「進歩と改革」No.810号    --2019年6月号--


■主張 「令和改憲」を許さない―統一自治体選を終え参院選へ!

 「天皇代替わり」の奉祝ムードの中で、平和・国民主権・政教分離強化の道を
 

 「平成 終幕」「新天皇陛下 即位」「令和時代 幕開け」と新聞見出しが大きく躍り、テレビ番組も天皇代替わりでほぼ一色化された10連休。旧天皇が讃歌され、新天皇への奉祝ムードが日本列島を覆った。

 このムードを「社会の統合 皇室頼みに危うさ」と指摘するのが原武史・放送大学教授である(5月1日『朝日新聞』)。ここでの「社会の統合」には、「知識人や歴史学者の間にも天皇のシンパも増えた。『君主制が民主主義を強化した』という人さえいる」という現状が含意されている。「君主制が民主主義を強化したという人」は、神戸女子学院大学名誉教授にして武道家で、リベラルな執筆活動を展開している内田樹氏であろう。内田氏の著書『街場の天皇論』(東洋経済新報社)には“ぼくはいかにして天皇主義者になったのか”と帯打たれ、「(2016年8月8日の)おことばは天皇制の歴史の中でも画期的なものだった」「象徴天皇の本務は死者たちへの鎮魂と今ここで苦しむものの慰藉であるという『新解釈』を付け加えられた。これを明言したのは天皇制史上はじめてのこと」「昔の私のように『立憲民主制と天皇制は原理的に両立しない』と言う人には、『両立しがたい二つの原理が併存している国の方が政体として安定しており、暮らしやすいのだ』と説明しています」という。

 しかし、原武史氏は近著『平成の終焉』(岩波新書)で、「『おことば』を発することで、天皇が日本国憲法で禁じられた権力の主体になっている」「『おことば』では、天皇自身が象徴天皇の務めについて定義しています。…しかしそもそも、『象徴天皇の務めとは何か』という問題は天皇が決めるべき問題ではなく、主権者である国民が考えるべき問題であるはずです」「つまり国民どうしが話し合い、国民の多様な意思を反映する国会で議論を重ねた末に天皇に向って発議し、その結論を天皇がきちんと受け止めなければなりません」と指摘している。主観的に立憲民主制と天皇制の併存を評価する内田氏に比べ、原武史氏は憲法に謳う国民主権擁護の立場からのまっとうな提起であると思う。

 その原武史氏が『朝日新聞』(5月1日)で指摘するのが、「本来政治が果たすべきその役割が、もはや天皇と皇后にしか期待できなくなっているようにも見える。そうであれば、ある意味では、昭和初期に武装蜂起した青年将校が抱いた理想に近い。民主主義にとっては極めて危うい状況なのである」というものである。時代の転換点を誤らないために、心して平和・国民主権・政教分離の実践を磨いていかねばならない。  

 「平和といのちと人権を! ―許すな安倍改憲発議― 5・3憲法集会」に6万5000人


 10連休終盤の5月3日、東京臨海広域防災公園を会場に「平和といのちと人権を! ―許すな!安倍改憲発議― 5・3憲法集会」が、6万5000人の結集をもって開催された。施行72年目の憲法記念日である。

 実行委員会を代表して挨拶した高田健氏は、次のように発言した。「ちょうど今から2年前の2017年5月3日、安倍晋三首相は従来の自民党憲法改正草案を棚上げして、新しい9条改憲案を発表した。安倍首相は、その改憲を2020年に施行すると期限を切った。この改憲は、反対の強い憲法九条改憲を迂回して、自衛隊を九条に書き込んでしまうというもので、この国を名実ともに戦争をできる国にする改憲案だ。しかし、安倍政権の悪政を糾弾し、退陣を求める運動と結びついて闘われた九条改憲阻止のこの二年間の運動によって、与党改憲派は憲法審査会で自民党改憲四項目案の提示すらできなかった。この通常国会は残すところあと1カ月半。安倍首相にとって2020年改憲を実現するためには、この通常国会で改憲発議をやるか、あるいは次の参議院選挙で3分の2の多数を獲得するしかない。9条改憲への道を全力をあげて阻止しよう」。主張は明快である。集会では、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会民主党の代表が連帯あいさつした。 

 安倍首相は今年も5月3日に、都内で開かれた日本会議系集会にビデオメッセージを寄せ、「2年前に、私は『2020年を新しい憲法が施行される年にしたい』と申し上げたが、今もその気持ちに変わりはない」とした。しかし、通常国会で憲法審査会は実質、可動していない。護憲・改憲の闘いは、やはり今夏参院選(あるいは衆参同日選も)にかかってくるのであろう。安倍首相は「令和元年という新たな時代のスタートに立って」と、改元を利用し、令和改憲を狙っている。それを許してはならないのだ。  

