「進歩と改革」847号    --2022年7月号--


■主張  参院選を前に憲法擁護と社民党勝利を訴える

参院選を前に憲法擁護と社民党勝利を訴える
 

 孫崎享氏が突きつける「憲法擁護」「翼賛国会」「ウクライナ和平」「日本の安全保障」

 外交評論家の孫崎享氏の講演を聞く機会を得た。「参院選争点を深堀りする―軍備増強だけではない日本の安全保障の道を探る」とタイトルされた講演会で、主催は地区の立憲パートナーズの会であった(5月28日)。立憲民主党がなぜ孫崎氏を招いての講演会か?と思ったが、代表者の挨拶では、立憲パートナーズの会は立憲民主党の下請け機関でなく、独自の行動をするのだという誠実なものであった。しかし地元選出の立憲衆院議員の挨拶は、ウクライナに侵攻したロシアに対しいかに制裁を強めるかということを得々と訴えるものであった。講演に立った孫崎氏は開口一番、「私ね、ひょっとすると今日の集会に来るべきでなかったかも知れない。国会議員の先生の話とはまったく違う話になる」と痛烈で、「憲法九条は守らなければならないというのが私たちのスタートである」とした。共感の輪が広がった。

日本国憲法は押し付けではない


 孫崎氏は憲法が危機にある現状を指摘し、「自民党は〈憲法は押し付け〉である、とくに〈憲法9条はマッカーサーが押し付けたものである〉とするが、そうではない。憲法9条は幣原喜重郎が提案したものだ」と力説した。「私たちは歴史をしっかりと受け止めねばならない」として、紹介したのが1951年5月5日の米議会上院軍事外交合同委員会公聴会でのマッカーサーの証言であるが、これはネットで検索してもヒットしないそうだ。マッカーサーは次のように言っている。「幣原首相は『長い間熟慮して、問題の唯一の解決は、戦争を無くすことだという確信にいたり、ためらいながら軍人のあなたに相談に来ました。なぜならあなたは私の提案を受け入れない思うからです』『私はいま起草している憲法に、そういう条項を入れる努力をしたい』と言った。私は思わず立ち上がり、この老人の両手をとって『最高に建設的な考えの一つだ』。私は彼を励まし、日本人はこの条項を憲法に書き入れた」。

 幣原喜重郎の著書『外交五十年』にも次のようにあるという。「よくアメリカの人が日本にやって来て、こんどの憲法というものは、日本人の意思に反して、総司令部の方から迫られたんじゃありませんかと聞かれるのだが、それは私に関する限り、そうじゃない、決して誰からも強いられたんじゃないのである」。

 憲法9条を守ろうとしている人たちの間でも、このマッカーサーや幣原喜重郎の言葉を知る人が少ないと、孫崎氏は指摘する。憲法擁護の運動に生かして行かねばならないことである。

ウクライナ和平へ動かない国会


 孫崎氏は、ウクライナ問題の和平実現へ努力することの大事さを強調した。「私たちが平和憲法を持ち、戦争をしないということであれば、言葉だけでなく、紛争の平和的解決を望んでいくということでなければならない。それが憲法九条を守るということだ」「国際紛争があったときに、一番最初にやらねばならないのは和平の道は何かを探すことだ。その時には必ず当事者両方の意見を聞くことが大事だ」。しかし、日本世論はロシア・プーチン大統領への批判で一色である。世界の論調はロシア・プーチン批判一色ではない。

 指摘されたのは、、和平実現に努力しない国会の現状への批判である。「ウクライナ問題で、ゼレンスキー大統領の意見ばかりを聞くのでなく、どうしてプーチン大統領の意見も合わせて聞こうという声が出ないのか。プーチン大統領の意見を聞いたからといって、何もその意見に従わなければならないわけではない。自分で判断すればいい。自民党と違って野党には、我われは和平を望む、和平をやるためには両方の意見を聞かねばならないと、なぜ言えないのか。ゼレンスキー大統領のオンライン国会演説へのスタンディングオベーションがおかしいと、なぜ思わないのか。国会というのは大政翼賛会の場所なのか。一つの政策を推進する場所なのか」。

