「進歩と改革」838号    --2021年10月号--


■主張  「共同テーブル」のキックオフに寄せて  

 
 「いのちの安全保障確立に向けて―非正規社会からの脱却宣言」


 総選挙が迫る中、「いのちの安全保障確立に向けて―非正規社会からの脱却宣言」の理念を共有する「共同テーブル」が発足した。 共同テーブルの発起人を代表して評論家の佐高信さんが「脱却宣言」を起草している。共同の軸となるものであり、今の時代を突く大事な内容なので、そっくりそのまま紹介したい。

 32歳で急逝した歌人、萩原慎一郎が「非正規という受け入れがたき現状を受け入れながら生きているのだ」と歌った。彼は「箱詰めの社会の底で潰された密柑のごとき若者がいる」とも歌ったが、非正規があたり前のようになっているこの社会の異常さは、格差拡大や、沖縄への軍事基地の押しつけや、歯止めなき環境破壊となって噴出している。なしくずし改憲への動きもその一つである。

 日本国憲法には理念があり思想がある。「戦争はすべてを失わせる。戦争で得たものは憲法だけだ」と城山三郎は言った。非正規社会からの脱却をめざす革新勢力の結集の軸に私たちは憲法の理念の実現を据える。それをあいまいにして結集しても、腐敗した保守勢力(公明党、維新を含む)に傾斜するだけである。

 原爆を落とした加害者のアメリカに追随し、被害者となった中国を敵視するのでは、憲法に基づく平和外交を展開できない。どんなに困難であっても、アメリカと中国双方に等距離の位置から、できるだけ、国家の水位を低くする努力を積み重ねる必要がある。

 そして喫緊の課題の脱原発である。主にこの3つの立場を明らかにして、新たなるプラットホームを形成したい。

 社会民主党は「革新勢力」が「分裂や対立を繰り返してきた」ことを反省し、「新社会党や緑の党をはじめ基本政策が一致する多くの政党・政治団体・市民団体と日本を変えるためにネットワークを強化する」と表明したが、それを実現するために新たなるムーブメントを起こしたい。端的に言えば、いのちの安全保障確立へ向けて非正規社会からの脱却をめざす運動を起こすということである。

 共同へ向けた社民党の立場の表明は、今年2月の全国代表者会議で行われた。共同テーブル発起人の記者会見が8月18日に行われ、同28日、シンポジウムが開催されキックオフした。東京・星稜会館を会場としたが、オンライン参加を基本として全国各地・各分野から発言され結びあった。

 憲法理念の実現を結集軸に「非正規社会からの脱却」「平和外交」、そして「脱原発」を


 「いのちの安全保障を考える―共同テーブルからの提案」と題されたシンポジウムで、佐高氏は次のように挨拶した。「今年7月、大阪での集会で″オリンピックを止められないなら戦争も止められないのじゃないか?”と発言した。後で参加者から“ドキッとした”と言われたが、、これが今の私の実感だ」「新自由主義で非正規雇用を拡大した結果、企業の内部留保は四七五兆円に上る。企業と労組が結託してつくったもので、これは連合敗北の数字ではないか。萩原慎一郎の歌集を出版する際、出版社が付けた見出しが“連合会長が耳を傾けるべき悲鳴のような歌”というものであった。いのちの安全保障の観点で、重心を低くし生活に視点を据えて勝負していく野党が必要だ」。佐高氏の強い危機感が実感された。

 パネリストの発言は多彩であった。憲法問題では植野妙実子(中央大学名誉教授)、非正規雇用問題は竹信三恵子(和光大学名誉教授)、沖縄・平和問題は山城博治(沖縄平和運動センター議長)、原発問題は福島県出身の神田香織(講談師)の各氏から発言された。なかで植野教授は「コロナ対策においても、アルガン問題においても、それが憲法改正の言い訳にされようとしている。コロナでは国家緊急権がないから対策が進まないとされ、アフガンでは軍がないから邦人救出ができないと言われる。日本国憲法にうたう絶対平和主義は軍や戦力によらないで平和を確立することを明示している。この基本原理を守っていかねばならない」とした。山城氏からは、沖縄県の宮古、石垣、与那国の先島諸島での自衛隊基地建設が、台湾問題での米中対立に対応する動きであることが公然と宣伝される緊迫した現状が報告された。台湾問題を契機とする戦争の危機の指摘は決定的に大事である。山城氏は、「この共同テーブルが大きく広がり、具体的な政治変革につながる発信主体となることを願っている」とアピールした。

 シンポジウムでの社民党、新社会党、緑の党


 連帯あいさつは社民党・福島みずほ党首、新社会党・岡崎宏美委員長、緑の党・漢人あき子運営委員(東京都議)から行われた。福島氏は「人のいのちが軽視される政治を変えたい。私たちに共通項は多い。テーブルを囲んで議論し、政策提言し、運動をするために努力したい」、岡崎氏は「今の時代を変え、次の時代に責任を持つのが統一名簿方式だと受け止めている。立憲野党内に第三極の形成を」、漢人氏は個人的立場であったが、「よびかけに敬意を表す。今後、他の野党へのよびかけを期待したいし、市民運動との連携が必要だ。気候危機とジェンダー平等へ取り組むことが大事」とした。また、「統一名簿方式での共同には大きなハードルがあり、党内の議論も十分でない」と、距離感を示した。当日は、〈地域にも共同テーブルを〉との視点から、「共生連帯・近畿」から発言されたが、なかで『人新世の「資本論」』の著者である斎藤幸平氏が共同テーブル近畿のよびかけ人になることが決まったとの報告がされた。

 司会を務めた白石孝氏(NPO法人官製ワーキキングプア研理事長)によれば、共同テーブルに対しては「小さなところが集まって何ができるのか」という批判や揶揄があるという。しかし白石氏は、「そういう員数合わせの政治を変えることこそ我々の目指すものである」とする。その主張に同感し、きたる総選挙、来年の参院選を通しての共同テーブルの前進を期待したい。