87号    --2021年1月号--

■主張  福島党首とともに社民党の旗を―臨時全国大会を論ず―

 2月定期全国大会決定に違反する臨時大会議案


 社民党の第18回臨時全国大会が11月14日(土)、東京・日本教育会館の一ツ橋ホールで開催された。2月の定期全国大会を引き継ぐもので、立憲民主党(立憲)との合流問題が課題であった。2月全国大会では「合流の是非の判断は次期臨時党大会で行う」と決定されていたが、今回の臨時党大会議案では、その判断を行わず、「社会民主党を残し、社会民主主義の実現に取り組んでいく」「立憲民主党へ合流し、社会民主主義の継承・発展をめざす」と双方を認めるものとなった。

 合流の是非を問わないという。これにはビックリ仰天、驚いた。2月全国大会決定への完全な違反ではないか! なぜ違反の議案が出てくるのか? 2月全国大会以降の党内論議では、全国幹事長会議(10月9日)などで合流反対の声が多く出された。結果、合流決定=社民党解体に必要な代議員の3分の2の確保が難しいと判断した全国常任幹事会多数派(合流賛成派)が考えだしたのが、この議案であった。その狙いは、立憲へ移行する「抜け道」作りである。本来、大会決定に反する議案を提起するなら、先にその大会決定を無効とする決議を行い、そのうえで新たな議案を提起することが必要である。そうした手続きも踏まずに、全国常任幹事会では合流賛成派が「僅差の多数決」で押し切って、今回の議案を決定した。これは「禁じ手」である。したがって、臨時全国大会に問われた課題は明確であった。

 第一に、社民党の最高意思決定機関は全国大会である。全国大会決定に基づいて、全国常任幹事会の執行権は行使されなくてはならない。2月定期全国大会決定に基づいて、粛々と「合流の是非を判断」しなければならないことは当然であり、これは合流の是非を超えた党内民主主義の原則である。第二に、その2月大会決定に違反し、合流是非の判断を回避して、賛否双方を認める議案など、社民党の分断・分裂を結果するものであることからして、キッパリと否決されねばならない。第三に、社民党を離れ、どうしても立憲に移りたい人は、静かに個々に離党すればよいだけのことである。社会民主主義から保守リベラルへの移行など勧められることではないが、どうしても立憲に行きたい人を止めるわけにはいかない。しかし、社民党に残り再生・新生に努める党員がいるのだから、その努力に迷惑をかけずに離れるべきであろう。母屋に火をつけて家出することなど、長年党活動をともしたものの信義としても許されることでない。

 我われは、社会民主主義の防衛のために、社民党解党の道だけは決して容認できず、立憲への合流には断固反対。臨時大会議案は確実に否決されるべきものと判断した。

 合流反対・議案否決派のまっとうな主張


 福島みずほ党首は、大会冒頭、「社民党は解散、合流の道を選択しません。社民党は存続します。野党共闘は更に推し進めてやっていきます。そして、社民党の躍進をやっていきます」とあいさつした。これをうけた大会討論では、沖縄県連合の照屋寛徳代議員(衆院議員)が「全国の社会党、社民党の遺産をすべて食い潰してきたのはあなたなんです」と福島党首を批判したが、党員はそう思ってはいない。照屋氏に発言してほしかったことは、反基地闘争の先頭に立ってきて、いまも真っただ中にある沖縄県連合の国会議員が、綱領で「日米同盟が基軸」とする立憲への合流になぜ賛成できるのかということであった。

 本誌が共感した大会討論は、広島県連合の福山代議員の発言であった。「社民党は、かつてと質のちがう危機にある。全国連合指導部が、社民党で頑張ろうとする党員を異なる活動に追いやろうとしているからで、これは政党としてありえないことだ。今回、大きな労働組合の反主流派の組合が、主流派に勝てなくなった、抵抗できなくなったということで、社民党で闘うことをあきらめたというのが本当の姿だ。これは仕方のないことで、あきらめた党員は立憲へ行けばそれで事足りる。立憲でこそ社会民主主義の闘いが作れると考えているのであれば、ぜひ見せて頂きたい。しかし、社民党でこれまで通りに頑張ろうとしている党員に、“こっちに来い”と引っ張らないでほしい。実は、社民党の危機は全国連合の常任幹事のなかにも、この期におよんで社民党を後退させようとする力があることだ。臨時全国大会の議案は、そういうものになっている」。

