「進歩と改革」836号    --2021年8号--


■主張  通常国会閉会と東京五輪・パラリンピックの強行閉会  

  国民投票法改正案・土地調査規制法が成立、4野党は菅内閣不信任案を提出

 第24通常国会は6月16日に閉会した。立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社会民主党の野党4党は党首会談で国会会期の大幅延長を求めることで一致したが、受け入れられず、菅内閣不信任案を衆議院に提出した。 自民党、公明党、日本維新の会などによって否決されたが、野党の一致した姿をアピールすることとなった。先に衆議院で可決された憲法改正国民投票法改正案は、6月9日に参議院憲法審査会、11日に参院本会議で可決され、成立 した。国会前では総がかり行動実行委員会をはじめ強い抗議の声を挙げた。今後に取り組みが引き継がれ強められなくてはならない。

 国会閉会の16日深夜に強行成立したのが重要土地調査規制法案である。この法案は「自衛隊や米軍の基地などの他、原発といった『国民生活関連施設』の『重要施設』の敷地周囲約1キロ以内や国境離島を『注視区域』 に指定し、政府は『区域』内の土地や建物の所有者や利用者の氏名など『政令で定める事項』を調査できる」(「社会新報」6月2日)ものだ。沖縄をはじめ基地反対運動、原発反対の市民運動を監視し思想信条の自由を奪う憲法違 反の人権侵害法案に他ならない。ジャーナリストの青木理氏によれば、この法案は特定秘密保護法や共謀罪法、あるいは通信傍受法の大幅拡大などと同様で、「治安法が続々と整えられていく」(「サンデー毎日」7月4日号)ことになった。

 「五輪・パラ中止」へ宇都宮けんじ氏の主張


 東京五輪(7月23日〜8月8日)・パラリンピック(8月24日〜9月5日)が予定されている。五輪について思うのはその商業化とともに、開催都市・東京を首都とする日本がもつ資質、唱える理念への疑問である。そもそも 安倍前首相の「アンダーコントロール」というウソ発言で招致に成功した五輪だが、竹田恒和JOC(日本オリンピック委員会)会長の招致活動における賄賂疑惑が露呈し、森喜朗組織委員会会長の女性蔑視発言など汚辱にまみ れて経過してきた。当初、東日本大震災からの「復興五輪」が謳われたが、いま「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」としての五輪が強調されている。しかし人類も日本もコロナに打ち勝ってはいない。10都道府県に拡大 した第3次緊急事態宣言は、沖縄を除いて解除され、うち7都道府県でまん延防止等重点措置に移行したが、首都圏でコロナ感染が再拡大し、五輪期間中の第5波到来さえも予測されている。そうしたなかで開催される五輪に反対し、 また延期を求める声は強い。開催中止を求めオンライン署名をはじめた弁護士の宇都宮けんじ氏は次のように主張している。

 〈命や暮らしを危険にさらしてまで東京五輪を開催すれば「平和の祭典」であるはずの五輪は、その理念から大いに逸脱することになる〉〈出身国によって、満足のいく準備をまったくできなかったアスリートとそうでない アスリートのあいだに、多大な格差が生じる〉〈東京五輪・パラリンピック開催のためには、大勢の医療従事者の方々、また医療施設や医療設備などの貴重な資源などのリソースを割かなければならないが、現在の東京都および日本全体にその余裕はまったくない〉〈外国からの観客を制限したところで、五輪は大規模な人の移動と接触を引き起こし、感染状況が悪化することは大いにありうる〉

 そして、〈新型コロナ感染症により……とりわけ、非正規雇用で働くことの多い女性・若年層・老年層の暮らしは、わずか1年たらずで劇的に悪化した。このような状況のなか、五輪の延期にともなう追加費用は3000億 円にも上った(経費総額は1兆6440憶円)。東京五輪は一刻も早く開催中止を宣言し、窮乏にあえぐ人々に資源を割くべきではないか〉と主張されている。宇都宮氏は反貧困ネットワークの代表世話人でもある。その立場から提起されたもので、共感の声が広がってきた。

