「進歩と改革」No.825号    --2020年9月号--


■主張  森友公文書改ざん損賠請求訴訟、赤木雅子さんの告発

 7月15日、第1回口頭弁論開く


 学校法人・森友学園が開校を予定した「瑞穂の國記念小學院=安倍晋三記念小学校」に対する不当な国有地払い下げとそれをめぐる公文書(売却に関する決裁文書)改ざん・廃棄は、安倍晋三首相と夫人の昭恵氏の関与、安倍政権の政治私物化、官僚の忖度と倫理が問われ、今もその真相究明が鋭く求められている問題である。地元の木村真・豊中市議の告発と朝日新聞報道で表面化したこの問題は、安倍首相が国会で「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」と答弁したことで、俄然、安倍政権の死命を決する政治焦点として浮上した。当時の佐川宣寿・財務省理財局長は証人喚問された国会で、「刑事訴追のおそれ」を連発して証言を拒み続けた。

 森友学園問題の舞台となった財務省近畿財務局で、職員の赤木俊夫さん(当時五四歳)が上司に公文書改ざんを強制されたと手記に書き残して自死したのは2018年3月7日である。それから2年が経った今年3月、赤木さんの妻・雅子さんは真実を求めて、国と佐川宣寿氏を相手取って大阪地裁に損害賠償請求を提訴した。新型コロナウィルス感染拡大で裁判が延期されていたが、7月15日、第1回口頭弁論が開催された。

 雅子さんは裁判を起こすと同時に、自宅のパソコンに残された俊夫さんの手記を『週刊文春』(3月26日号)に公表したが、これは53万部が完売し、安倍政権への怒りとともに赤木俊夫さんの無念、その自死に寄せる雅子さんの悲痛な思いに強い共感が寄せられていた。6月15日には、雅子さんが第3者委員会による再調査を求める安倍首相、麻生財務大臣、衆参両院国会議長宛ての35万2659筆と佐川氏の国会での証人再喚問を求める13万436筆の計四八万の電子署名が提出されていた。

 「元は、すべて、佐川理財局長の指示です」


 赤木雅子さんと、森友問題追及中に記者職を外され後に退職した元NHK記者の相澤冬樹氏が出版した『私は真実が知りたい』(文藝春秋)という本に、俊夫さんの手記全文が載っている。雅子さんの言葉を引けば、この手記は俊夫さんが「命を断つ前に最後の力を振り絞り渾身の思いで書き残した遺書”。そして財務省と近畿財務局の不正を告発する文書」である。俊夫さんは、「この手記は、本件事案(注・森友学園への国有地売却問題のこと)に関する真実を書き記しておく必要があると考え、作成したものです。以下に、本件事案に関する真実等の詳細を書き記します」とした。

 手記は、「私は…(森友)学園との売買に向けた金額の交渉等に関して、どのような経過があったのかについてはその事実を承知していません」と前置きし、「決裁文書の修正(差し替え)」の項で、次ぎのように書かれている。「元は、すべて、佐川理財局長の指示です。(中略)学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があったと聞きました。佐川理財局長の指示を受けた、財務本省理財局幹部、杉田補佐が過剰に修正箇所を決め、杉田氏の修正した文書を近畿局で差し替えしました」。

 大変にリアルで衝撃的な記述である。修正・差し替え作業をした具体的日時も記されている。赤木俊夫さんは、改ざんに最初から反対し抵抗したが、上司からの指示があり、数回の修正作業に関わったことへの責任で、うつ病になって体調を崩して休職、そして自ら命を絶った。俊夫さんは元国鉄職員で、国鉄分割民営に伴う公的部門への再就職に応募した人である。財務省での新たな生活が生き甲斐のあるものであったことは先の本に紹介されているが、同時に旧国鉄職員からの再就職に起因するご苦労があったのではなかろうか。俊夫さんとともに正義を求める労働組合は職場になかったのか。志村喬主演の映画『生きる』が好きだったという赤木俊夫さんの自死という過酷な現実を前に考えざるをえない。

