「進歩と改革」844号    --2022年4月号--


■主張  東日本大震災・福島第一原発事故から11 年に

 『福島』の記憶 風化進む」と全国世論調査


 2010 年3 月11日の東日本大震災から11年を迎える。大震災直後の福島第一原発の過酷事故からも11年である。復興の10年を過ぎた今年も、3・11企画の新聞記事からは、避難先から帰還する人が少なく伝統芸能を継承・維持できない地域事情、家族・友人を亡くした悲しみの中で今日まで歩んできた様ざまな人間模様が浮き彫りにされている。

 そのなかで、『毎日新聞』(2月24日)が「『福島』の記憶 風化進む」との全国世論調査「日本の世論2021 」(毎日新聞と埼玉大学社会調査研究センターが実施)を報道し注目された。ここでの「福島の記憶」とは、「福島第一原発事故」のことで、昨年3月11日の調査によるものである。回答者の52%が原発に「関心を持ち続けている」と答え、「関心が薄れている」が37%、「もともと関心がない」が11%であった。年代別では、50代の50%、60歳以上の65%以上が「関心を持ち続けている」が、30代以下では「薄れている」が「持ち続けている」を上回り、18歳〜29歳では「もともと関心がない」が約3割に達したという。福島第一原発事故の風化を許さない取り組みへ決意が迫られている。

 元首相5人が「脱原発・脱炭素」を求める書簡をEUへ


 そうした状況下の1月27日、元首相の5人がウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長宛に「脱原発・脱炭素は可能です―EUタクソノミーから原発の除外を―」との書簡を出した。5人の元首相とは、小泉純一郎、細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市の各氏である(順不同)。書簡全文を紹介しよう。

 「欧州委員会が、気候変動対策などへの投資を促進するための『EUタクソノミー』に原発も含めようとしていると知り、福島第一原発事故を経験した日本の首相経験者である私たちは大きな衝撃を受けています。

 福島第一原発の事故は、米国のスリーマイル島、旧ソ連のチェルノブイリに続き、原発が『安全』ではありえないということを、膨大な犠牲の上に証明しました。そして、私たちはこの10年間、福島での未曾有の悲劇と汚染を目の当たりにしてきました。何十万人という人々が故郷を追われ、広大な農地と牧場が汚染されました。貯蔵不可能な量の汚染水は今も増え続け、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ、莫大な国富が消え去りました。この過ちをヨーロッパの皆さんに繰り返して欲しくありません。

 原発推進は、気候変動から目を背けるのと同様に、未来の世代の生存と存続を脅かす亡国の政策です。私たちは福島第一原発の事故後、国内外の専門家、研究者の調査、研究によって原発が安全でもなく、クリーンでもなく、経済的でもないということを明確に認識しました。私たちは真に持続可能な世界を実現するためには脱原発と脱炭素を同時に進める自然エネルギーの推進しかないと確信します。

 そして『EUタクソノミー』に原発が含められることは、処分不能の放射性廃棄物と不可避な重大事故によって地球環境と人類の生存を脅かす原発を、あたかも『持続可能な社会』を作るもののごとく世界に喧伝するものです。もし、原発への投資にEUがお墨付きを与えることになれば、委員長の掲げられる欧州版グリーンディール政策の本質とも相反し、EUのみならず世界中の人々の将来に取り返しのつかない巨大な負の遺産を背負わせてしまうことになるでしょう。

 福島第一原発事故直後、ドイツのメルケル政権の脱原発への決断は刮目に値するものでした。私たちはその英断を高く評価します。今また、ヨーロッパの皆さんが人類の持続可能な未来を紡ぐ決断をなされんことを切に願います」。

 「EUタクソノミー」とは、EU(欧州連合)が定めた環境に配慮した経済活動かどうかを認定する基準で、タクソノミーとは「分類」ということである。そこに原発が含まれようとされ書簡が送られたのである。この書簡を取りまとめたのは「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)であり、脱原発運動に対する大きな貢献である。

 『書簡』を批判する政府・自民党、維新は「反論」にどう答えるのか


 福島第一原発事故の影響で、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいると指摘したこの書簡に対し、2月1日、山口壮環境相が「誤った情報を広めている」と抗議文を送った。岸田首相も翌日、国会で書簡は「適切ではない」と批判し、高市自民党政調会長も同様の見解を示した。政府・自民党に加え、日本維新の会が国会での「非難決議を要求」と報道される(『読売新聞』2月17日)など原発推進派からは非難の大合唱である。「脱炭素」を理由に原発を推進しようとし、原発のイメージダウンを回避したいという思惑が露骨である。

 しかし、日本の原発マフィアを構成するこのメンバーは、原自連の次の「反論」(環境相の抗議に対して取りまとめた『抗議兼質問書』)にどう答えるのか。「福島原発事故前は、年間100万人に1人か2人の発症しかなかった小児甲状腺がんが、事故から10年で、事故当時福島県内で18歳以下だった38万人の中で既に266名の発症が判明している。その内、222名が甲状腺摘出手術を受けている」。

 書簡が発表された同日、原発事故の影響で「小児甲状腺がん」に罹り、摘出手術を受けた、事故発生当時6〜16歳で福島県に在住していた6人が、計6億1600万円の損害賠償をもとめて東電を訴えた。このような訴えは初めてで、大きな意義がある。子どもたちをしっかりと応援したい。(2月28日)