「進歩と改革」845号    --2022年5月号--


■主張  ウクライナ事態に乗じた政治の反動・壊憲を許さない

ロシア軍のウクライナからの撤退、即時停戦・和平実現を
 

 ロシアが2月24日、ウクライナ全土に軍事侵攻した。国家の主権平等および領土保全の権利を定めた国連憲章の基本原則に違反する行為である。国連憲章は、国際紛争の平和的手段による解決をうたっている。社民党の服部良一幹事長の談話に「いかなる理由があろうとも、主権国に軍事力を行使することは国際法に違反し、断じて認められない」とあるが、本誌もこの立場を同じくし、談話を支持するものである。ウクライナ市民の犠牲、膨大な避難民の発生など戦争による惨禍が伝えられている。即時停戦を主張する。

 同時に、次のような主張にも耳を傾けたいと思う。岡田充・共同通信客員論説委員の指摘である。「ロシアによる『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』の独立承認、および両共和国への軍動員は、国際法上の侵略と断定するには根拠は薄く『グレー』だ。一方、ウクライナ全土への侵攻は、国際法が認める主権独立国家の『主権と領土の保全』の侵害であり、国連憲章にも違反する。ロシア軍は、少なくとも東部地域を除きウクライナから撤退し、ゼレンスキー政権と話し合いによる和平協議を開始すべきだ。特に民間施設への攻撃と、原子力発電所や原子力施設への攻撃は直ちに止めねばならない。一方、米国とNATOは加盟国拡大を停止し、ロシアの安全保障上の脅威を取り除く必要がある。東部2共和国への軍派遣を『グレー』とみるのは、米国政府も共有していた。米政府高官は2月21日『東部に派兵した場合侵攻とみなすか』と聞かれ、ロシアは2014四年からこの地域を占領しているとして『新たな措置ではない』と説明していた」(「海峡両岸論」136号・22年3月12日)。

 ロシア軍のウクライナ全土侵攻から1カ月以上が経ったが、いまだ戦火は止んでいない。報道によれば3月29日の停戦協議で、ロシア側は「ウクライナの軍事的中立化に関する進展があった」とし軍事行動の大巾縮小を表明、ウクライナ側は「ウクライナの安全を確約する新たな国際条約の締結を提案した」とされている。ウクライナの中立化が和平の鍵である。今後に不確定要素とされているのが、ロシアが独立承認を要求する「東部2共和国」であるともされている(3月30日、『朝日新聞』)。中立化でウクライナ軍と東部2共和国軍との戦闘も終止符を打てないか。即時停戦・和平の実現へ、世界の声を寄せ合いたい。

許せない安倍元首相の「核共有」発言、非核3原則破壊めざす政治反動の時代に


 ウクライナ事態に乗じて、憲法を破壊する動きが強まっており、これは許せない。一つは、プーチン大統領の「核兵器威嚇」発言に応じて発せられた安倍晋三元首相の「核共有(ニュークリア・シェアリング)」発言である。安倍元首相は2月27日、TV報道番組で、「NATO(北大西洋条約機構)でも核共有をしている。自国に米国の核を置き、それを落としに行くのはそれぞれの国が行う。非核3原則があるが、議論していくことをタブー視してはならない」とした。これに自民党や日本維新の会が共鳴している。自民党の福田達夫総務会長は「議論は回避してはならない」とし、維新の松井一郎代表も「議論するの当然だ」とした。加えて、国民民主党の玉木雄一郎代表も「『核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず』の非核3原則のうち、『持ち込ませず』の妥当性について議論すべきだ」と発言している。

 岸田首相は、「非核3原則を堅持するという立場から考えて、(核共有を)認められない」とした。また、「唯一の戦争被爆国、とりわけ被爆地広島出身の首相として核による威嚇も使用もあってはならない」ともして踏みとどまっているが、「敵基地攻撃論」容認には前向きだ。1967年12月、当時の佐藤栄作首相が国会で初めて表明し、71年11月に衆議院決議された非核3原則を破壊しようとする政治反動の時代が到来しているという現実は重い。ヒロシマ、ナガサキ、ビキニの原点をもち、原水禁・核なき世界をめざしてきた日本の民衆の闘いの歴史を葬り去り、核抑止・相互確証破壊の論理に引き寄せられることを認めるわけには行かない。

「戦力不保持・交戦権否認の憲法」改正へ、まず「非核3原則を見直せ」と櫻井よしこ氏


 「岸田政権は国防政策を大転換せよ」、こう主張する櫻井よしこ理事長の国家基本問題研究所の新聞広告が、『読売新聞』(3月4日)に掲載された(他に『日経』『産經』)。意見広告は、「ウクライナの主権がロシアの武力で踏みにじられています。力のみを信奉する相手には、力でしか対抗できない厳然たる現実を私たちは見ています」「日本は中国の脅威にも直面しています。日本の主権を守り抜くために、戦力不保持と交戦権否認の憲法を改正しなければなりません」と露骨であり、そこに至る道として、@防衛費をGDP比2%以上に増額する、A中距離ミサイルを含む攻撃力を保有する、B米国との「核共有」の実現など非核3原則を見直すことを要求している。まさにウクライナ事態に乗じて憲法を破壊しようとする策動であり、非核3原則見直しの行く先を示している。

 ロシアのウクライナ侵攻で高まっているのが、「ウクライナの次は台湾だ」という中国脅威論である。しかし、ウクライナの事態に即して言っても、これはおかしい。東部2共和国の独立支援のために軍事侵攻したのがロシアであり、台湾問題に照らせばロシアに位置するのは米国日本となろう。安倍元首相は、「台湾有事は日本の有事」と言っている。そう実際に思うのであれば、「中国と断交し台湾を再び国家承認すると主張すべきだ」が、「そんな展望があるのか」と指弾されている。その通りであろう。国交正常化50年の今年に、日中間で結ばれた歴史文書を尊重することで友好関係が築かれるはずだ。

 岸田政権は、「国家安全保障戦略」「「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」(戦略3文書)について、今年末までの改定を目指している。ウクライナ事態を利用した日本の一層の軍事大国化を防がねばならない。