「進歩と改革」No.824号    --2020年8月号--


■主張  「敵基地攻撃能力」保有へ安倍政権の軍事強国路線

突然、「イージス・アショア配備を停止する」と河野防衛大臣


 河野太郎防衛大臣が、地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」(地上イージス)の配備停止を発表した。6月15日のことで、「停止」がのちに「断念する」こととなった。理由は迎撃ミサイル発射後に切り離す重さ200キログラムのブースター(迎撃ミサイルの推進措置)が演習場外に落ちる恐れがあると分かったことで、改修に2000億円・10年程度かかる可能性があり、河野防衛相は「改修は合理的ではない。間違っているものはやめなければいけない」と語った。この決定に至るまでに、河野防衛大臣「やりたくありません」、安倍首相「状況は分かってるよね?」、菅官房長官「今そんなことをやったら、火だるまになるぞ!」という会話があったことを朝日新聞(6月25日)が報道したが、突然の発言は政府・自民党・自衛隊関係者の間に大きな波紋を広げている。 

 イージス・アショア導入決定時の自衛隊制服組トップ・統合幕僚長であった河野克俊氏はBS日テレ(6月22日)で、「北朝鮮の核弾頭ミサイルを打ち落とすためのイージス・アショアがブースターの問題程度で廃止されるのはおかしい」といった趣旨の発言をしている。この河野前統合統幕長。米朝の緊張が高まり、朝鮮に対する米軍の先制的軍事攻撃が想定された2017年当時は統合幕僚長であったが、「ダンフォード米国統合参謀本部議長、ハリス太平洋軍司令官と常時連絡し、自衛隊の作戦を検討・準備していた」と明かし(和田春樹東大名誉教授の日本記者クラブでの講演、2019年10月2日)、米国と一体の軍事作戦実行、平和憲法破壊を企てていた人である。平和憲法と遠くかけ離れた人物だけに、朝鮮半島の平和創出など関心なく、その緊張を軍拡に利用しようとしているとしか思えない。

 配備を許さない!市民の勝利、沖縄・辺野古新基地も断念せよ!


 イージス・アショアは、海上のイージス艦による弾道ミサイル迎撃システムと、撃ち漏らした場合に備える地対空誘導弾パトリオット(PAC3)という2段階のシステムに加え、イージス艦と同様なシステムを地上に新たに配備するものである。その導入の背景にあるのが2017年11月、トランプ大統領初訪日時の日米首脳会談で、日本への「大量の兵器の購入」要求であった。この会談は、安倍首相が共同記者会見で「対話のための対話では全く意味がない」「『全ての選択肢がテーブルの上にある』とのトランプ大統領の立場を一貫して支持している」と、朝鮮への強硬姿勢を示し、米国による先制的軍事力行使を容認したことで記憶に残っている。安倍政権は同年12月、イージス・アショア2基導入を閣議決定した。

 イージス・アショアの配備予定地が秋田県新屋演習場、山口県むつみ演習場と明らかになったのは翌2018年6月である。現地では強い反対運動が巻き起ったが、秋田県での経過は秋田魁新報刊の『イージス・アショアを追う』で、取材の舞台裏が生き生きと書かれ、詳しい。「新屋ありき」で進められる配備計画への疑問、兵器で未来が守れるのか?との問い、レーダーが発する電磁波の影響や固定したミサイル基地というリスクが心配される中、新屋演習場が東日本で「唯一の適地」とした防衛省の調査報告書に記されたデータがずさんで、誤りが何カ所も見つかった。住民説明会で防衛省職員の居眠りが指弾され、昨夏の参院選秋田選挙区では、反対派の無所属・寺田静氏が自民党現職に勝利。新屋演習場への配備はすでに断念されていたが、今回、町をあげて反対している山口県むつみ演習場も配備が断念された。これはまぎれもなく市民の反対運動の成果である。今回の配備断念の理由として挙げられたのは「コスト」と「時期」の問題である。そうであるなら、誰もが沖縄の辺野古新基地建設を思い浮かべるであろう。当然、次に断念されるべきは辺野古新基地建設である。その声を大きく届けよう。

 「敵基地攻撃能力」保有という暴挙


 安倍首相は、イージス・アショア配備断念に理解をしめす一方、それに代わって「敵基地攻撃能力」保有を突き進めようとしている。6月18日の記者会見で、安倍首相は、2013年に策定した「国家安全保障戦略(NSS)」を改定し、その中で「敵基地攻撃能力の保有について、当然議論していく」と表明した。この敵基地攻撃能力保有については、自民党安全保障調査会が数度にわたり、朝鮮の弾道ミサイルへの対抗策として安倍首相に提言していたものである。

 それらを受けて2018年12月に閣議決定されたのが「防衛計画の大綱」(18年防衛大綱)、「中期防衛力整備計画」であった。18年防衛大綱は、「いずも」型護衛艦の実質空母化や、相手の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」で長距離巡航ミサイル、最新鋭ステルス戦闘機F35の導入などを打ち出した。その特徴は「専守防衛政策の放棄」である。18年防衛大綱では「敵基地攻撃能力の保有」という言葉こそ使われていないが、それを実行可能とするものであった。その先取りされた18年防衛大綱が、今後に「国家安全保障戦略」へ反映されようとしている。それこそが安倍首相の狙いである。

 しかし敵基地攻撃能力保有を明言することは、日本の防衛政策の大転換である。ここで注目したいのは、「日米同盟論者」からの敵基地攻撃能力保有論への批判である。「日本が敵基地攻撃能力を備えるということは、日本に『戦争の引金』を持たせることである。それをコントロールできなければ、米国は同盟国としての義務から望まない戦争に引き込まれるリスクを負うことになる」との声が聞こえる(小川和久著『日米同盟のリアリズム』文春文庫)。敵基地攻撃能力保有が、朝鮮人民に敵対し、朝鮮半島・東アジアの平和を阻害するものであることは言うまでもない。敵基地攻撃能力保有など、とんでもないことである。朝鮮のミサイル基地攻撃など出来るものではない。安倍首相は、これ以上、平和への罪を重ねることなく退陣すべきである。