87号    --2021年3月号--

■主張  通常国会開会、コロナ禍で懲罰・人権侵害を狙い、核兵器禁止条約に背を向ける菅首相の施政方針演説

 「Go To トラベル」「PCR検査」「貧困・格差」に言及しない菅首相


 菅内閣の支持率低下が著しい。1月23〜24日調査の『朝日新聞』では、支持は33%で前回調査(昨年12月)より6ポイント低下した。不支持は45%で前回より10ポイントの上昇である。菅内閣の新型コロナウイルス感染症対応への不信が原因であり、朝日新聞調査ではその対応を「評価する」が25%で、「評価しない」が63%に上っている。

 1月18日、第204通常国会が召集され、菅首相初の施政方針演説が行われた。ところがである。この演説には自ら推進の旗を振り、コロナ対応の混迷をもたらした「Go To トラベル」への反省など言及が一切なかった。また感染症対策として求められている「PCR検査体制」の現状を問うことがなく、拡充への決意もなかった。そして「菅首相の施政方針演説では『貧困』も『格差』もまったく触れふれられていない」(本誌今月号、蜂谷隆氏)。驚くべきことだ。

 代わって出てきたのが新型コロナに対応する特別措置法、感染症法、検疫法の改正案であった。この中には、入院措置に応じなかったり入院先から逃亡した患者に1年以下の懲役または100万以下の罰金〔刑事罰〕を科す(感染症法改正)とか、緊急事態宣言前でも「まん延防止等重大措置」を導入して時短や休業の「命令」を可能にし、しかも「命令」に従わない飲食店への「過料」を設ける(特措法改正)とされた。自民党と立憲民主党との修正協議で、刑事罰が撤回され、罰金は減額され、恣意的運用が問題とされる「まん延防止等重大措置」は国会への報告を付帯決議に盛り込むことで合意した。深夜の銀座クラブで国会議員が会食し、その言行不一致で自公両党がトコトン追い詰められたことから修正はされたが、コロナ禍で人々の不安や恐怖をテコに懲罰社会を築こうとする自民党の人権破壊政治の狙いは露骨である。新自由主義改革には官邸支配で強い権力が求められるが、菅政権の権力行使の柱は懲罰・人権破壊なのであろう。

 改正案は2月1日、衆議院を通過したが、共産党、国民民主党は反対した。「過料は残り、罰則を科して強要することに違いはない」(「しんぶん赤旗」2月2日)、「まん延防止等重大措置を指定する際には、歯止めとして『法文に国会報告(の義務)を書くべきだ…。決して『守ります』と言わないのが付帯決議だ」(国民民主党・山尾志桜里衆院議員、「朝日新聞」2月2日)とされているが、この指摘は重要である。

 緊急事態宣言延長、「飲食店時短の医学的根拠は乏しい」と上昌広・医療ガバナンス研理事長


 菅政権は、11都府県を対象に2月7日までを期限にした緊急事態宣言を、栃木県だけ解除し、10都府県で3月7日まで延長することを決めた。非常事態宣言下では、飲食店の時短営業がターゲットにされ、今回の特措法改正では時短や休業に応じない飲食店に罰則が科せられる。飲食店の営業困難が引き続き、パート、アルバイトなど働く人たちへの解雇等で暮らしと命が脅かされる。

 ここで一つの座談会を紹介したい。『週刊現代』(1月30日号、2月6日合併号)に載った宮台真司(社会学者)、松尾匡(経済学者)、上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)の3氏の座談会である。誌上、上氏は「この第3波では、飲食店での会食がどの程度危険なのかはっきりわかっていません。医学的根拠に乏しい対策で、業界に無用な被害を与えることになる」とした上で、「なぜ今回は飲食店ばかりがターゲットになっているのか」との問いに次のように答えている。

 「実はこれには、クラスター調査の仕組みが関係しています。調査の範囲が広がり、全国津々浦々で調べるようになると、疑わしい人全員に詳しく話を聞いていたら手が足りませんから、どこかでふるいにかける必要があります。そこで設定された基準が『感染者との接触時にマスクをしていたかどうか』です。 濃厚接触の疑いがある人に電話で聞き取りをする時、保健所の職員はまず『マスクをしていましたか』と聞く。していなかったら濃厚接触者に認定される。マスクをしないのは自宅にいる時か食事の時くらいですから、もし感染していれば、外食した時にうつったのでないか、という話になる。それで飲食店が『感染経路の有力候補』にされていくというわけです」。

 新聞各紙で知ることのない初めて聞く話だ。上氏の主張からは菅内閣のコロナ対応の杜撰さが実感される。この座談会は素晴らしいが、上昌弘氏の著書『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』(毎日新聞出版)も″PCR不拡大の闇”など日本医療の現状と政府の失策を突く本で、一読をお勧めする。

 核兵器禁止条約が発効、日本政府は署名・批准せよ


 菅首相の施政方針演説は、外交・安保で「日米同盟」「自由で開かれたインド太平洋」が強調される一方、発効間近の「核兵器禁止条約」に一切触れなかったのは、戦争による唯一被爆国の首相の資質に欠けるものであった。昨年10月、発効に必要な批准国が50に達し、核兵器禁止条約は1月22日午前零時に発効した。この条約は「核兵器の開発、保有、使用などを完全かつ全面的に禁止する史上初の条約」であり、「国際法の下で核兵器を最終的に違法とする」ものある。条約発効は、核なき世界を求める多くの人にとって歴史的な事柄である。しかし、核保有国やその傘下にある国は一つも参加していない。日本も同様で、通常国会質問へも菅首相は、「条約に署名する考えはない」と答えた。原水禁国民会議の川野浩一議長は「即、核兵器がなくなるわけではないが…核兵器保有国に大きな制約を与えることは間違いない」「条約発効に安堵・満足して足を止めてはいけない」と訴えている(1月23日「国際シンポジウム」)。北東アジア非核地帯構想をはじめ核軍縮・核廃絶の実現へ菅政権に核兵器禁止条約への署名・批准を迫っていこう。