「進歩と改革」842号    --2022年2月号--


■主張  「原発推進」を打ち出した岸田首相の施政方針演説  

 在日米軍基地からオミクロン株が拡大しても、「水際対策」を誇る岸田首相


 第208通常国会は1月17日に召集され、岸田文雄首相が初の施政方針演説を行った。演説では、「岸田政権の最優先課題は、新型コロナ対応」「『信頼と共感』の政治姿勢を堅持しつつ、まずは、新型コロナに打ち克つ」とし、「これまで政府は、G7で最も厳しい水準の水際対策により、海外からのオミクロン株参入を最小限に抑えてきました」と誇った。しかし、これは一体、どこの国の話なのか。いま日本ではオミクロン株感染が広がり、34都道府県にまん延防止措置が適用されているが、最初に措置されたのは沖縄、山口、広島の3県であり、いずれも米軍基地周辺での感染拡大が際立った。米兵の出入国の際、PCR検査を実施していなかったからである。米軍に特権的地位を与える日米地位協定の抜本的改定が求められるが、岸田首相の発言は「在日米軍の駐留に関わる保健・衛生上の課題に対し、地位協定に基づく日米合同委員会において、しっかり議論していきます」と、無責任極まりないものであった。

 3・11から11年を前に「原発推進」とは


 施政方針演説では「新しい資本主義」が主張され、敵基地攻撃や憲法改正などにも触れられた。この〈主張〉で取り上げたいのは「気候変動問題への対応」で、2050年カーボンニュートラルの目標実現に向け、「クリーンエネルギー戦略」を取りまとめること、そこで「送配電インフラ、蓄電池、再エネはじめ水素・アンモニア、革新原子力、核融合など非炭素電源」に方向性を見出していくとしたことである。非炭素の電源として「革新原子力」が明記され、要は原発推進が打ち出されたのである。岸田氏は、自民党総裁選で、「原子力は大切な選択肢だ。将来的に小型炉、核融合に繋げていくことだ」としていた。しかし、自民党総裁就任後の第205臨時国会、総選挙後の特別国会を経た第207臨時国会での所信表明演説では、原子力・革新原子力に言及されることはなかった。だが、3・11東日本大地震と福島第一原発の過酷事故から11年を前にした施政方針演説で、原発推進のホンネを大きく打ち出した。

 「革新原子力」の代表・小型モジュール炉開発に群がる原子力ムラ


 「革新原子力」とは何か。余りなじみのない言葉だが、ネットで検索するとさまざまにヒットする。原子力技術は発電や発電以外にもイノベーションが進められているが、革新的原子力技術の代表が「小型モジュール原子炉」で、SMR(Small Modular Reactor)と呼ばれるという。「小型にすると原子炉が冷えやすくなる。実現すれば、安全性が高まり、原子炉全体を簡単な構造にすることができ、メンテナンスしやすくなる。その結果、コストの削減ができ、経済性も向上する」「モジュールは、モジュール建設、いわゆるプレハブ建設をイメージすると分かりやすい。工場で組み立てユニットまで作り、現地で積み立てる。自然条件に左右される現地でゼロから作るより高い品質で短い工期、コスト低下が実現できる。原子炉は全体がプールや地下に埋められる」と宣伝されている。メリットとして、安全・信頼。多様・低コストが主張されているが、核のゴミが出ないとは当然、書いてない。

 『月刊FACTA』(21年12月号)が、次のように指摘している。「SMRを前面に掲げた原発重視路線は10月12日に公表された自民党の政権公約にも盛り込まれた。・・・10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画』でも『小型モジュール炉技術の国際連携による実証』が謳われ、SMR推進へのレールが敷かれていった」。高市早苗政調会長は、「地下式原子力発電政策推進議員連盟』の顧問である。しかし「(小型モジュール炉の)ネックとなるのが『経済性』と『安全規制』だ。コストを下げようとすれば安全システムを切り詰め、なおかつ100基を超える大量の需要がなければ成り立たない。また『安全規制』体系の再構築が必要となり、許認可にかかる負担は増大する」「ノーベル賞受賞者も参加する『憂慮する科学者同盟』は2013年、早くもSMRブームに警鐘をならしている。『小さいことは必ずしも美しくない』と題するレポートは、提案されている原子炉がいずれも『格納容器』の構造が弱く、『安全性が検証されていない』と主張する。また『コストを下げられるかどうかは現行の〈安全規制〉を緩めるようNRC(米国原子力規制委員会)を説得できるかどうかにかかっている」(同)とした。

 小型原子炉を切って捨てた河野太郎氏、「原子力は選択肢たりえない」と原子力資料情報室声明


 自民党総裁選で、小型モジュール炉をバッサリ切って捨てたのが河野太郎氏であった。「『小型原子炉は割高でコスト的に見合わない。核のゴミも出てくるし、作っても日本のどこに設置するか。立地できるところはない。これは消えゆく産業が最後にあがいている。そういう状況だ』。原子力ムラの機関誌ともいえる『エネルギー・レビュー』(11月号)は『河野氏落選で日本の岐路脱出へ』との記事を掲げ、『固唾をのむ』ような総裁選で、岸田総理・総裁が誕生したことに『ほっとした』と論評した」ともある。自民党総裁選での河野落選の一つの背景と原子力ムラの悪辣さがよく分かる記事である。SMR開発の先頭をゆくのはアメリカだが、そこへ日本企業が出資し、またGE日立、東芝が小型原子炉を開発中である。

 最後に、原子力資料情報室の声明を紹介しておきたい。「小型原子炉が普及した場合、IAEA(国際原子力機関)の新設炉の目標である10万炉年に1回の頻度で過酷事故が発生すると想定しても、小型という名前通り、小さな原子炉を数多く設置することになるので、事故頻度が大幅に低下するわけではない。・・・原子力は到底、選択肢たりえない。迫りくる気候変動という危機に対して、無駄に費やしている時間はない」。「聞く力」をもつという岸田首相は、この声を聞くべきだ。