87号    --2021年1月号--

■主張  再びの緊急事態宣言、2021年の巻頭に立って

 「緊急事態宣言」に思う


 新しい年を迎えた。菅義偉首相は1月4日の年頭記者会見で、東京、埼玉、神奈川、千葉の1都3県を対象に緊急事態宣言を再び発令する検討に入ることを表明した。7日に決定するという。昨年4月以来のことである。菅首相は自ら旗をふった「Go To トラベル(イート)」へ批判が高まり、停止を迫られた。安倍前首相の「桜を見る会」前夜祭費用補てん問題、吉川元農相の献金疑惑も加わり、内閣支持率は大きく落ちこんだ。菅首相は、コロナ対応への批判がこれ以上高まることを警戒したのであろう。感染拡大で、今年に延期の東京五輪・パラリンピックが開催できるか心配も高まった。そこで緊急事態宣言の再発令であるが、菅政権自体が緊急事態に陥っている。

 この宣言再発令については、立憲野党サイドからも「遅きに失したことは残念だが、出さないよりマシ」(枝野幸男・立憲民主党代表)、「再発令はやむを得ない」(志位和夫・日本共産党委員長)と意見が表明されている(1月5日、読売新聞)。緊急事態宣言は私権の一部を制限するものであるから、これをどう考えるのか、我われにとっても大きな問題である。

 社会学者の大澤真幸氏によれば、橋爪大三郎『国家緊急権』(NHKブックス)が詳しいという。ここでは大澤氏の案内に従うと、「緊急事態のもとでの国家権力――緊急権――というものは、はっきり言えば、憲法違反」であるが、「憲法違反だから緊急権は一般によくない、ということにはならない」。「憲法の本来の目的を果たすために(多くの人民のとりわけ人権を守るために)、憲法違反である緊急権が必要となるときがある」。緊急権を正当化する源泉は「憲法制定権力」であり、「憲法制定権力は、主権者である人民(国民)に本来的に備わっているもの」で、「緊急権というものは、憲法制定権力が、例外状況の中で、かたちを変えて再現したもの」である。「重要なことは、緊急事態を宣言し、緊急権を行使した政治家(総理大臣)は、緊急事態が終結したあと、必ずいったん辞職し、しかるべき機関――例えば議会――によって、緊急事態の間に行ったこと(憲法に反すること)が必要で適切なものであったかの審判を受けるべき」であるとする(『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』河出書房新社)。国家緊急権の正当化とそれをめぐる国家と人民との緊張関係が指摘されており、今後に深めていきたい問題である。

 1月18日召集の通常国会では、政府与党が特措法改正を準備し、休業や時間短縮営業に関する財政支援と抱き合わせで事業者への罰則を盛り込もうとしている。罰則がなければ財政支援できないとはおかしな話であり、到底、賛成できるものではない。

 新型コロナ感染対策病床は日本の全病床の1・9%


 緊急事態宣言再発令の契機となったのが、昨年大みそか、東京都内で新型コロナ感染者数が過去最高を記録したことである。驚いた小池都知事が、近隣の埼玉、神奈川、千葉3県の知事を誘い、1月2日、国に緊急事態宣言の再発令を要請した。入院患者が増大、病床がひっ迫し、医療崩壊の危機が高まった。

 日本の医療福祉体制は、小泉政権以降に本格化した新自由主義改革よって弱められてきた。そしてパンデミックへの無警戒からか、「日本には世界一の約160万の病床」があるが、「新型コロナウイルス感染対策病床として使用できた病床は、全国で3万1000床しかなかった(2020年7月10日時点)。日本国内の全病床の約1・9%にしかならない」実態にある(森田洋之『日本の医療の不都合な真実』、幻冬社新書)。驚きの数字である。「病床数が世界一多い国だからこそ、パンデミックや『緊急事態』のときには、柔軟に対応できるようにしなければならない」と、″いざ鎌倉”に備える医療システム構築が訴えられている。

 総選挙の今年こそは!


 厚生労働省の発表(1月4日)では、2020年、新型コロナウイルス感染拡大での解雇や雇い止めは、累計で7万9608人に上った(見込みを含む)。製造業や飲食店が中心で、このうちアルバイトやパートなど非正規労働者が少なくとも3万8000人と全体の約半数を占めている。実数はもっと多いと思われるし、コロナ解雇されたまま帰国できない外国人技能実習生の深刻な問題もある。そうした中、昨年12月30日〜31日、本誌でも紹介してきた「コロナ災害緊急アクション」は、東京・池袋の公園で困窮した人たちに生活・医療相談、食料配布、東京都が一時宿泊先として確保するビジネスホテルの案内などの宿泊支援にあたってきた。今回の緊急事態宣言再発令による飲食店への営業時間短縮要請は、アルバイトなどの雇用をより一層厳しくしよう。これを放置することは許されないし、政治が取り組むべき課題である。

 宣言再発令によって新年の新聞各紙からかき消された問題がある。安倍前首相の「桜を見る会」前夜祭費用補てん問題である。朝日新聞(12月26日)では政治部長・坂尻顕吾名で、安倍前首相の国会答弁のウソを「憲政史上の汚点、幕引きできぬ」と主張されていた。安倍政権は「憲政史上最長の政権」である。その政権が「憲政史上の汚点」を残した。日本政治の底なしの劣化をさし示すもの以外、何ものでもないだろう。徹底追及で安倍腐敗政治の清算、アベなきアベ政治の菅政権打倒への道を開きたい。

 今年は総選挙の年である。10月21日で衆院議員の任期が満了する。立憲野党の共闘強化と勝利、社民党の前進を実現したい。東京新聞(1月3日)のコラムに前川喜平・現代教育行政研究会代表(元文科事務次官)が書いている。9年間にわたる悪夢の安倍政治、そして菅政治を批判し、「今年こそは、この悪夢を振り払い、真っ当な政治、真っ当な生活を取り戻したい。みんながそうしたいと思えば、そうなる」。今年こそは! その気持ちに連帯したい。(1月5日記))