 「スポーツ界から発信を」と佐伯年詩雄教授の主張


 東京五輪・パラリンピックについては「中止するのは頑張ってきた選手がかわいそう」「五輪でしか注目されない競技がある。ぜひ開催を」という声があり、支持する意見も聞こえる。この点で注目したいのは、日本 ウェルネススポーツ大の佐伯年詩雄教授の主張である(「朝日新聞」6月12日)。そこでは〈開催の是非、人任せにせず、スポーツ界から発信を〉のタイトルで「五輪・パラリンピックがスポーツの祭典であるなら、東京大会を開催 するかどうかはスポーツの問題であり、スポーツが決めねばなりません」「中止で選手がかわいそうという同情論もありますが、選手を利用した失礼なものです。アスリート自身が議論を深めて、自分の考えを表明すべきです」 「スポーツの側から『やめましょう』と言い出すことが極めて重要だと考えます。政府やIOC が『開催できない』と判断することと、その前にスポーツ人が自らの意思を示すことは大きく違います。社会の理解を得られないまま開 催に突っ込めば、『なぜ開催したのか』と後世にわたって問われ続けるでしょう。開催の是非について、なにも語らなったスポーツ界が信頼を取り戻すのは並大抵のことではないはずです」とされている。スポーツ関係者から発せ られたこの発言は貴重である。

 6月21日、大会組織委員会は政府、東京都、IOC 、IPC (国際パラリンピック委員会)との5者会議を開き、「上限1万人」との「五輪有観客方針」を決定し、強行開催へ踏み出した。「無観客」の場合もあるとするが、 五輪を政治利用し政権延命をかける菅首相の姿勢が鮮明となった。

 菅首相「自民党総裁任期中の衆院解散」を言明


 菅首相は、国会閉会後の記者会見で、9月末までの自民党総裁任期中に衆議院を解散する考えを示した。それを受けた「読売新聞」(18日)は、次のよう に報道した。「首相の念頭にあるのが、東京五輪・パラ閉幕後の9月だ。最有力シナリオは、9月上旬の臨時国会の冒頭解散で、投開票日は10月10日か同17日が軸となる」。ところが10月9日(土)、10日(日)に北海道で 第44回育樹祭が開催され、そこに天皇が出席するという。昭和の時代から、天皇が出席する大きな行事として春の「全国植樹祭」と夏の「国民体育大会」があり、それに加えて平成からは「全国豊かな海づくり大会」が加わり、 「三大行幸啓」とされてきた。令和の時代もそれが引き継がれているのだろうが、今年5月、島根県大田市の三瓶山で開かれた全国植樹祭は、天皇皇后はコロナ禍によって式典会場に出席せず、オンライン参加となった。それだ けに10月の育樹祭には参加したいということであろうか。そこで10月10日投票が制約されている。

 10月3日(日)説も主張されている。毎日新聞客員編集委員の倉重篤郎氏である。「実際の首相の腹は、9月5日のパラリンピック閉会式を受け6日に衆院解散を表明、9日に臨時国会を開き解散、21日公示、10月3日投票 だと言う。菅氏に近いジャーナリストの田崎史郎氏によると、これは『ホップ(都議選で自民党が第1党に復活)、ステップ(五輪開催で政権に求心力)、ジャンプ(衆院選で自民単独過半数)」で、総裁選で無投票再選を乗り切る 戦略とのこと」だそうだ(「サンデー毎日」7月4日号)。

 もちろん三段跳びに成功する補償はない。「読売新聞」(6月18日)は「首相が解散に踏み切れない状況に追い込まれる可能性がある」とする。五輪をきっかけにコロナ感染が拡大し、自民党内から批判が高 まったときだ。「この場合、衆院選より前に総裁選を9月中に実施。ワクチン接収の広がりに反転攻勢の望みを託し、10月21日の衆院議員の任期満了に伴う、11月の衆院選が選択肢となる」とするが、総選挙前の自民党総 裁選に菅氏は勝てるのか。ワクチン接種と五輪開催に政権延命を賭け細い綱を渡ろうとするりする菅首相である。いずれにしても総選挙がやってくる。準備と体制確立に努め、社民党の前進、立憲野党の共闘強化で、安倍 政治・安倍後継の菅政治からの転換を実現したいものである。(6月30日)