「進歩と改革」842号    --2022年2月号--


■主張  憲法施行75年、日中国交正常化・沖縄本土復帰50年に  

 「憲法改正も本年の大きなテーマ」と岸田首相の年頭所感


 新しい年は、日本国憲法が施行されてから75年である。昨年亡くなったノンフィクション作家の半藤一利氏は、保阪正康氏とともに「憲法を百年いかす」「百年もてば不戦は強固な国家意思になる」と主張されていた。100年までにはあと25年あるが、いま「新たな冷戦」とされる時代に自民党・改憲勢力によって憲法改正の動きが急である。今年元旦の『産経新聞』が〈さらば「おめでたい憲法」よ〉と改憲を煽っている。「『台湾有事』がごく近い将来起きる可能性は、かなりある」。台湾在留邦人や尖閣を抱える先島諸島住民が危ないという。「憲法や現行法が有事対応の邪魔をしているのであれば、改めるのが政治家の使命である」。台湾有事を仕掛けているのは米国である。その戦争に備えよと言うのか。

 昨年10月の総選挙で、自民党が絶対安定多数を確保し、連立する公明党も議席増、維新が躍進することによって、この3党で、改憲発議可能な衆議院3分の2議席を優に突破した。維新の松井代表は総選挙後、「来年の参院(選挙)までに改正案を固め、参院選と同時に国民投票を実施すべきだ」とし、維新との連携をめざす国民民主党は改正反対の立場にはあるものの、憲法審査会開催を主張して野党国対を離脱、総選挙後初めての衆院憲法審では与党側の幹事懇談会に出席した。

 岸田首相は、こうした国会情勢に力を得て、元旦の『産経新聞』の〈新春対談〉では「私が首相になってすぐの国会で憲法審が動きだしたことは歓迎すべきこと」「憲法の議論は国会の議論と、国民の理解が車の両輪。国会の議論がいよいよ主戦場として動き出したので、しっかりと頑張ってもらう」と、国会での改憲発議へ意欲を示している。年頭所感では憲法改正を「本年の大きなテーマ」とした。今年7月予定の参議院議員選挙での改憲阻止議席の確保が決定的に重要な局面にある。力を尽くしていこう。

 「敵基地攻撃」と「防衛費増」へ進む自民党・岸田政権


 9年近くの安倍政権では、特定秘密保護法、戦争法での集団自衛権の行使容認をはじめ憲法の破壊がとことん進んだ。つづく菅政権では、学術会議「任命拒否」問題で学問の自由が押しつぶされ、いま岸田政権は「敵基地攻撃の検討」を表明している。第207臨時国会施政方針演説(12月6日)で「敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化します」とされたのだ。

 敵基地攻撃論は、第1に、憲法9条との亀裂が決定的になる。北朝鮮はもとより東北アジア大部分の軍事施設を直接攻撃できる先制第1撃用兵器が自衛隊の手にわたる。第2に、「専守防衛」という現実の自衛隊活動を統制してきた防衛政策上のしばりも消滅する。第三に、日米安保協力の分野に大きな変化が起きる。日米軍事組織の役割分担は「米軍=矛・自衛隊=盾」であった。これは戦争法成立によって大きく変化してきているが、敵基地攻撃によって自衛隊は一段と盾=先制攻撃の任務と能力を行使するようになる。自衛隊が米国の対中戦略を担い、日中関係は緊張する(前田哲男、『敵基地攻撃論批判』)。

 自民党は総選挙政策で、次年度からの防衛費を対GDP比2%以上にすることを公約した。対GDP比2%以上の防衛費で日本は米国、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になるという(半田滋、『週刊金曜日』10月29日)。これには、安倍首相当時の米国製兵器「爆買い」など過去のツケ払い経費が多額にのぼり、防衛費増が迫られている理由もあるという。安倍元首相の尻ぬぐいである。敵基地攻撃「装備」が、防衛費の増加を加速し、社会保障費の削減に直結する。岸田政権の軍拡の道を断ち切り、国民の暮らしを守る政治こそ実現せねばならない。憲法25条の生存権保障の闘いの強化が求められている。

 糾弾すべき安倍暴論、「日中共同声明」の精神に立ち友好・親善を


 米バイデン政権は、台頭する中国を「唯一の競争相手」とし、それに勝つため「同盟再編」と「多国間協力」を推し進めてきた。米国が重視するのが台湾との関係強化、台湾海峡周辺での共同軍事演習であり、中国との緊張を高め、対中軍事包囲網へ日本を組み込もうとしている。昨年4月のバイデン・菅首脳会談後の共同声明では、台湾海峡への日米の関与がうたわれ、そのために日本の防衛費増が約束された。

 日本における反中国のトップランナーが安倍元首相である。安倍氏は先に「台湾有事は日本有事とおなじこと」と講演して突出し、また「北京冬季五輪への外交ボイコットを早期に表明せよ」と岸田首相に迫ってきた。反中国の露骨な姿勢を改めて示したのが元旦の『読売新聞』においてである。「今年最大の焦点は、台湾情勢です。中国に現状変更の試みをやめさせる努力が欠かせません」「台湾有事となれば、沖縄・尖閣諸島も危機にさらされます」「フロントライン(最前線)はインド太平洋地域に移りました。今、領土を奪われる危険にさらされているのは日本です」とし、ミサイル防衛では効果がなく長射程巡航ミサイル配備など「打撃力強化」に努めるべきだとする。そして、米軍と自衛隊の共同軍事行動のために「敵基地攻撃能力の保有は必須」と明言している。まさに憲法無視、言いたい放題の極右の暴論である。

 今年は日中国交正常化50年。中国脅威・台湾危機論に基づく日米軍事一体化・改憲を阻止するために、日中両国の友好・親善を勝ち取らねばならない。その基本に据えるべきは、日中共同声明にうたわれた精神(日本が戦争責任を痛感、台湾は中国の領土の不可分の一部という立場を理解、紛争の平和解決、反覇権)である。先の安倍発言には、日中共同声明への言及が一言もなく異常だ。今年は沖縄の本土復帰50年でもある。台湾有事を理由に沖縄、また南西諸島の軍事拠点化が一段と強まろうとしている。辺野古新基地建設阻止の課題とともに、「基地のない沖縄」へ前進するためにも日中友好を実現したい。