「進歩と改革」No.818号    --2020年2月号--


■主張 「共同戦線形成」へ「社民党の改革・再生」の道を   編集部

 はじめに


 昨年7月の第25回参議院議員選挙を終え、10月4日召集の第200回臨時国会も12月9日に閉会した。安倍政権の通算在職日数は11月20日に2887日となり、憲政史上最長を記録した。安倍政権の存続は憲法破壊政治の存続である。安倍政治の一刻も早い終焉が求められる今、野党「合流」、再編の大きな動きも浮上している。今日の情勢の中で、我われ社会民主主義者に求められる課題について主張をしておきたい。

 1 参院選結果が突きつけた課題―立憲野党は「政権戦略連合」へ


 先の参院選闘争について、本誌はすでに次のような総括を行ってきた。その第1は、1人区決戦においてギリギリ10議席を獲得したことの意義についてである。その結果、わずか4議席の差でしかないが「改憲勢力の3分の2割れ」を実現し、改憲国会発議を当面阻止しうることになった意味は極めて大きい。

 第2の総括点は、自・公・維新3党の「3分の2」に迫る「大勝」を許したという冷厳なる事実である。1人区決戦は、「21勝対10勝」がまさに客観的数字であり、我われに突きつけられている現実である。事態の本質とは何か。「野党と市民の共闘」が、いまだ「自公共同戦線」にかなわないということではないか。中北浩爾・一橋大学大学院教授が『自公政権とは何か』(ちくま新書)で「野党は自公連立20年に学べ」と指摘されているように、完璧に近い選挙協力と連立を形成している自・公に対し、野党・市民の側では、いまだに「共産党とは一緒にやりたくない」などと、「共同闘争」の水準に至らない状態が全国各地で続いている。野党の側が「脆弱な選挙協力」という次元に留まっているということである。

 立憲野党・市民の側が勝利するにはどうしたらよいか。答えはまさに明白である。一つは文字通り、1人区決戦勝利の総括の中にある。もう一つは、歴史的実践の総括の中にある。すなわち10年前の民主・社民・国民新の3党連立政権を形成するに至ったプロセスにおける総括の中にある。民主党政権崩壊以降、今次参議院選に至るまで国政選挙の投票率は52〜57%で推移し、今次参議院選では48%台と低下してきた。3党連立政権を押し上げた力のざっと1500万人の有権者が今や投票所に足を運ばなくなってしまった。低投票率の理由について、新聞各紙の世論調査では「投票しても政治は変わらない」「野党が安倍内閣に不満をもつ人の受け皿にならなかった」「政治に関心がない」が主要な答えとなっている。

 以上の現実状況を分析するならば、立憲野党・市民の側が選挙に勝つための方策は明解だ。無党派層をどれだけ動かせるかに、すべてがかかっている。そのために必要なことは、第1に「選挙共闘」の組織論的脆弱性の克服である。第2に、国民が希望をもてる共通政策を具体的な形で生々しく提示せねばならない。第3に、「自公政権に代わる受け皿を準備できるか」という、より多数の国民の声に真に答えていかねばならない。そのためには、「共通政策選挙共闘」から「政権戦略連合」を形成する課題の実現にどの程度迫っていけるのか、という重大問題がある。そして事態のカギを握っているのは野党第1党の立憲民主党である。

 立憲野党の共闘における「山本れいわ」の位置についても重要である。次の衆議院選にむけた野党共闘体制の形成にとって、山本れいわはまぎれもなく「台風の目」になっていくであろう。すでに山本代表と志位共産党委員長との間で消費税5%への減税で合意がなされている。我われのスタンスは明瞭だ。野党戦線の分裂ではなく、共闘形成にむけて総力を挙げていくことである。以上の立場にたてば、求められているのは野党の一部分における「合流」、再編ではない。

 2 「合流」に向けた枝野発言


 いま立憲民主党への国民民主党、社会民主党、無所属議員グループの「合流」問題が浮上している。その端緒は12月6日、立憲民主党の枝野代表の国民民主党・玉木代表、社会民主党・又市党首、無所属の野田前首相らへの呼びかけで、その後の記者会見では次のように述べている。

 「立憲民主党は、これまで、理念政策をともにする方が個人として入党していただけるなら歓迎するという立場でした。しかし、この間、共同会派結成にあたっての合意に基づき、一体となった国会対応で成果をあげることができたことは、会派を共にする皆さんが、それぞれ寛容な心でご尽力いただいた結果だと感謝しています。このことを通じて、私は、会派を共にする皆さんは、十分、理念政策の共有をしていただいていると考えます。以上のことを踏まえ、今後、私は、より強力に安倍政権と対峙し、次の総選挙で政権を奪取して『まっとうな政治』を取り戻し、国民生活と公平公正な社会を守るため、会派結成にあたって合意した考え方に基づき、共同会派を共にしていただいている政党、グループの皆さんに幅広く立憲民主党とともに行動していただきたいと思うに至りました。安倍政権に代って政権を担いうる政党を築き上げ、次期総選挙での政権交代を現実のものにするために、会派を共にする、国民民主党、社会民主党、社会保障を立て直す国民会議、無所属フォーラムの皆さんに立憲民主党とともに闘っていただけるよう呼びかけいたします」。

 同時に、枝野代表はこの会見で「なお、今日私の文章に『合流』という日本語は含まれておりません」とし、記者の「れいわ新選組への同趣旨への呼びかけ、働きかけは考えているのか」との質問には、「『共同会派としての運営を進める中で、会派内での相互理解と相互信頼の醸成も進みました』『会派を共にする皆さんとは十分理念政策を共有していただいていると考えます』と申し上げました。これを前提とした呼びかけであります」と答えている。れいわ新選組への呼びかけはしないということであり、今回の「合流」が、れいわ新選組と共産党との政策合意に対処する一つの方策と見られても仕方あるまい。