 孫崎氏は「私は、いま日本は民主主義を無くしてしまおうとしていると思う。国会とは何か。国会は議論をするところであり、一つの政策を与えられて皆で起立する場所ではない」とした。 加えてマスコミの現状が指摘された。日本のマスコミの「報道の自由ランキング」は世界で71番目で、G7の中では最下位である。政府への自己規制の結果である。政府の嫌がることをマスコミは言わない。浮き彫りにされたのは野党、マスコミの責任の大きさである。

ウクライナ和平への道を探る


 「NATO諸国がウクライナにNATOを拡大しない、ウクライナ東部へ民族自決権・議決権を与えるという二つを国際社会がいま言ったら、明日にも和平に至る」。孫崎氏の言葉である。

 孫崎氏によって紹介されたのは「NATOをウクライナに拡大すべきでない」というキッシンジャーやNATO拡大を米国の致命的誤りとしたジョージ・ケナンの言葉であった。孫崎氏によると戦後米国外交で一番功績を残したのがキッシンジャー、米ソ冷戦時代の米国外交の軸を作ったのがジョージ・ケナンで、その2人の主張である。NATO不拡大はドイツ統一時に、ベーカー米国務長官などによっても約束された。孫崎氏は言う。「キッシンジャーの主張、またプーチン大統領が侵攻する前に行った演説など、どれだけの国民が知っているだろうか」「プーチン大統領の行為を正当化するつもりはないが、いまロシアへの制裁を叫んでいる人は、米国がアフガニスタン・イラクに軍事侵攻した際、米国への制裁を主張したのか」。

 ウクライナ東部へ民族自決権・議決権を与えれば和平へ至るとの孫崎氏の主張については、国民安保法制懇の場で激論があったと言う。それはロシアの軍事侵攻を正当化するとされた。孫崎氏は、国連憲章第1条で民族の自決を規定していること、東部の人たちの7割はロシア語を話していることを指摘した。詳しくは孫崎氏が緊急出版する『平和を創る道の探究』(かもがわ出版)に依るしかないが、学ぶべきは、「制裁」や「糾弾」を超えて和平への道を探求する姿勢である。同時に、孫崎氏は「外交の場は決して、自分たちの見解を100%実現できうる場ではない」と、平和実現へ「妥協」の意味を語った。妥協せず戦争を継続すれば多くの民間人、兵士が死んでいくのである。

「ウクライナ和平の実現」こそ憲法擁護の闘い


 孫崎氏の講演をつづけたい。「私は、このまま行けば今度の参院選で立憲を含め野党はぼろ負けすると思う。考えてみて欲しい。ロシアが悪い、経済制裁をしよう、制裁が十分でないということになれば軍事的に支援することになって、その政策がプラスする政党はとこか。軍事支援をするのは米国、NATOで、それと一体の政党はどこかとなれば自民党に決まっている。立憲が平和勢力であれば、ウクライナに和平を実現することが可能であるということを国民に訴えていかねばならない」と厳しく指摘された。

 この指摘を受け止め改革すべきだが、現状は遠く及ばない。例えば、今夏参院選東京選挙区の立憲公認予定候補のチラシには「ロシアに対する最大限の経済制裁を」と制裁論が強調され、また「万が一の有事に機能するよう日米安保体制を深めます」とされている。立憲綱領にある「健全なる日米同盟」はウクライナ事態によりはるか遠くに飛び去ってしまったようだ。同じく立憲民主党の衆院議員のチラシには「日本国内への侵略が起こった場合に、自衛のために確実に機能する戦力は自衛隊であるという観点から…」とあるが、日本国憲法は「陸海空その他の戦力は、これを保持しない」のである。

 「私たちが平和憲法を持ち、戦争をしないということであれば、紛争の平和的解決を探っていくことでなければならない。それが憲法九条を守るということだ」との孫崎氏の主張に心したい。