 統一自治体選―勝利を謳歌する自民党『自由新報』


 統一自治体選が終了した。その特徴は、何といっても低投票率であった。前半戦の41道府県議選の平均投票率は44・08%、6政令市長選は50・86%、17政令市議選は43・28%で、いずれも過去最低であった。後半戦の59市長選も47・50%、283市議選も45・57%でともに過去最低を更新した。有権者の関心の低さが示されたが、その要因の一つは今回、北海道知事選が唯一、自公と立憲野党の対立図式になったように、知事選・県議選での候補擁立、対抗政策の展開に立憲野党側が成功しなかったことであろう。

 今回の投票結果について、自民党(5月7日『自由新報』)は「強固な党基盤を確立」との見出しで、勝利を謳歌している。「知事選では、全国で唯一の与野党対決型となった北海道知事選で、わが党と公明党などが推薦する新人の鈴木直道氏が対立候補との一騎打ちを制するなど、8道県でわが党推薦候補が勝利した(県連推薦を含む)。道府県議選では、改選となった2273議席のうち、わが党公認候補1153人が当選。わが党は前回に続き、改選議席の過半数を上回る議席を獲得するとともに、今回選挙が行われた41道府県議会のうち、25道県で単独過半数を占めた。政令市議選では、前回を26人上回る327人の公認候補が当選し、総定数に占める議席占有率は前回から2・86%増加した。道府県議会と政令市議選で総定数が削減される中、わが党候補が着実に当選を果たしたことは特筆に値する」。しかし、自民党は衆議院沖縄3区、同大阪12区の補選では敗北している。

 一方、野党では立憲民主党が「道府県議選で118議席(改選前87議席)、政令市議選99議席(同76議席)。政令市議選では17市のうち10市で勢力を伸ばし、都市部を中心に党勢拡大が進んでいる」(4月8日『産経新聞』)。国民民主党は、「道府県議選では改選前の142議席に対し83議席、政令市議選では同58議席に対し33議席という大幅な目減りとなった」(同)。そして、この二つの党を合わせて、旧民主党勢力を割り込んでいることは重要だ。

 共産党は、道府県議選で99議席(前回当選111議席)、政令市議選で115議席(同136議席)で、「微減」であった。共産党常任幹部会は前半選を総括し、「わが党は17年総選挙比例票との比較では、…全体として善戦・健闘」としている(4月9日『赤旗』)。共産党は、後半選でも議席を後退させた。

 また社民党は、「道府県議選で公認25人、推薦46人の計71人の候補を擁立。うち公認22人、推薦38人の計60人が当選した(うち党員44人)。政令市議選では5人を公認、11人を推薦し(計16人、他に支持1人)、公認4人、推薦10人の計14人が当選した(うち党員9人)。当選者数は道府県改選者数の62人に及ばなかったが、政令市議選改選者数の12人を上回った」「後半戦に公認候補と推薦候補を合わせて178人を擁立して戦った。結果は151人の当選にとどまり、厳しい結果を突き付けられることとなった」(4月12日、26日『社会新報』)。厳しい中にも議席増や空白区の解消を勝ち取った県もある。その教訓が生かして参院選に臨みたい。  

 参議院選へ、「立憲野党と市民の共同」を強く


 衆院沖縄3区補選では、辺野古新基地建設を争点に、「オール沖縄」の屋良朝博氏が圧勝した。またもう一つの大阪12区補選では、共産党衆院議員の宮本岳志氏が無所属で立候補、市民と野党の共同候補として取り組まれたが、票は伸びずに敗北した。余りの惨敗に共同闘争の今後が心配されるが、安倍改憲に対抗するには立憲野党と市民の共同を強める以外にない。

 しかし、沖縄3区補選で勝ち、大阪12区補選で敗北した総括は大事である。「衆院補選大阪12区『野党共闘』なぜ惨敗?」と題した『東京新聞』こちら特報部欄(4月25日)は、沖縄国際大学の前泊博盛教授の次のようなコメントを紹介している。「今の野党は、政権が進める政策の課題を見つけ、対案を作る力が弱い。だから選挙で争点を作って一つにまとまることがなかなかできない」「例えば原発や地上イージス計画がある自治体で地元の人々が推進が反対しても、政権はそういう声を放置して政策を進める。野党がこうした国民の生活、財産に関わる問題について民意をつかみ、政権と異なる選択肢を示せない限り、有権者の支持は尻すぼみになっていく恐れがある」。政策的対立軸の鮮明化、対案形成の重要性の指摘であろう。

 いま一つ、付け加えたい。立憲民主党と国民民主党の対抗関係である。この間、国民の間に両党の対立関係が写し出されてきたが、それは野党と市民の共同への期待を削ぐものであった。統一自治体選の結果を教訓にその解消へ動きだしてはいるが、ここは安倍「令和改憲」阻止へ、まず立憲野党の共闘の姿を誠実に打ち出して欲しい。