「進歩と改革」No.819号    --2020年3月号--


■主張 安倍首相施政方針演説にみる「東京五輪」「朝鮮」「沖縄」

 「オリンピックの政治利用」


 第201回通常国会は、1月20日に召集された。安倍首相は施政方針演説で、64年東京オリンピックの最終聖火ランナーの坂井義則氏や「東洋の魔女」が活躍した女子バレー、そのバレーボールを生み出し今も製造する広島の小さな町工場を讃え、明治の時代、オリンピック精神に出会った嘉納治五郎の興奮を語り、パラリンピック開催に尽力した中村裕医師などゆかりの人物を紹介した。まるで昨年のNHK大河ドラマ「いだてん」のようなオリンピック賛歌を演説にしたもので、これでは「五輪で結束 政治利用か」(毎日新聞、1月21日)との批判も当然である。リオ・オリンピックの終了直後、2020東京オリンピック・パラリンピック開催のメリットとして「国威発揚」を挙げた無知なNHK解説者がいて批判されたが、安倍首相はこの解説者とそう大きな違いはないようだ。

 「復興五輪」も語られたが、いま語られなければならないのは、大会招致時に安倍首相によって行われた福島第1原発の「アンダーコントロール」発言ではないか。福島第1原発の汚染水は深刻度を深めており、コントロールなどされてはいないのだ。「さようなら原発1000万人アクション」は、福島第1原発事故は収束するどころか、健康被害はさらに拡大していること、収束作業や除染作業などで被ばく労働が差別労働によってもたらされていること、被害者への賠償や避難者の住宅提供を打ち切り、住民の分断をはかっている現状を指摘し、「東京五輪で消されゆく原発事故被害」を世界に訴えていくことを目的に3月21日、国際シンポジウムの開催を予定している(3月20日も集会)。  安倍首相の施政方針演説では、「桜を見る会」私物化・選挙買収疑惑と公文書管理の違法性、カジノ(IR)汚職、2閣僚辞任問題など国民最大の関心事について、何も触れられなかった。長期政権の驕りと腐敗・腐食・腐臭が際立つ演説であったが、持論の憲法改正だけは「歴史的使命」「憲法審査会の責任」とした。それを許すまい。

 「コピペ演説 真剣さ伝わらね」


 この施政方針演説を痛烈に批判する「声」が、『朝日新聞』(1月27日付)に掲載された。「コピペ演説 真剣さ伝わらず」との見出しで、次のようにある。

 「私は首相の演説の中で北朝鮮の拉致問題の箇所に注目してきた。いぜん解決に至らぬ重要な課題だからだ。今回は『何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、条件を付けずに、私自身が金正恩委員長と向き合う決意です』だった。以前も聞いたような言葉だ。調べてみると、2019年1月28日の施政方針演説にこうあった。『私自身が金正恩委員長と直接向き合い、あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動いたします』。今回の演説と趣旨はほぼ同じではないか」 同年10月4日の所信表明演説も同じだという。「こうもコピー&ペーストのような演説が続くと、政府が拉致問題について真剣に取り組んでいるとは考えにくい。熱意と戦略が欠けているのではないか」 

 拉致問題解決についての投稿者の意見は、この「声」からでは分からないが、解決への糸を探るにはやはり、和田春樹・東大名誉教授が指摘されるように、直ちに日朝国交正常化交渉を開始するしかないのではないか。施政方針演説には、「戦後外交の総決算」「新しい時代の日本外交を確立する」ことが謳われたが、拉致問題の前に「日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指します」とあり、少々意外である。昨年の施政方針演説では「北朝鮮の核、ミサイル、そして最も重要な拉致問題の解決に向けて、相互不信の殻を破り、次は私自身が金正恩委員長と直接向き合い、あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動いたします。北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指します。そのために、米国や韓国をはじめ国際社会と緊密に連携してまいります」とされていた。今回は、核、ミサイルへの言及がなく、拉致問題より国交正常化が先にあるから、変化と言えば変化である。速やかな日朝国交正常化交渉開始を求めて行動していかねばならない。

 「沖縄」にたった一言しか触れない安倍首相


 安倍首相の施政方針演説の特徴は、沖縄問題への言及の弱さである。「抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担軽減に、一つひとつ結果を出してまいります」と、たった一言しかない。そう言えば、自衛隊の中東9条に基づいて徹底的な追及が求められている。

 安倍首相は、日米安保条約が改定60年を迎え、「日米同盟は、今、かつてなく強固なものになった」とするが、その下で苦しむ沖縄へ思いは至らない。辺野古新基地建設では防衛省沖縄防衛局が昨年末、着工から使用開始までの期間が当初予定していた8年から12年に伸びるとの試算を公表した。埋め立て予定海域で見つかった軟弱地7盤に、7万本以上の杭を打つなど地盤改良工事が必要とされたためである。そのため「3500億円以上」と見積もられてきた経費も「約9300億円」に膨らんだ。約2・7倍である。

 この「12年」は、沖縄県が政府からの設計変更申請を承認してからの期間だが、玉城デニー県知事は当然、申請を承認しない構えであり、実際の使用開始時期は見通せない状況にある。辺野古新基地建設は諦めるにしくはないのだ。玉城知事は「これだけ時間もお金もかかるのであれば、一日も早く普天間の危険性を除去するにはどうすればいいか」と述べており、そこに英知を集めなければならない。沖縄では今年6月に県議会議員選挙が行われる。自民党を敗北に追い込み、あきらめない安倍政権に引導を渡したい。