 3 立憲民主党はいかなる党か


 安倍政権打倒、政権交代へむけた立憲野党の共同とは何か、が決定的に問われている。社民党にとって、それは立憲民主党への「合流」によって実現するのか? 社民党が独自に存在して共同に貢献するのか、という問題である。現実の社民党をめぐる情勢がまことに厳しいことを否定するものは誰もいない。社民党の内外では、「衆・参2つの選挙結果は、社民党に対して『自然消滅』か『立憲への合流』かを、突きつけた。展望をもてるのは『立憲』しかない」という意見が出されている。

 まさしく一つの意見であろう。しかし、この提起、また枝野提案について客観的かつ現実的捉え直しをした場合に、どう結果するであろうか。一言でいって、それは当面の現実的政治状況の中では「社会民主主義者の主体の解体」に帰結することになると判断すべきである。立憲民主党への合流とは、まぎれもなく社民党の店じまいだが、それはまた社民党に結実する社会民主主義の減退に通じるものと危惧する。その道を塞ぎたい。

 そこで立憲民主党とは、現在どのような政治集団であるのか。立憲内部で苦闘している活動家・幹部の総括を踏まえると、次のような決定的な問題点を抱えている。

 @市民・活動家が主体者として参加し、活動していく民主的な組織論の欠如。「党を通じて日常の暮らしや現場の声を立脚点としたボトムアップの政治参加」という建前の「立憲パートナーズ」制度があるが、一人一人は「主体のないバラバラの駒」としてしか位置づけられていない。

 A現在の立憲の組織運営では、「運営委員」としての国会・地方議員しか存在しない。地域活動を積み重ね、有権者と直接にかかわり、選挙のノウハウを蓄積していく党員制度がない。このような党は「社会変革の党」にはなり得ない。

 B「政策・政治方針の決定」プロセスにおける民主主義の欠如。枝野党首を軸とした中央段階幹部による典型的トップダウン方式。国会議員候補擁立ですらトップダウンである。

 以上は、立憲民主党組織における「民主主義の欠如」という問題である。

 加えて本誌は、立憲民主党の「基本思想」がはらむ問題点についても指摘しておきたい。「韓国問題」である。枝野代表は「国際法の観点で言えば『徴用工』の問題も、『貿易管理』の問題も、日本に理がある。その点では政府を支持しています。『日本に理がある』という国際法上の事実について、日本の政治の内側から疑問視すれば国益を損ねます」(『AERA』2019年8月12・19日号)としている。枝野代表がこの間に採ってきた「宏池会」スタンスは、安倍政治への対抗としてギリギリ許容できるとしても、これはいわば「保守リベラル」である。そして韓国問題に対する彼の認識と見解は、そのリベラル性を破壊するもので、日本政治の過去清算と明日への開拓に背理するものと明確にさせておかねばならないと思う。

 4 社民党は立憲民主党への合流でなく「独自の主体」を


 現在浮上している「合流」論において、こうした問題は解消されるのか。社民党から解明すべき点として挙げられているは地方組織や党員制度、専従者、機関紙、運動論などである。社民党の文書によると、吉川幹事長は12月1日に立憲民主党の福山幹事長と会談し、社民党常任幹事会で出された解明すべき点、不明な点について指摘し、立憲側の考え方や見解を求めたという。そのなかで、党員制度や地方組織について立憲側は「今後、一般党員の拡大を進める」「地方組織も合体したい」との立場であることが述べられ、吉川幹事長は立憲に「今後に様々な問題について話し合いの場」を要請し、枝野提案に対する党の態度は「2月22日、23日に予定している全国大会で結論を出したい」と伝えた。 

 立憲民主党への社民党「合流」に賛成する党員も、地方組織の合流がどうなるのか、その保障はあるのかは、極めて大きな関心事である。そこから、この福山幹事長の「今後、一般党員の拡大を進める」「地方組織も合体したい」との発言が注目されているが、立憲民主党の基本的な組織論を変えることは困難であろう。

 心配なのは、社民党全国連合幹部の「合流」への前のめりな姿勢である。そもそも10月3日の社民党全国幹事長会議では、先の参院選を「自民、公明、立憲民主、国民民主が軒並み得票数を減らす中で、社民党は国民政党として危機感を共有し、善戦した」と総括し、又市党首は「立憲民主党とは政策は近いが合流はない。沖縄辺野古、消費税、北東アジアの非核構想などでわが党は立憲民主党とは意見が違う」(『社会新報』10月16日)としていたではないのか。 それからわずか2カ月である。

 現在我われが直面している情勢はまことに重大である。2021年9月末の安倍自民党総裁任期満了を前に、9条改憲をめぐる闘いは今後1年が勝負となる。安倍改憲が決定的局面にある時に、安倍改憲NO!を闘い続けてきた社民党の旗を下ろす選択肢はないはずだ。9条改憲阻止・護憲の旗の下に総力を傾注してきた社民党は、今こそ市民運動、大衆運動を強化拡大していく時である。そして、こうした闘いの中からこそ社民党の再生をめざすべきである。また、大衆闘争での共同の闘いを通してこそ、次なる「リベラル・社民」の新たなる党を形成していかねばならないだろう。

 以上の立場を踏まえれば、本誌は社民党は立憲民主党への「合流」ではなく、社民党の主体を独自に打ち立てて、苦しくとも社民党の革命的自己改革・再生への努力を積み重ねていって欲しい。解党ではなく、自己改革・再生の道を! その課題の重さを自覚しつつ、社会民主主義の党存続の意義を訴えたい。