「進歩と改革」No.821号    --2020年5月号--


■主張 3・11東日本大震災から9年の春に

 力強い復興支援・生活再建支援を


 2011年3月11日の東日本大震災から今年で9年が経過した。死者は1万5899人、行方不明者が2529人に及ぶ(警察庁発表、3月10日)。多くの尊い命が失われた。死者の数には、行方不明で発見されないまま死亡届けが出された方も含むから、無念さが積み重なった悲しみの数である。最大約12万戸あった仮説住宅は、新年度中に原発避難者向けを除いて無くなる予定だとされるが、いまなお避難生活を続けている人は、約4万8000人(復興庁、同)に上る。災害公営住宅(復興住宅)は計画の99%が完成したというが、その住宅を昨年秋の台風19号が襲った。在宅被災者は置き去りにされている。

 福島第1原発事故によって帰宅困難地区とされ、この間に避難指示が解除された地区に戻れる人は少ない。3月10日、福島第2原発のある富岡町の一部の避難指示が解除された。双葉、大熊町の一部解除に続くもので、JR常磐線が全線開通した。安倍首相は「復興は新たなステージに入る」としたが、政府は、10年となる来年の3・11追悼式典を最後にしようとしている。そこにある意図は、復興支援の縮小であろう。息の長い力強い復興支援・生活再建支援が求められている。

 作家の渡辺一枝さんの『聞き書き 南相馬』(新日本出版社刊)は、「3・11以後、一人ひとりがどのように思い、その思いは揺らぎ、揺らぎながら生き続けてきたか、『南相馬』を定点として書き綴った」被災者に寄り添うやさしさに満ちた本である。この本は、津波で小学生と幼稚園児、祖父母の一家4人を亡くした上野敬幸さんの次の言葉を紹介して閉じている。「もうじき3月が来るとテレビや新聞は、あれから9年なんて言い立てるでしょう。その日を騒ぎ立てるなんてバカみたいだ。その日だけ思い出したみたいに慰霊祭やるなんて、バカみたいだ。僕のところにも取材したいなんて言って来るのがいるけど、絶対に出ないです。断っています。もっと他の捉え方をしろって言ってやるんです」。我われにとっても重い言葉であるが、この思いへの答えを探しながら、3・11をこれからも記憶したいと思う。 

 福島第1原発事故の教訓は「原発を無くすこと」


 福島第1原発事故から9年。福島第1原発はどうなっているのか。元京都大学原子力研究所の小出裕章さんが『で、オリンピック止めませんか』(亜紀書房刊)という本で分かりやすく書いている。安倍首相が2013年9月3日、ブエノスアイレスのIOC総会で「原発事故はアンダーコントロールされている」と発言をした当時、溶けてしまった原子力建屋の中の炉心(ウランの固まり)を冷やすために、毎日400トンの水を炉心のあったと思われる場所に向けて入れ続けていた。その他に、地震でボロボロになった原子炉建屋に毎日400トンの地下水が流れ込んでいる。合計800トンをタービン建屋からポンプで汲み上げ、400トン分は戻すことにしたが、残り400トンはタンクに貯めていた。その量は当時、43万トンである。

 原発立地の東側にある海の手前に井戸を掘ってその水の汚染を調べたら、セシウム134は1リットルあたり6万1000ベクレルで、環境に流せる基準60ベクレルの千倍以上、セシウム137は19万ベクレルで基準値90ベクレルの2千倍以上で、これらが福島第1原発の地下に流れている。「アンダーコントロール」などされていなかった。今では100万トンを超える汚染水が福島原発敷地内のタンクに貯まっており、東電・政府はその処理に困り、海に流そうとしている。溶け落ちてしまった炉心の固まりであるデブリの処理も困難で、小出さんは、当面は「石棺」で覆うしかないが、石棺で100年覆っても事故は収束しないと言っている。福島第1原発事故から得る教訓は、原発の廃止である。 

 新型コロナウイルス感染拡大・WHO「パンデミック宣言」の下で


 東京五輪は、新型コロナウイルスが引き起こす肺炎(COVID‐19)感染の拡大で、「1年程度の延期」が決定した。安倍首相の自民党総裁任期(2012年9月)内の開催がめざされたようだ。安倍政権は「再チャレンジ」を標榜して登場したが、いまや原発は「再稼働」、東京五輪は「再始動」である。

 WHO(世界保健機関)は「パンデミック」(世界的な大流行)宣言を行った。世界の感染者は70万人、死者は3万人を超えた。日本での感染者は2706人で、97人の方が亡くなった(朝日新聞、3月31日)。新型コロナウイルスは、日本の株価至上主義経済、アベノミクス、格差社会を直撃している。検疫・検査・医療体制が問われ、、雇用確保、仕事を失ったフリーランスなどへの休業補償が求められている。

 「公衆衛生というものは信頼を基礎に成り立つものである。国民の信頼が社会的資本であって、それを基礎にしないとこうした事態と闘うことができない」。この言葉は、3月19日に開催された集い(主催・重慶大爆撃の被害者と連帯する会)でのジャーナリスト・高野孟氏によるものである。『フォーリン・アフェアーズ・レポート』最新号の座談会での発言を紹介したものだが、高野氏は「国民の信頼、これが今の安倍首相に一番ないものである」とした。曽我部真裕・京都大学教授は『朝日新聞』(3月29日)で、清水真人「『安倍一強』隠せぬ弱点 新型コロナ危機と統治」を論評し、民主主義国で危機に対処する際の基本原則は、第1に「法の支配(法治主義)」、第2に「国会の責任」、第3に「政治指導者と専門家との役割分断」だとしつつ、「法的根拠なき自粛要請は第1の問題に、特措法改正で可能となった緊急事態宣言に対する国会の関与が(承認ではなく)『報告』にとどまった点などは第2の問題に、専門家の意見を踏まえずに一斉休校を要請したことなどは第3の問題に、それぞれ関わる」とし、一強となった安倍流統治手法の構造的弱みを紹介している。専門家集団の有様に批判もあり、安倍政権への監視を怠るまい。