「進歩と改革」No.811号    --2019年7月号--


■主張 狭山事件56年、鑑定人尋問・再審開始決定を!

 石川一雄さん80歳、石川さんは無実です!
 

 5月23日『朝日新聞』東京本社版朝刊の10面すべてを買い切って、狭山事件の再審を求める意見広告が掲載された。上半分に石川一雄さん、早智子さんご夫妻の写真が大きく配置され、「石川さんは無実です。」「石川一雄80歳。」「50年間、無実を訴え続ける人。」「狭山事件の裁判のやり直しを求めます。」と大きな活字でアピールされている。

 意見広告の右下には「知っていますか? えん罪 狭山事件」として、1963年に埼玉県狭山市で起きた女子高校生誘拐・殺害事件で、身代金を受け取りに来た犯人を取り逃がす大失態を演じた警察が付近の被差別部落へ集中的な見込捜査を行い、石川一雄さん(当時24歳)を別件逮捕したこと、1カ月間におよぶ過酷な取り調べでウソの自白をさせられ、殺人事件の犯人に仕立て上げられた石川さんはその後、無実を訴え続けてきたが、1審で死刑、2審で無期懲役、最高裁でも上告が棄却され無期懲役が確定。逮捕から31年7カ月の獄中生活の後に仮釈放、石川さんは事件から56年が経過しようとする今も無実を訴え続け、東京高裁に再審(裁判のやり直し)を求めていることが紹介されている。  

 脅迫状、万年筆の「2つの新証拠」で無実をアピール!


 意見広告左下には、「『新証拠』が示す2つの真実」との活字とともに、〈新証拠…@ 最新の科学が無実を証明 脅迫状の文字は石川さんが書いたものではない!〉 〈新証拠…A 石川さんの家から発見された重要証拠の「万年筆」は被害者のものではなかった!〉とアピールされている。

 〈新証拠…@〉はこうである。「狭山事件では犯人が残した唯一の証拠物が脅迫状です。しかしこの筆跡が、最先端のコンピューターを駆使した福江潔也・東海大学教授による筆跡鑑定により、99・9%以上の確率で石川さんの筆跡と違うことがわかりました」。

 〈新証拠…A〉はこうある。「石川さん宅から見つかった万年筆には、被害者が事件直前まで使っていたものとは違うインクが入っていましたが、これまでの再審請求では『違うインクが補充された可能性がある』として、発見万年筆は被害者のものとされてきました。下山進・吉備国際大学名誉教授は、当時、科学警察研究所が行なったインクの検査を調べ直して、発見万年筆には被害者が使っていたインクは混入していないことを明らかにしました。さらに、X線照射による科学的分析が行われ、インクに含まれる元素の違いからも、石川さん宅から発見された万年筆には被害者が使用していたインクは微量も混入していないことを証明しました。これによって、有罪判決の需要証拠とされてきた万年筆は、被害者のものではないということが証明されました」。

 このように新聞意見広告は、脅迫状の文字に関する堀江鑑定と、万年筆に関する下山鑑定・下山第2鑑定の2つの新証拠から、石川さんの無実を明らかにして、鑑定人尋問を求める内容となっている。この意見広告は、関東1都6県、中信越3県と静岡県、そして東北6県を加えて17都県、370万部のエリアに掲載された。部落解放同盟関東甲信越地方協議会を中心にカンパが呼びかけれてきた。  

 つぎつぎに無実の新証拠!
  

 新聞意見広告が掲載された5月23日は、犯人逮捕に失敗した警察が、部落差別に基づく見込み捜査で、石川一雄さんを不当に逮捕した日にあたる。この日、午後からは日比谷野外音楽堂を会場に、「狭山事件の再審を求める市民集会」が開催され2000 人が集った。この市民集会は「つぎつぎと無実の新証拠! 東京高裁は鑑定人尋問を!」とタイトルされたように、2006年5月に東京高裁へ申し立てられた第3次再審請求で、弁護団は専門家による鑑定書など新証拠をつぎつぎと提出し、石川さんの無実を証明してきた。先の福江鑑定、下山鑑定、下山第2鑑定がそうである。

 新証拠はこれでけではない。1つに、スコップに関する平岡義博・立命館大学教授の鑑定意見書2通がある。狭山事件では、死体発見現場から約125メートルの麦畑で発見されたスコップが、石川さんがかつて働いていたI養豚場から盗んだもので、死体を埋めるのに使われたと有罪証拠にされた。その根拠は、事件当時に埼玉県警鑑識課員が作成したスコップに付いた土壌と油脂の鑑定である。しかし、平岡鑑定意見書は、発見されたスコップが死体を埋めるために使われたものとも、I養豚場のものとも言えないと指摘した。平岡氏は、元京都府警察本部科学捜査研究所技官であり、土の分析を専門としている。この鑑定意見書のもつ意味も大きいというべきであろう。

 また第3次再審請求で弁護団は191件の証拠を開示させたが、その中の取調べ録音テープでは、死体の状況を説明できない石川さんに対して警察官らがヒントを与え、露骨な誘導まで行って自白させていた実態が明らかになっている。脅迫状に石川さんの指紋がないことも齋藤保・指紋鑑定士の鑑定で明らかになった。今年4月1日には、「狭山事件における捜索・差し押さえに関する心理学実験」と題する原聡・駿河台大学教授と厳島行雄・日本大学教授による鑑定書(原・厳島鑑定)も提出されている。これは心理学者が探索実験を踏まえて、万年筆の発見経過に疑問を指摘したものである。福江鑑定、下山鑑定、平岡鑑定、齋藤指紋鑑定、原・厳島鑑定などなど弁護団より提出された新証拠は200点を超す。  

  東京高裁第四刑事部・後藤眞理子裁判長は鑑定人尋問・再審開始を!


 狭山事件の確定有罪判決は、1974年10月31日に東京高裁・寺尾正二裁判長が行った無期懲役判決である。寺尾判決が有罪の中心根拠としたのが、筆跡の一致、万年筆(秘密の暴露)、スコップ、自白であった。いま第3次再審請求での新証拠提出によって、このすべての根拠が崩れ去っている。こうして見れば、東京高裁第四刑事部(後藤眞理子裁判長)がなすべきことは明らかである。鑑定人尋問の実現であり、再審開始の決定である。

 市民集会で基調報告に立った部落解放同盟の片岡明幸・中央狭山闘争本部長は、「いよいよ最後の決戦のときが来たと思う。弁護団では、できれば後藤眞理子裁判長の任期のある間に、鑑定人尋問実現の道筋をつけてもらおうと確認した。そのために最終的な意見書をまとめる作業を始めることになった。いつになるか明確な時期は言えないが、早くは年内、遅くとも来年の今の時期には、最終的な意見書をまとめて裁判所に提出する作業を進めていくことになる」とした。狭山事件の再審開始へ鑑定人尋問を実現すべく世論を大きく高めていこう。