「進歩と改革」No.822号    --2020年6月号--


■主張  安倍首相の「緊急事態宣言」発令に思う

 「緊急事態宣言」下で73 回目の憲法記念日


 WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス感染症で「パンデミック」(世界的な大流行)と見解表明したのは3月11日であった。世界感染者数は5月に入り350万人を上回り、死者数は24万人に達した。中国では武漢の封鎖が解除され、韓国では事態収束に向かったが、WHOはアフリカや東欧、南米などで感染者が増加傾向にあるとしパンデミックは終わっていないとの見解を示している(4月27日)。

 日本では4月7日夜、安倍首相が改正新型インフルエンザ等対策特措法による「緊急事態宣言」を発令し、国民に行動自粛を求めた。当初、5月6日までとされた期限は同31日まで延長されたが、この「緊急事態宣言」をめぐっては、「発令が遅すぎる」との声が高まった。発令後、毎日届く新聞、また開く雑誌が「もっと早く宣言すべきであった」との主張でほぼ一色であり、それはリベラルな学者の中にも多くあった。新型コロナウイルスから命と暮らしを守らねばならないが、緊急事態宣言への批判を許さない同調圧力と監視・制裁を求める声の下に日本社会が置かれている。改正特措法への立憲野党の対応は分かれたが、自由・基本的人権を制限する宣言の危険性は指摘されなくてはならないし、これは問われつづけなければならないことである。

 緊急事態宣言には強制力・罰則規定がないから欠陥だとして法改正や憲法への緊急事態条項の創設を求める声が出ている。73回目の憲法記念日である5月3日、安倍首相は自民党総裁として、日本会議系のオンライン会合にビデオメッセージを送り、緊急事態条項の創設は大事な課題だとした。総がかり行動実行委員会などの「5・3憲法集会」は今回、国会議事堂前からインターネット配信の集いを開き、新型コロナ禍を火事場泥棒した緊急事態条項の創設・安倍改憲発議反対を決意した。緊急事態宣言発令を起点とした民主主義の形骸化を許してはならないし、ポスト・コロナの時代は民主主義とともにあるべきだ。

 事態収束に向かった韓国の実践


 緊急事態宣言発令が当然視されているとき、在日韓国研究所の金光男さんからのメール『コリア情報』(4月9日)で次のような指摘に出合った。これはぜひ紹介せねばならない。「感染者の急増を防ぐために世界が取っている防疫方法は3種類です。イタリア、フランス、ニューヨークなどが取っている強制的な外出禁止、次にイギリスが当初、特段のウイルス対策を取らないことで国民を感染させ、それによって集団免疫(抗体)を形成しようとする方法。しかしこれは撤回されました。そして韓国が行っている大々的な検査による感染者の早期発見と隔離・治療です。……韓国では、新興宗教の新天地教会で爆発的な集団感染が発生し、危機的な状況であったにもかかわらず、『緊急事態宣言』のようなものは発令されていません」。スウェーデンで実施し注目されているのも、都市封鎖をせず「集団免疫」をめざす政策である。

 韓国では感染者対策を「関心」「注意」「警戒」「深刻」の四段階に設定して、その段階に応じて防疫体制を格上げした。その対策の特徴は@大々的な検査、A迅速な対応、B透明な情報公開、C市民と官・民の協力だという。その中心に存在するのが疾病管理本部である。この「透明な情報公開」は、感染者の移動経路データの公開など個人情報管理の徹底と裏腹であろうが、日韓両国の危機対応の違いで強調されるのはやはりPCR検査体制の圧倒的な差である。「つい一カ月前、むやみに検査する韓国方式に苦笑していた日本政府当局者の口調はすっかり重い」(『朝日新聞』4月19日)とされている。日本の立ち遅れだ。

 二〇一五年のMERS(中東呼吸器症候群)で死者三八人を出したことを教訓とした韓国の感染症対応は、香港の新聞が「封鎖のような強硬策でなく、市民の協力に依存して透明性を強調」「外国人の入国を遮断した他の国と違い、外国人の入国制限も最小限に止まった」と報じたように、国際的な評価を得ている。韓国国会はF35ステルス戦闘機など軍事費を削減し、緊急災害支援金に回すことも決定した。緊急事態宣言ではない別の道があることに学ぶべきだし、感染収束へ日韓連携が築かれるべきだが、徴用工裁判判決をめぐって実施した半導体製品輸出規制など安倍政権の強硬な対韓国外交姿勢がそれを阻害している。

 困窮者を支援しつつ、この国のあり方を変える


 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界経済・労働者はリーマン・ショック以上の打撃を受けるとされている。日本でも契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど非正規労働者、フリーランスの雇用が失われ、自営業者が苦境に陥り、またネットカフェ閉鎖で行き場を失ったり人が生まれたり、障害者施設の困難、障害者の困窮が際立っている。緊急事態宣言発令により、その困窮は一層拡大した。

 4月16日、反貧困ネットワークなどが結集した「新型コロナ災害緊急アクション」の厚労省などとの交渉が行われた。そこでは「生活保護」「居住」「雇用と労働」「障害者」「学生と奨学金」で要求が突き出された。生活保護では「制度の周知徹底・オンライン申請実現・資産要件緩和」、居住では「公的住宅空き室を住居喪失者に無償提供」、雇用と労働では「雇用調整助成金の手続き、条件の簡素化」「失業手当の給付資格の緩和」「外国人労働者への生活保障拡充」、障害者団体からは「売上高、事業高が減少している事業所への補填」など、紹介できないほどの要求が出され、交渉は引き続き行われている。このアクションに参加したジャーナリスト・竹信三恵子さんは「女性、障害者、外国人労働者の声を聞かないと感染症対策はできない」、弁護士・宇都宮健児さんは「新型コロナウイルス問題で日本社会のひずみが現れている。困窮者を支援しながら、この国のあり方を変える闘いをせねばならない」とした。今回のコロナ禍で、新自由主義下で拡大した日本の格差社会、福祉削減が問われている。それを克服する取り組みを進めたい。