87号    --2020年12月号--

■主張  第203臨時国会と菅首相の所信表明演説

 学術会議会員候補任命拒否に一言も触れない菅首相


 第203 臨時国会が10月26日(月)に召集され、菅義偉首相が所信表明演説を行った。ところが、国会召集前に表面化した、日本学術会議が推薦した会員候補105名のうち6名の任命を拒否したことへの言及が一切なかった。驚くべきことである。任命拒否された6氏はいずれも戦争法、共謀罪法に反対した学者だが、その推薦は日本学術会議法において正当であり、もともと政府は、学術会議の推薦に基づく内閣総理大臣の任命は「形式的任命にすぎない」としてきた。それを覆したのが菅首相であり、質が悪い。

 任命拒否問題の政治的意味を明らかにしたのが、読売・日経・産経三紙(10月23日)に掲載された日本会議系の公益財団法人・国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)の意見広告である。ここでは「日本学術会議は廃止せよ」と主張された。意見広告は、「日本を否定することが正義であるとする戦後レジームの『遺物』は、即刻廃止すべきです。国家機関である日本学術会議は、その代表格です」と書き出し、「学術会議は、連合軍総司令部(GHQ)統治下の昭和24年に誕生」「日本弱体化を目指した当時のGHQは学術会議にも憲法と同様の役割を期待したのでしょう」とある。日本学術会議は憲法とともに戦後レジームであり、ともに廃止されるべきだというのだ。そして「(学術会議は)軍事目的の科学研究は絶対に行わない」と声明を何度も出したと非難、さらに「軍民融合」の中国の研究者と交流していると攻撃している。要は戦後平和憲法体制の否定に他ならない。菅首相が「学術会議の廃止」を要求しているわけではないが、根底においては相通じるものがあろう。菅首相は日本会議国会議員懇談会の副会長である。

 本誌今月号に寄稿の浅野健一氏は、この日本会議意見広告について、「日本最大の部数を持つ自公の御用新聞、『経団連の広報紙』(仏紙ルモンドのポンス記者)、極右の低劣な新聞が、学術会議を誹謗中傷し、日本国憲法を冒涜する広告を載せた。日本新聞協会が定めた広告倫理規定に違反していると思う。今、日本の人民が要求すべきは…国連憲章、日本国憲法に違反した日本会議の解体ではないか」と語っている。

 670学会の抗議声明、「成長の家」の反対意見広告も


 菅首相による強権発動の背後に警察官僚の杉田和博官房副長官の存在が指摘される。『金融財政ビジネス』(時事通信社、10月29日号)のINSIDE欄は次のように言っている。見出しは「菅首相の『本姓』」で、「学術会議会員の任命拒否で事前に調整していたとみられるのは杉田和博官房副長官で、6人の除外も事前説明したとされる。だから野党は杉田氏の国会招致をもとめるが、与党は応じない方針だ。『異論を唱える官僚は異動してもらう』と、霞が関を震えあがらせた首相。学術会議への人事介入で早くもその『本性』を現したようだ。世論はその怖さにまだ気付いていないように思える」。杉田氏の関与は各紙誌が触れているが、この記事は「菅首相の本性の怖さ」をズバリ指摘して際立っている。

 任命拒否への抗議の声は拡大している。その声の一つとして朝日新聞(10月25日)に掲載された宗教法人・成長の家の意見広告を紹介しておきたい。「真理探究への政治の介入に反対する」とタイトルされ、「20世紀に多くの悲惨な戦争から学んだはずの日本が、再び国権によって真理探究の動向を操作しようという誤った方向に進むとしたら、私たちは声を上げて反対せざるを得ません」と訴えられている。成長の家はかつての右翼主張から脱したという話は聞いたり読んだりしていたが、たしかにその実際を知らされた思いであり、痛快だ。

 ジャーナリストの津田大介氏は朝日新聞「論壇時評」(10月29日)で「『安全保障関連法に反対する学者の会』によると、10月28日現在、約500の学協会がこの件に対する抗議声明を発している」と紹介しているが、それはさらに拡大し、10月30日現在、「670学会が声あげる」(赤旗11月1日)に至っている。菅政権、自民党は、任命拒否問題を学術会議の在り方に歪曲しているが、この抗議の声を力として、学問の自由・表現の自由を破壊する菅政権を包囲しよう。杉田官房副長官の国会招致を実現しよう。 

 菅演説にみる日朝国交正常化
 

 菅首相の所信表明演説では、新型コロナ対策、行政のデジタル化、インバウンド、不妊治療の保険適用実現などが羅列され、温室効果ガス排出量を2050年までに全体としてゼロにすることが強調された。しかし、これは原発推進が根拠とされインチキだ。「(沖縄の)辺野古移設の工事を着実に進める」とされ、憲法改正では「憲法審査会において、各政党がそれぞれの考え方を示した上で、与野党の枠を超えて建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待する」と、改憲推進の姿勢を明らかにした。一方、来年1月発効の「核兵器禁止条約」は無視をし、核兵器廃絶を願う世界の声に背を向けた。

 本誌が注目していたのは朝鮮問題である。そこでは「拉致問題は、引き続き、政権の最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現に向け、全力を尽くします。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交正常化を目指します」とされた。安倍首相の最後の施政方針演説(2020年1月20日、第201国会)にも、全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現、金正恩委員長との会談、日朝平壌宣言と日朝国交正常化の文言があり、今回もそれと同じで変化はない。

 菅首相は、安倍政権の7年8カ月に官房長官を務め、安倍首相の朝鮮への圧力・強硬姿勢がとうとう拉致問題の解決に結びつかなかったことを承知のはずである。それを自覚すれば、安倍政権と異なったスタンスを取り、拉致問題解決のためにも国交正常化という課題に立ち向かうべきだと思うが、菅首相に質したい。