 「安倍首相、麻生大臣、私は真実が知りたいです」


 赤木雅子さんが 7月15日の第1回口頭弁論で訴えたのは、「夫が自ら命を絶った原因と経緯を明らかにすること」で、「安倍首相、麻生大臣、私は真実が知りたいです」という願いである。雅子さんの陳述を「文春オンライン」から紹介したい。

 「夫は『私の雇い主は日本国民。国民のために仕事ができる国家公務員に誇りを持っています』と生前知人に話していた程国家公務員の仕事に誇りをもっていました。そのような夫が決裁文書の書き換えを強制されたのです」「夫は改ざんしたことを犯罪を犯したのだと受け止め、国の皆さんに死んでお詫びすることにしたのだと思います。夫の残した手記は日本国民の皆さんに残した謝罪文だと思います」 

 雅子さんは、「国は、夫の自死の真相を知りたいという私の思いを裏切ってきました」という。その1つは、公文書改ざんを認めた財務省が発表した調査報告書(2018年3月4日)である。この調査報告書には、俊夫さんがなぜ改ざんを強制されたのか、その原因や理由が一切書かれておらず、俊夫さんが自死したことさえ記載されていない。几帳面な俊夫さんが残したはずだと上司がいうファイルの存在にも触れられていない。2つは、雅子さんは俊夫さんの自死が公務災害となった理由を知るため人事院に情報公開請求をした。その結果、開示された文書70頁のほとんどが黒塗りで、真相を知ることができなかった。その後の近畿財務局への情報公開請求についても、開示されたのは年金部分など少しで、ほとんどが先延ばしになっており、裁判でこうした国の姿勢転換を求めた。3つに、第3者員会設置を求める35万人の電子署名を提出したのに安倍首相も麻生財務大臣も「すでに検察の調査も済んでおり調査をしない」と、俊夫さんを切り捨てていることである。

 「政府は真相解明に覚悟を」


 赤木雅子さんの提訴に対し、国と佐川氏側は、それぞれ請求棄却を求めて争う姿勢である。毎日新聞は、「佐川氏ら証言なるか」(毎日新聞)と報道した。それは当然だが、「政府は真相解明に覚悟を」(東京新聞)とも指摘されている。安倍首相、麻生大臣は俊夫さんの手記に「新たな事実はない」というが、「私や妻が関係していれば総理大臣をやめる」との安倍首相の発言が公文書改ざんのきっかけになったのではないか、また俊夫さんの手記に残された「会計検査院には法律相談関係の検討資料は『ない』と説明する」という財務省の異常な姿勢が問われなければならない。

 この問題では、大阪地検特捜部が佐川氏をはじめとする当時の財務省幹部ら全員を不起訴とし、検察審査会がうち10名を不起訴不当としたが、再び不起訴となった(2019年8月)。この背景を相澤冬樹氏が書いている。「不起訴自体は既定路線と言えるから驚くに値しない。大阪地検特捜部が東京の法務検察当局とその背後にある政治に再び屈したということだ。……残念なことは、先月24日に読売新聞が『今週中にも再び不起訴へ』という前打ち記事を書いたこと。実は、大阪読売の記者が大阪の検察幹部に『あれは東京情報で書いたんです。大丈夫でしょうか?』と聞いて回っているのだ。これは東京の権力側の思惑でリークされた情報を垂れ流したことを意味する。読売は去年5月の最初の不起訴の際も『不起訴へ』と前打ちしている」(『私は真実が知りたい』)。

 この「東京の法務検察当局」とは誰か。あの賭けマーシャンの黒川弘務氏であろう。最初の不起訴当時、黒川氏は法務事務次官で、再不起訴時は東京高検検事長であった。この黒川氏を安倍首相は次期検事総長にしようと検察庁法改正を狙ったのである。森友公文書改ざん損賠訴訟で、赤木雅子さんの願いに添って俊夫さん自死の真相が究明されるとともに、安倍政権が積み重ねきた悪も裁かれねばならないと思う。