 合流問題の本質と今回の議案の問題点を突いたまっとうな発言であった。しかし、吉田幹事長はこの発言を「名指しはされていないが労働組合への不当な批判ではないか」とした。真摯に事実を語った発言がなぜ不当なのであろう。愛知県連合の伊藤代議員は、9月15日の新「立憲民主党」の結党大会で、壇上に日の丸が掲げられていたことと、立憲が党員資格を日本国籍をもつ人に限っていることを重ねて、党の性格を質した。これに対する吉田幹事長の答弁は「新立憲の結党大会で日の丸が掲げられたことに対して、私がなにか申し上げることはない」が、「党員資格を日本国籍をもつ人に限っていることについては、立憲にいく党員は改正に努力すべきだ」というものであった。これまたどうしたことか。

 臨時大会議案では、社民フォーラムについて、「立憲民主党への合流を選択した党員・党組織などが社会民主主義の理念や政策、運動を継承し、相互交流や情報交換などを進めることを目的に設立します。地方組織だけでなく、地域のフォーラムの活動を全国的につなげ、支え合うためにも本部組織も立ち上げます」と提案されているが、吉田幹事長はその本部を担うことになるのであろう。新立憲結成大会で掲げられた日の丸に「なにか申し上げることはない」とする姿勢で、立憲内に作るという社民フォーラムは大丈夫か、どのようなものになるのか、本当に社会民主主義の継承・発展をめざすものとなるのか、他人事ながら心配でならない。臨時大会での合流反対・議案否決の立場からの発言は、いずれも論理的説得力をもち、道義に満ちた迫力あるものであった。

 過半数ギリギリで議案を「可決」


 合流賛成・議案支持の立場からも発言されたが、それは「合流に賛否二つの意見があるから、それぞれの立場を認めあおう」とするもので、吉田幹事長も「立憲・枝野代表から合流の呼びかけがあった。福島党首から返事をしなければならない。この臨時大会で議論して決定したい」とした。しかし繰り返すが、それは「今回の議案が2月全国大会決定への違反である」との批判に答えたものでなく、「党則上も許されるものでない」との批判に答えたものでもなかった。ただひたすら、立憲への「抜け道」作りを擁護するものであったと思う。臨時大会論議では、議案反対の立場の主張が圧倒したことは間違いがない。その主張を「寛容と多様性の精神に欠ける」などと非難するのは不当である。

 しかし、議案は挙手採決にかけられた結果、出席代議員167名中、賛成84名、反対75名で「可決」された。それに先立ち、この議案提出を押し切った責任、また選対委員長としての責任を問う「吉田幹事長の幹事長職の解任を求める動議」が採決されたが、これは出席代議員168名中、賛成70名で否決された。吉田幹事長の解任動議には4割を超える支持があり、議案は過半数ギリギリで「可決」されたことになる。「党員の高齢化と党組織の衰退」「今後における政党要件喪失の危機」「体力のあるうちに立憲に」という社民党をとりまく厳しい現実が存在し、その克服にむけた結集力を示すことに不足した。

 こうして全国常任幹事会において「僅差の多数決」で押し切り提案された議案が、過半数ギリギリで「可決」された。この過半数ギリギリでの「可決」という現実は、その程度の議案を提案し、推し進めたものの責任を問うものとなっている。

 臨時大会議論において不思議であったことは、議案賛成の立場から、立憲へ合流し社会民主主義の継承と発展をめざすことについての展望が語られなかったことである。宮城県連合代議員からは、「県議会で立憲、共産、無所属と女川原発再稼働反対の共同行動を展開し、そのことを通じて立憲のなかで反原発の運動はしっかりできると感じてきた」と発言があった。原発ゼロ法案は立憲の政策であるからこれは当然であろうが、反原発で一致できるから立憲に合流できるというのは短絡ではないか。問うべきは、議案に「立憲へ合流し社会民主主義の継承と発展をめざす」としていることである。香川県連合代議員は、「合流して活路を見出そう。私たちは立憲でこれまでの活動ができないとは全く思っていない」「具体的活動を野党第1党のなかでやることは、少なくとも社民党での活動より影響力は強まり、世論形成につながると思う」とした。党全国幹事長会議へ集約された香川県連合の「考え方」(9月29日付)では、(立憲綱領の)「『現実的な安全保障』『健全な日米同盟』などの記述が引っかかるところですが、これは党が違うのですから当然と言えば当然です」としているが、こんなノー天気な理屈で立憲に合流し、社会民主主義の継承・発展がめざせるものであろうか。

 臨時大会当日、会場前で社民党川崎市連合によって、「護憲の党を守ろう!」とのアピール文が配布された。そのなかに、次のような指摘があった。「2020年2月2日、自衛艦『たかなみ』の中東派兵を阻止するために、唯一、神奈川平和運動センターが現地闘争をたたかっている時に、立憲フォーラムの阿部知子氏は『たかなみ』の出航式に出席しました。このことを他山の石とすべきではないでしょうか」。阿部知子氏は立憲の衆議院議員、かつては社民党の政審会長であった。その阿部氏がどうしたことであろうか。合流派には、この指摘を肝に銘じてほしいと思う。鳩山由紀夫、菅直人両氏が立ち上げた新党である民主党が結成されたのは1996年であった。その際、社民党から国会議員をはじめ多くが民主党に結集し、党は大きく割れた。民主党はその後、民進党を経て現在の立憲民主党へ至ったが、民主党結党時には社会主義インターへの加盟さえ検討課題とされ、鳩山由紀夫氏の強い反対に合っているというのが話題になっていた。この20余年、民主党から立憲民主党に社会民主主義の思想は根付き、育ち、残ったのか。