日本の安全へ「平和を創る」


 もう少し、孫崎氏の講演を紹介したい。日本の安全保障についてで、きたる参院選での大きな争点である。いまウクライナ事態に乗じて、日本の安全保障のためにと「防衛力増強論」が喧伝され、国民的支持を広げている。そのなかで「敵基地攻撃能力論」が主張されているが、孫崎氏は「敵基地攻撃を言う人に、中国や北朝鮮は何発ミサイルを持っているか聞いてほしい」と言う。「日本は敵基地攻撃で相手に何発ミサイルが打てるか、3発か5発だ。その先はどうなるか、お返しがくる。こんな馬鹿げた政策はない」。

 バイデン大統領の「台湾有事に米国が軍事的に関与する」との発言に対し、孫崎氏は「米国は絶対に出てこない。バイデン大統領はウソを言っている」と断定した。なぜウソか。「米国防省が行った中国とのウォーゲーム(図上演習)で18戦18敗という結果が出ている。これはケネディ行政大学院の初代学長で歴代国防長官の顧問を務めたアリソンが『フォーリン・アフェアーズ』(2020年3月)に書いている」。

 いま進められている「島しょ防衛」にも言及された。「島々を守るのであれば20キロや30キロの射程距離のミサイルで十分だが、配備するミサイルの射程距離は200キロから800キロ、1200キロに及ぶ。島を守ろうとしているのではない。先制攻撃をしようとしてミサイル配備を予定している。敵基地攻撃は現実問題としてあり、そのために軍備が増強されてきている」。

 「ミサイル防衛」も不可能である。落ちてくるミサイルは秒速2千から3千メ―トルの速さで、しかも相手が政治・経済・社会の中心地を狙っ場合、どこに落ちてくるか分らないから軌道計算のしようがない。軌道が計算できなければ、迎撃するミサイルを飛ばしようがない。つまり、「いくら軍事力を強化しても軍事力でわが国の安全は守れない」。ならば何をするか。「平和を創るのだ」。「北朝鮮に対しては、日本政府は〈あなた方の国及び指導者を軍事力をもって破壊する行為に参加しない〉と声明を出せばよい」「尖閣は棚上げ合意で日本の管轄を中国が承認している。これを守ればいい」。明解な主張である。参院選で訴えたい。

政党要件確保へ社民党の闘い

 6月22日公示、7月10日投票予定で参院選が行われる。本誌は社民党の勝利・前進を願っている。孫崎氏の「ウクライナ和平は実現可能だ。和平へ努力することが憲法九条を守ることにつながる」との視点からは、社民党の政策も決して十分ではない。「重点政策2022(要旨)」でも「戦争反対! ロシアのウクライナ侵攻を許すな! ロシア軍の即時撤退を求めます。『戦争』ではなく、『外交』こそが唯一の解決策」とあるだけで、ウクライナの和平実現への具体性において不足しており改善が期待される。

 しかし社民党の〈平和憲法擁護〉の姿勢は揺るぎないし、〈沖縄・辺野古新基地建設反対〉〈生活再建〉〈格差・貧困解消〉〈地球環境と人間の共生〉〈ジェンダー平等社会・多様性社会の実現〉への決意は固い。その社民党への熱い支持を訴えたい。社民党は3月の全国大会において、目標として「最低でも政党要件の得票率2%以上を確保し、さらに2議席・240万票以上獲得をめざす」ことを決定している。参院選は改憲阻止へ立憲野党の3分の1議席確保とともに、社民党にとってまさに政党要件維持をかけた闘いとなる。憲法九条が破壊されかねない重要な時期だからこそ、何としても国政政党として社民党を残さなければならないと思う。

 比例区の公認予定候補には、福島みずほ、大椿ゆうこ、宮城イチロ、村田しゅんいち、久保孝喜氏に新社会党からおかざき彩子氏が統一名簿に登載されるが、新たに元広島市長の秋葉忠利氏の出馬が決まった。村田氏は30歳、秋葉氏は79歳。若きも老いも女も男も、多彩な顔ぶれである。東京選挙区には服部良一幹事長の出馬が決まった。平和・自由・公正・連帯の社会民主主義の前進へともに歩をすすめたい。