「進歩と改革」No.823号    --2020年7月号--


■主張  コロナ禍の安倍政治と日本社会を問う

「コロナ差別」を考える部落解放・人権研究所


 5月25日、緊急事態宣言が全国で解除された。安倍首相は4月7日、7都道府県を対象に緊急事態宣言を発令し、16日に全国へ拡大された。期限は当初、5月6日までであったが同31日までの延長を決定。しかし直後、吉村洋文大阪府知事が、これは単なる数値目標だが「出口戦略」を決定すると、安倍政権はたまらず同14日に39 県の宣言解除を決定、その後21日に近畿3府県を解除し、25日に至った。緊急事態宣言発令の理由も不鮮明で、その解除もドタバタ感の強いものであった。 

 この間、安倍政権のコロナ対応はクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染、高校・中学校・小学校の全国一斉休校の強行、アベノマスク・くつろぎ動画の不評、特別定額給付金での政策変更、PCR検査態勢の不備などさまざまに批判されたが、検察法改正ではソーシャルネットワーク(SNS)での反発を受けて強行を断念、さらに黒川弘務東京高検検事長は賭けマージャンの発覚で辞任に追い込まれた。検察最高幹部と産経・朝日新聞記者との癒着が明らかになった。内閣支持率は大きく落ち込んだ。

 コロナ禍で日本社会に強まったのが外出自粛への同調圧力と相互監視であり、その中での差別・排除の声であった。部落解放・人権研究所が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う差別の問題を考えるシンポジウムをネットで開いたと新聞で知り、研究所のホームページを開いてみたら、そこには三重県の松村元樹事務局長のレポートによる深刻な差別事例が紹介されている。感染者(回復者)関係では「感染者宅に石が投げ込まれ、壁に落書きされた」「回復後に『近所を歩いてウイルスをまき散らしている』とうわさを流された」「ウイルス感染判明後に山梨県から東京都に移動した人に対して『コロナ女』『テロリスト』『日本から追放』などの投稿が相次いでいる」。医療従事者・家族関係では「学童に行くと子どもが他の子とは別の部屋で一人で遊ばされていた」「パートナーが勤務先の会社から出社を拒否された」などである。部落解放・人権研究所は、「感染防止対策、経済・教育・生活対策に加え、第3の対策である『人権対策』(新型コロナ差別対策)」の重要性を主張しており、人権侵害・差別という現実を見据え、共生・連帯の日本社会に変えていかねばならないと思う。

 歴史学者・與那覇潤氏の指摘
 

 『中国化する日本』(文春文庫)で知られる歴史学者の與那覇潤氏は、『朝日新聞』の文化文芸面に「歴史なき時代」という小さなコラムを書いている。4月30日付で、コロナ差別に言及した。「コロナウイルスに感染しやすい医療従事者やその家族が、いじめにあう例が続いている。世論が強く反発し、抗議するのは当然だ。しかし『彼らを差別するな』と憤る人が裏面で、政府の掲げる『接触8割減』に賛同し、従わない相手を『不謹慎だ』と叩く例も目立つ。これは奇妙である」「首相や厚労省の対策班は当初、人との接触をそこまで極端に減らすことで、流行を1カ月で収束させたいと表明した。……1カ月でこの国から追い出すべき病気なら、誰だってうつされたくないと思うだろう。そうした政策を煽りながら、帰結としての風評被害に対してだけ『同情』を寄せるあり方は自作自演だと気づくべきだ」「私たちの国は、収容所国家ではない。日本ではコロナの死亡率は低く、体が弱って危険な人を防護できれば、大勢にとっては『かかっても治せばよい』普通の病気になる。そう認識することが、差別をなくす方法である」。コロナが炙りだした日本社会の実相を根底から突く指摘であろう。