 社民党存立の意義と再生・新生へむけて


 福島党首は、臨時全国大会後の記者会見(11月18日)で「緑の社会民主主義を実現するために格差是正や反貧困でさまざまなことをやり、女性や若者が主役になれる政党を作っていく。新生社民党を作ることに元気で前向きにやっていきたい」と決意を述べた。新生社民党とは簡単な課題ではないが、我われは福島党首の決意に自らを重ね、社民党を通じた社会民主主義改革の道をともに歩みたい。WITH SHAMIN。その際、まず確認しておきたいのは、安倍政権の総括とも関連して日本政治に占める立憲民主党の位置と社民党の存立意義についてである。

 安倍政権の総括については、「これほど『右』の勢力とつながっている首相は近年いなかった」(御厨貴・東大名誉教授、「毎日新聞」8月29日)、「安倍政治は『保守』とされてきたが、むしろ自民党保守政治を解体した」(中島岳志・東工大教授、「毎日新聞」同)とされ、「『今後、日本で格差が広がってもかまわない』という主張を支持する傾向と自民党支持率の関係だけは、飛躍的に強くなった。…排外主義的で軍を重視するという右派の伝統的な立場と、新自由主義という現代的な経済イデオロギーを具備する『新自由主義右翼』の自民党支持率は、実に63・2%である」(橋本健二・早大教授、「世界」11月号)とされる。

 そうしたなかで、橋本教授が指摘するのは「『新自由主義右翼』と『穏健保守』の間に楔を穿つこと」で、「おそらくその鍵となるのは、『穏健保守』を支持基盤とする政治家たちと、『リベラル』を支持基盤と自覚する政治家たちではないだろうか」ということである。この保守リべラル路線の推奨は、「我々こそが正統な保守政党であることをしっかりアピールしたい」(2017年11月)とする枝野幸男・立憲代表の発言に酷似する。安倍政治、それを継承する菅政権からの転換は立憲野党の共通課題だが、その「保守リベラル」の闘いは反自民の闘いであり、社会民主主義の取り組みを放棄することがあってはならない。枝野代表の問題点を示すのが徴用工問題に対する見解であろう。枝野代表は、「国際法の観点で言えば『徴用工』の問題も、『貿易管理』の問題も、日本に理がある。その点では政府を支持しています。『日本に理がある』という国際法上の事実について、日本の政治の内側から疑問視すれば国益を損ねます」としている。これは我われの立場とは違う。この一点を見ても、やはり「保守リベラル」の制約があり、それだけに社会民主主義の党の存立が求められるのだと思う。

 以上の現実を踏まえ、我われは社民党の存立・存続を求め、新生社民党への努力を重ねたい。社民党の新生にはまず「党組織の統一性回復」が前提とされ、「地域組織強化」「党のイメージ刷新」「SNS・政策的アピール力の展開」など多くが求められる。臨時全国大会を経た現在、すでに社民党の分裂が残念ながら進んでいるが、しかし、党組織の統一性回復にむけた努力も開始された。これまで社民党は「女性の党」「沖縄の党」「労働者の党」という三本柱を特徴としてきたが、福島党首の再登板で「女性の党」のイメージは又市党首時代に比べて数段強くなった。「沖縄の党」は変わらずたなびき、社民党への結集へ決定的な力となろう。「労働者の党」は、中心を担ってきた自治労内の社民党支持県本部で構成する「自治体政策研究会」の立憲合流によって後退するが、福島党首の強調する「格差是正と反貧困」の闘いが大椿ゆうこ全国常幹をはじめ非正規労働者への発信と響き合って、新たな「労働者の党」を築くことが期待される。緑の社民主義は、福島党首が全国行脚で注目してきた「食」問題と一体でアピールしたい。

 2021年総選挙、2022年参院選へと存亡をかけた闘いが続く。まず総選挙候補擁立と選挙態勢確立を急がねばならない。評論家の佐高信さんが以前、『社会新報』に土井たか子・社会党元委員長の好きだったロバート・フロストの詩を紹介していた。「森は美しく、暗くて深い。/だが私には約束の仕事がある。眠るまでにはまだ幾マイルか行かねばならぬ」。心に沁みる詩である。まだ成さねばならないことがある。力を合わせ、前を向いて歩き出したいものだ。