「進歩と改革」No.807号    --2019年3月号--


■主張 第198回通常国会と問われる立憲野党の共闘強化

 佐高信「岸井成格の遺言」にみる安倍首相の底意


 評論家の佐高信さんが、社民党の機関誌『月刊社会民主』2月号に、次のように書いている。人気の「筆刀両断日記」の欄である。〈『マスコミ市民』600号に「岸井成格の遺言」と題して次の原稿を送る。多分、公開の場で岸井成格の最後のメッセージが発せられたのが2017年7月のシンポジウムだった。……そこで岸井は、安倍晋三が首相に返り咲いた時、求められてアドバイスをした話をしたのである。晋三の父、晋太郎は『毎日新聞』の記者として岸井の先輩であり、晋太郎が外相だった時、岸井は番記者で、晋三は晋太郎の秘書をしていた。そんな縁で向き合った晋三に、岸井は宮澤喜一が首相だった時、戦後の首相で尊敬する人は、と尋ねた話をする。吉田茂あたりかなと思っていたら、予想に反して返ってきた答は鈴木善幸だった。なぜか? 「この人ほど権力の行使に慎重だった人はいません」 宮澤がそう答えたという話をすると、安倍は即座にこう返した。「それは宮澤さんがまちがっています。権力は行使するためにあるんです」 ……畏れを知らぬ安倍は、さらに付け加えた 「岸井さん、いまの憲法で、いざ、戦争をするということになった時、やれますか?」 明らかに安倍は、戦争のできる国にしようとしているということだろう。……そんな安倍に岸井は真っ向から対峙した〉。平和憲法の精神を否定する安倍首相の底意がものの見事に示されており、この話を披瀝した岸井さん、紹介した佐高さんに感謝しなければならない。我われは、アベ政治を決して許してはならないのだ。

 1月28日、第198回通常国会が召集され、安倍首相の「平成最後の施政方針演説」が行われた。「毎月勤労統計」については「不適切な調査」を詫びたが踏み込まず、アベノミクスの礼讃に終始し、消費税増税の決意を語った。演説冒頭では何と、明治天皇の歌が引用された。志位共産党委員長の「日露戦争で戦意高揚のために使われた歌を、自らの施政方針演説の中に位置づけることは、あってはならない」との的確な批判が『朝日新聞』に載っているが、先の岸井さんの話に照らすと、安倍首相にとっては引用にふさわしい歌なのであろう。施政方針演説では明治、大正、昭和、平成の困難を乗り越えた日本人が「平成の、その先の時代」に向かうことが強調されたが、その原点に明治天皇の戦意高揚の歌を置くなど、安倍首相の右翼性・復古性を露わにするものだ。そこには、この間の安倍訪中、外国人労働者受け入れ拡大、日本会議などの反対を押し切っての4月1日の新元号閣議決定・公表などで、安倍政権にいらだつ保守右翼陣営への配慮・斟酌があるのかもしれないが、いずれにしろ許されない。

 安倍首相の持論である憲法改正は、「国会の憲法審査会の場において、各党の議論が深められることを期待する」とされたが、安倍首相の狙いが、参院選後に定められているのは間違いのないことだ。通常国会の会期末は6月26日である。国会の延長がなければ、2019年の参議院議員選挙は7月4日公示、7月21日投票となる可能性が高い。その前には統一地方選がある。衆参同時選挙も指摘されているが、まさに政治決戦の年である。  

 野党五党一会派が党首会談して「安倍政権打倒」へ合意


 アベ政治の転換、アベ改憲を阻止する立憲野党の共同が求められている。通常国会開会の二八日に、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会保障を立て直す国民会議、自由党、社会民主党の野党五党一会派の党首会談が開催され、次の合意がなされた。

 *本通常国会において、野党五党一会派は協力連携を強め、立憲主義の回復や、また国会の国権の最高機関としての機能を取り戻し、国民の生活を豊かにし権利を守るため、安倍政権打倒をめざし厳しく対峙していく。*内政・外交の山積する課題について徹底審議を行う。*「毎月勤労統計」問題についての全容解明を行う。*今夏の参議院選挙に際し、安倍政権打倒をめざし、32の1人区全ての選挙区において、与党を利することのないよう、速やかに候補者一本化のための調整を図る。「立憲主義の回復」には「憲法遵守」を含むことも確認された。

 この間、国民民主党と自由党の合流が報道され、衆参での統一会派が結成された。一方、立憲民主党と希望の会(社民党)の参院での統一会派も結成されるなどで立憲野党の動向が心配されたが、今回の合意を共同・共闘強化のスタートにしてほしい。通常国会での闘いをともにする中から、とりわけ参院選1人区での候補者一本化をはかることは、安倍政治からの離脱を願う人々の強い期待である。その願いに応えてほしい。