 與那覇氏は、5月14日付では、次のように書いている。「コロナウイルス下の連休は、なるべく外食をした。こうしたときに利用しなくては、お世話になっている飲食店を守れない」。ステイホームが呼びかけられた今年のGWに、これは痛快な記述である。「普段は日本のタテ社会や同調圧力を揶揄しながら、いざ政府が自粛を要請するや、妥当性を吟味せずに追従した人のなんと多かったことか。……街歩きの途上、マスクで口を覆って横たわるホームレスの姿を見て、胸が痛む。私たちが克服すべきはコロナ以上に、こうしたいびつな圧力を生み出す社会の病である」。異議なし! 真底、共感を覚える言葉である。

 休業者5956万人、悪化する雇用・経済統計の中で


 5月29日、4月の雇用・経済統計が相次いで発表された。経済産業省の「鉱工業生産指数」は、自動車生産が大きく落ちこむなど4月の鉱工業生産は前月比9・1%低下した。これは現行基準で過去最大の下げ幅である。同じく経産省の「商業動態統計速報」によれば、4月の小売業販売は前年同月から13・7%減って、2カ月連続のマイナス。下げ幅は統計を取り始めた1980年以降2番目の大きさであった。厚生労働者が発表した有効求人倍率は1・33倍で4カ月連続で低下、4年ぶりの低水準となった。総務省が発表した「労働力調査」によれば、4月の休業者数は過去最多の596万人である。リーマン危機後の休業者は09年1月、153万人に達したが、それをはるかに超える。非正規雇用も前年同月比97万人減少した。その中心は子育て世代の女性である。完全失業率は前月比0・1%プラスの2・6%であるが、「休業者の増加ぶりをみると、相当数の『失業予備軍』がいる」「休業者のうち100万人が失業すると、失業率は4%を超える」(『日経新聞』5月30 日)。 

 どの新聞でも、4月以上に5月の悪化を予想している。安倍政権は緊急事態宣言解除後に、「経済のV字回復」を唱えているが、何より問われるのは雇用・生活危機に立ち向い、命と暮らしを守ることである。日本総合研究所会長の寺島実郎氏は『日本再生の基軸』(岩波書店)で、「コロナウイルスの問題が世界経済を危機的状況に追い込んだのではなく、世界経済が抱え込んいた問題を炙り出したと考えるべである」と言っている。その点では、「金融資本主義」「新自由主義」からの転換が果たされねばならない。

 コロナ禍「闘う労組」ここに在り


 月刊『FACTA』6月号で「コロナ禍『闘う労組』ここに在り」と見出しされた記事に出会った。「闘う労組」とは励まされる言葉だが、ここで大きく取り上げられているのは3つの労組である。1つは、これはテレビで大きく報道されたが、「休業手当より解雇して雇用保険の失業手当を受けた方がいい」と600人の運転手の首切りをめざしたタクシー会社「ロイヤルリムジングループ」で、一部従業員が加盟した「日本労働評議会」。他のKPU目黒自公ユニオン、自交総連・目黒自動車交通労組も、ともに団体交渉で退職強要の撤回で合意して、雇用は継続された。

 2つ目は「なのはなユニオン」の「オリエンタルランド」(OLC)に対する闘いである。OLCは東京ディズニーランドを運営するが、2万5188人の全従業員のうち、1157人のショーなど出演者、キャストと呼ばれる2万771人の準社員など87%が非正規社員だという。その平均時給は千葉県の最低賃金に近く、なのはなユニオン傘下で準社員が加盟するオリエンタルランドユニオンが社員と同じ「10割の休業補償」を求めている。3つ目が「ウーバーイーツユニオン」である。「ウーバーイーツ」は米配車大手ウーバーテクノロジーズが手がける宅配サービスだが、就業中の事故、注文主とのトラブルにあう配達員の有志がユニオンを結成し、コロナ対策としてマスクや消毒薬の配布、危険手当を要求した。

 コロナ禍で、労働者・市民の生存権を守らねばならない。そこへ果たす労働組合の役割を発揮したい。