「進歩と改革」No.816号    --2019年12月号--


■主張 ホームレスの人びとを排除した災害対策に思う

 台風19号の襲来によって、関東・甲信越・東北各地に大きな被害をもたらした。河川氾濫・決壊と住宅地浸水、土砂崩れ、家屋倒壊、車の水没・河川への転落等々、亡くなった方は13都県90名(11月4日、朝日新聞)という甚大なものであった。台風15号での強風被害も千葉県を中心に大きく、また19号に続いた豪雨災害も激しいものであった。亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、被災された皆さまにお見舞い申しあげる。被災者・避難者の安全と健康、生活環境改善に全力を尽くし、住宅・農林水産業など一日も早い復旧を計らねばならない。  

 台風19号で流出したフレコンバック、福島第1原発事故現場は?


 今回の台風被害では、大規模降雨を想定した河川整備、事前の防災・避難対策と復旧への人員確保など多くの課題が指摘されるが、合わせて気になるのが東電福島第1原発のことである。あれほどの台風で福島県内にも大きな被害が出ているのに、福島第1原発の事故現場・現状については、一部で「異常なし」との報道があったといえ、ほとんど情報が伝わってこない。これはどうしたことであろうか。福島第1原発事故の汚染廃棄物を詰めたフレコンバックが仮置き場から河川に流出し、90袋中36袋が行方が不明で、回収に難航しているというニュースも心配だが、福島第一原発の事故現場については報道されていないのが現状だ。見過ごすことなく、強い関心をもって、声をあげていかねばならないと思う。  

 「住民票がない」と台東区が排除


 指摘したい今一つは、東京・台東区がホームレスの人びとの避難所利用を拒否したことである。。そのときの事実経過を、一般社団法人「あじいる」が、次のように告発している。「あじいる」は、生活困窮者への食の支援をする「フードバンク」と、ホームレスの人びとの生活・医療相談活動を行ってきた「隅田川医療相談会」が統合して、2019年に発足した市民団体である。

 「あじいる」のメンバー5人が、12日の午後1時過ぎ、上野駅周辺(上野駅構内、文化会館周辺)のホームレスの人々に、非常食やタオル等を配ると共に、台東区の自主避難場所で上野駅から最も近い忍岡小学校に避難するよう勧めるチラシを配布しました。しかし、もうすぐ全員に配り終えるというとき、一人の男性が、「午前九時ごろに行ってみたが、ことわられた。住民票が北海道にあるからといったら、ここは都民のための避難所ですと言われた」と言われました。
 小学校に出向いて区職員に確認し、その場で台東区の災害対策本部に電話をつないでもらい、真意を確かめました。すると、「台東区として、ホームレスの避難所利用は断るという決定がなされている」と明確な返答が返ってきました。
 私たちは、上野駅に戻りチラシの情報は誤りだったと告げて回ると、上野駅の入り口に座っていた一人が「今さっき行ってみたけれど駄目だと言われて帰ってきた」と話されました。その後、再度台東区災害対策本部に「今後避難準備や避難勧告が出た場合も避難所は利用できないのか」と問い合わせたところ、「ホームレス(住所不定者)については、避難所は利用できないことを対策本部で決定している」との返答でした。    

 「ホームレスの人びとの命と人権を守る」意識の欠如


 「ここは都民のための避難所」「ホームレスは避難所を利用できない」と、台東区の排除の姿勢は明確であった。台東区の対応を問題視した「あじいる」は、服部征夫・台東区長に申し入れを行った(10月21日付)。この申し入れに問題の本質が指摘されているので紹介したい。  ……ホームレスの人々を、災害対策の対象から除外するということは、行政として命を守らないということを宣言したことになります。災害対策基本法は、その目的(第1条)として「国民の生命、身体及び財産を災害から保護する」と掲げ、基本理念(第2条の2)として、「人の生命及び身体を最も優先して保護すること」と定めていますが、この目的・理念を逸脱しています。家がないという状態が、災害に対して最も弱い存在になるということは、言うまでもありません。  台東区は拒否をした理由として「事実として、住所不定者の方が来るという観点がなく、援助の対象から漏れてしまいました」と報道関係者に説明しています。台東区は、山谷を抱える地域であり、ホームレスの人々が多く住んでいる地域であるにもかかわらず、住所がない人たちの存在を想定していなかったというのは、日常の業務の中でも、その人たちの命や人権を守るという意識が欠如していたからではないでしょうか。私たちは、災害対策) だけでなく、台東区が住所のない人たちへの日常的な対応を全庁的に検証し、改善することを求めます。  

 「当事者・支援団体の声」を聞く大事さ


 「あじいる」は、今回の台東区の決定は「行政が人の命に優劣をつけ、切り捨てていくという絶対許されない行為」だとして強く抗議した。同時に、「被害者に届くような謝罪」「災害対策基本法の基本理念の基づく責任の遂行」などを要望したが、そのなかに「これからの対策において、当事者並びに支援団体の声を聞いて下さい」とある。今回の大豪雨に地球温暖化の影響が指摘され、災害大国日本で今後の対応が問われているとき、行政だけの対応では限界がある。当事者・支援団体との話し合い、共同が問われてくる。「排除でなく社会的包摂」へ、今回の台東区の排除を負の教訓にしたい。