「進歩と改革」No.804号    --2018年12月号--


■主張 日中平和友好条約締結40周年と安倍訪中

 安倍首相の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の綻び


 安倍首相が10月25日に中国を公式訪問した。招集された臨時国会の所信表明演説で、自民党憲法改正案を今国会に提示したいと強調した翌日である。安倍首相は27日まで滞在し、李克強首相や習近平国家主席と会談し、日中平和友好条約40周年祝賀レセプション、日中第3国市場協力フォーラムに参加した。日本の首相としては7年ぶりの中国訪問であった。7年間もの断絶は、一衣帯水にあるべき両国にとって異常な事態である。

 2012年、野田政権の尖閣列島国有化によって日中関係は極度に緊張した。これは両国間首脳で交わされた「尖閣列島問題の棚上げ」を破るものであった。野田政権の後を継いだ安倍政権は、南シナ海領土紛争に便乗した米国の「航行の自由作戦」に合流し、南シナ海やインド洋へ海上自衛隊の護衛艦を長期に派遣した。事実上の「哨戒活動」であり、いうまでもなく憲法破壊行為である。中国は2010年、国内総生産(GDP)規模で日本を抜いて世界2位の経済大国になった。そこへの日本のコンプレックスが、この間に領土・領海ナショナリズムを煽った。安倍首相は就任以来、「価値観外交」「地球儀を俯瞰する外交」をキャッチフレーズにしたが、その根底にあるのは「中国敵視」「中国包囲網の形成」であった。直近の外交基本戦略にしたのが「自由で開かれたインド太平洋戦略」だが、これは経済的には中国の「一帯一路」構想に対抗して東アジアからアフリカへの日本主導のインフラ整備、そして日・米・インド・オーストラリア4か国による中国包囲の安保連携をめざしたものである。こうした安倍首相だけに、日中関係を友好親善へと真に転換する用意があるのか、大いに疑問である。

 しかし、安倍首相にとって連携相手のインドが「自由で開かれたインド太平洋戦略」に同調しない。「インドの対中姿勢は、日米両国が考えるほど単純ではない。一言で表せば『是々非々』。インドは『一帯一路』を支持していない。……その一方で、中国主導の国際金融機関、アジアインフラ銀行(AIIB)には加盟」している(メールマガジン『オルタ広場』5号、岡田充・共同通信客員論説委員)。オーストラリアも消極的である。米朝首脳会談が開催され、東アジアの情勢は激変している。反中国の安倍戦略では、朝鮮問題でも蚊帳の外、孤立を深めるだけである。綻んだ外交戦略の上で、一部修正され実現したのが今回の安倍訪中である。

 4つの基本文書をもとに友好発展を


 安倍首相の軌道修正は、昨年五月の李克強首相来日時、「日中は協調の時代に入った」と「一帯一路」への条件付き協力を表明したことに始まるとされる。琉球大学の高嶋伸欣名誉教授は、2014年11月の日中間の「四項目文書」の公表に注目し、「そこに尖閣列島問題で、中国側の『見解』の存在を日本側が認めたと読める項目が明示されていた」と指摘している(『社会評論』2018年夏号)。内田雅敏編著『一衣帯水『平和資源』としての日中共同声明』も、この文書の意義を指摘している。こうした背景には、「一帯一路」のインフラ受注を期待する日本企業・財界の意志が強く働いているのだろう。今回の日中第3国市場協力フォーラムが、その具体化である。トランプ大統領が中国に仕掛けた「貿易戦争」で自動車の関税引き上げが発動されれば、日本を含む対米輸出の自動車メーカーは深刻な打撃を受ける。そうしたなかで中国市場は魅力的で、トヨタ自動車、日産自動車などは、リスク回避のために中国での生産強化に動いている。

 日中間には、この間に4つの基本文書が締結されている。国交正常化にあたっての「日中共同声明」(1972年9月29日)、反覇権をうたった「日中平和友好条約」(1978年8月12日)、いわゆる村山談話を遵守するとした「日中共同宣言」(1889年11月26日)、戦略的互恵関係を確認した「日中共同声明」(2008年5月7日)である。今回、習近平国家主席、李克強総理はともに安倍首相に対し、この4つの基本文書の大切さを強調した。これに対し、安倍首相が主張したのが「競争から協調」「互いに脅威にならない」「自由で公正な貿易体制の進化発展」という愚にもつかない3原則で、安倍首相が4つの基本文書に言及したという報道に接しない。「日本は…『インド太平洋戦略』を進め、中国の一方的な海洋進出に対抗していくことが重要である」(『読売新聞』10月27日)と、安倍訪中後も綻んだ外交戦略をけしかける声があるだけに、安倍外交の対中姿勢とその危うさを追求し続けねばならない。