「進歩と改革」833号    --2021年5月号--


■主張  核のない北東アジアを! ― 社民党PTがスタート

 3月30日、山城博治氏(社民党全国常任幹事)が座長の社民党北東アジア平和構築プロジェクトチーム(PT)が発足し最初の企画「核のない北東アジアを!」が衆議院第二議員会館で開催された。当日は、福島みずほ党首の挨拶につづいてパネリストの金光男・韓国問題研究所代表が「米 バイデン新体制と朝鮮半島和平の展望」、湯浅一郎・ピースデポ代表が「なぜ今、北東アジア非核兵器地帯か」と題した講演を行い討論が交わされた。山城氏がコーディネーターを務め、米兵からの性被害を告発するオーストラリア女性のキャサリン・ジェーンさんから特別アピールが行われた。2時間という短い時間であったのは残念だが、内容の濃い企画となった。ここでは金光男氏の講演と問題提起を取り上げたい。

 金光男・韓国問題研究所代表による「米バイデン新体制と朝鮮半島和平の展望」


 「東アジアがますます不安定かつ危険な状態になっている。米バイデン新政権の『中国が最大の脅威である』という外交政策とその構想に基づいて米国、日本、インド、オーストラリア四か国の非公式な安全保障協議体(クアッド)が稼働したからだ。しかし何より危険なのは、1953年に休戦した朝鮮戦争が71年間停戦状態にあることで、北朝鮮核問題をめぐって周辺国との間に激しい対立が生じている」

 「韓国の文在寅政権は、『朝鮮半島平和プロセス』構想の実現をめざしている。これに基づいて、南北板門店共同宣言、平壌共同宣言が合意。韓国政府の介在で米朝首脳会談が行われ、シンガポール共同宣言が発表された。日本のメディアは『北朝鮮の非核化』ばかり言うが、合意されたのは『朝鮮半島の非核化』である。しかし朝鮮半島平和プロセスは現在、困難に陥っている。第1の理由は南北関係が信頼関係を失ったこと、第2にバイデン政権の不透明な北朝鮮政策、第3に文政権の残り任期が少ないことだ」

 「北朝鮮が巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルを発射した。弾道ミサイル発射は『国連安保理決議違反』というのが米国の立場で、今後バイデン政権と北朝鮮の関係は悪化するだろう。北朝鮮は『弾道ミサイル発射は自衛権に属する』『米国はダブルスタンダードだ』と批判している。北朝鮮はなぜ核開発に踏み切り、核保有に至ったのか。東欧社会主義、ソ連が崩壊し、ソ連、中国が韓国と国交樹立する中での体制の安全保障のためである。そうであれば、北朝鮮が求める体制の安全保障を提供する必要があるが、トランプ政権はシンガポールでそれを約束しながら、北朝鮮完全非核化を先に要求し、ハノイ会談で決裂した。米国内に強いのは北朝鮮崩壊論だが、これは戦争勃発に直結する。それでいいのか。そのとき日本、沖縄はどうなるのか、考えてみるべきだ」

 「日米2+2共同声明、韓米2+2共同声明が発表されたが、この二つは大きく違う。日米は中国を名指しで非難したが、韓米ではしていない。日米では『北朝鮮の完全な非核化』が約束されたが、韓米では入っていない。韓米共同声明では『韓米間で完全に調整される対北朝鮮戦略』と書かれており、この点で文政権の朝鮮半島平和プロセスは依然として生命力を持っている」 

 「朝鮮半島平和プロセス」に果たすべき日本の役割を問う


 金光男氏は、朝鮮半島平和プロセスに果たす日本の役割を次のように問うた。

 「朝鮮半島の平和プロセスを進めていく上で、重要な役割を担っているのは日本だ。例えば韓国・金大中大統領が2000年に南北6・15共同宣言を発表したが、その前提が2つあった。1つは朝米の対話であり、当時のクリントン大統領は国務長官を平壌に派遣した。いま1つが金大統領・小渕首相の韓日共同宣言である。当時の自民党政権は、過去の植民地支配を初めて公式の文書で謝罪をし、未来志向の韓日関係を約束した。その結果が南北共同声明になり、そして小泉首相の訪朝、平壌宣言につながった」

 「今の韓日関係は当時とまったく違う。ボルトン補佐官の回顧録を読めば、安倍首相がいかに朝鮮半島平和プロセスを妨害したか、谷内安保局長がボルトンと何を話したかが全部出ており、良く分かる。この状況では、文政権と韓国市民社会の力だけで朝鮮半島平和プロセスを進めることは非常に難しい」

 「早晩、韓日関係に変化が生じるだろう。オースティン米国防長官が韓国国防相と会談し、『韓日関係を改善してほしい』と求めた。次に、ブリンケン米国務長官が韓国KBSのインタビューで『第2次世界大戦当時、日本軍などによって行われた女性に対する性的搾取は深刻な人権侵害である』と明言した。バイデン政権はトランプ政権と違って同盟国との関係を修復して協力関係を保ちながら、北朝鮮、中国に対応していく。そのためには、韓日関係を修復しなければならないということだ。日米同盟は韓米同盟より上位にあり、日米安保条約が米国のアジア戦略の柱である。従って、日本が朝鮮半島平和プロセスにどういう立場をとり、どう意見し、どういう提案をするのかが問われている」

 朝鮮半島非核化の声を大きく! 日米同盟のアジア太平洋への拡大反対の声を強く!


 金光男氏は、社民党への期待を述べた。

 「朝鮮半島の非核化を、日本で例え小さくともできるだけの声を上げてほしい。文政権の平和プロセスが朝鮮半島の非核化を進める上で合理的な考えであるという声が日本でほとんど聞こえないことは残念だ」「最近、韓国で『韓米同盟が常識的実用的合理的な判断ができないほど神格化してきた』との発言があった。しかし今韓国政府は韓米同盟を相対化している。『常識的実用的合理的な判断ができないほど神話化している』のは日米同盟の方ではないか。日米同盟をインド太平洋まで拡大することがほとんど無批判に受け入れられていることに対して、ぜひ声を上げてほしい」

 金光男氏には、本誌今月号に「徴用工、日本軍慰安婦判決」について寄稿頂いている。日韓市民連帯の声を朝鮮半島、北東アジアの非核化に生かしたいものだ。社民党PTの一層の取り組みを期待したい。