明性のある核兵器の廃絶に向けた基本的措置である。

 1、 核兵器がもたらす壊滅的な人道的影響は、適切に対処することができず、国境を越え、人間の生存と幸福に重大な影響を与え、生存権の尊重と相いれないものである。核兵器は、破壊、死、強制移住をもたらすだけでなく、環境、社会経済的持続可能な開発、世界経済、食糧安全保障、女性や少女に与える不釣り合いに大きな影響に関するものを含め現在および将来の世代の健康に、長期にわたる深刻な損害を与える。

 1、すべての国は、国際法および2国間協定に基づくそれぞれの義務に従って、核軍縮を達成し、あらゆる面で核兵器の拡散を防止し、核兵器の使用または使用の脅威を防止し、核武装国の過去の使用および実験によって生じた被害者を支援し、被害を救済し、環境被害を修復する責任を共有している。

 1、 核兵器の存在が全人類にもたらすリスクは非常に深刻であり、核兵器のない世界を実現するために直ちに行動を起こすことが必要である。これが、いかなる状況下でも核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法である。私たちには待っている余裕はない。

 この素晴らしい要請に応え、広げたい。そしてウィーン宣言は、「私たちは、核兵器使用の威嚇と、ますます激しくなる核のレトリックに恐怖を抱き、かつそれにがくぜんとしている。私たちは、核兵器のいかなる使用または使用の威嚇も、国際連合憲章を含む国際法の違反であることを強調する。私たちは、明示的であろうと暗示的であろうと、またいかなる状況下であろうと、あらゆる核の威嚇を明確に非難する」と、ロシアへの名指しを避けながら、プーチン大統領による核の威嚇を非難した。

秋葉忠利元広島市長が語る第一回締結国会議


 元広島市長(原水禁顧問)の秋葉忠利氏が第1回締結国会議に参加し、その感想を次のように語っている。ウィーンからライブ配信された原水禁代表団の現地報告である。

 「今回の会議で特にめだったのは若い世代の人たちの活躍です。原水禁の藤本共同議長からあった『高校生平和大使が、広島、長崎から来ましたと、多くの人との絆を築きあっていました』という言葉の通りです。同時に真実を知ること、伝えることは難しいことですが、しかし真実を知らないままに、悪しき慣例とか固定的な考えにとらわれて、本質を考えない人が多過ぎます。プーチン大統領が核の脅しをかけることができるのは、彼が被爆の実相について無知だからです。日本で核武装しなくてはならないという無責任な発言をする政治家たちの基礎にも、被爆の実相についての無知があります。今回、特に核兵器の使用による悲惨な状況を知っている被爆者、学者たちの証言に謙虚に向き合うことから始めなくてはならないということを感じました」。

 今回の会議に日本政府はオブザーバー参加さえしなかった。これが、戦争による唯一の被爆国・日本の実際であり、政府の姿勢である。強く批判されるべきである。核なき世界へ歩を進めなければならない。