「進歩と改革」No.801号    --2018年9月号--


■主張 防衛費「GDP2%」を提言した自民党の軍拡路線!

 第196回通常国会の閉会


 第196回通常国会は、6月20日までの会期を32日間延長し、7月22日に閉会した。、会期延長で、過労死促進の「働き方改革一括法案」、党利党略の参院定数6増「改正公職選挙法案」(参院の総定数は248。比例選定数を4増の100とし他候補より当選が優先される「特定枠」を創設。埼玉選挙区定数を2増)、利権・腐敗・犯罪を生む世紀の悪法「カジノ(IR)法案」の成立が強行された。安倍政権のやりたい放題の終盤国会であった。

 気象庁が西日本、東日本地方での豪雨被害を予告した7月5日、自民党幹部・議員が赤坂議員宿舎での「赤坂自民亭」の飲み会に集い、強く批判された。この場では翌6日に7人のオウム死刑因の死刑執行を控えた上川陽子法務相が「女将」役を務め、「いいね」ポーズをとった写真が公開された。「この政権はとっくに底が抜けているが、これはあまりにもひどい」(水島朝穂・早稲田大学教授)と、上川法務相が批判された(7月26日にはさらに6名のオウム死刑因の死刑が執行された)。カジノ法案採決を前に、19日には国民民主党、立憲民主党、共産党、希望の会(自由・社民)、沖縄の風の五野党・会派が、伊達忠一参議院議長の不信任決議案を提出、20日には立憲民主党、国民民主党、共産党、自由党、社民党、無所属の会の6野党・会派による安倍内閣不信任決議案も衆議院へ提出されたが、自公、維新によっていずれも否決された。

 今次国会は、国有地が8億円も値引きされ売却された森友学園問題と、そこへの安倍首相、昭恵夫人、政治家の関与が、安倍首相の「私や妻が関係していたなら、首相も国会議員も辞める」との答弁とともに大きな焦点となった。国有地売却に関しては、財務省による決裁文書改ざんや学園側との交渉記録の意図的な廃棄が発覚し、財務事務次官のセクハラ発言・辞任が重なり、麻生財務相の責任問題が強く問われた。加えて、安倍首相の30年来の友人である加計孝太郎氏の加計学園獣医学部新設問題への官邸関与・忖度の疑いが浮上した。愛媛県の文書に、加計理事長と安倍首相の面会が書かれたが、学園側が愛媛県に誤った情報を送ったとしてこの面会を否定した。これに対しては、自民党・小泉進次郎筆頭副幹事長など「国民をなめるな!」との批判が浮上したが、ついに真相の究明には至らなかった。安倍内閣不信任案の趣旨説明に立った立憲民主党の枝野幸男代表は「この国会は、憲政史上最悪の国会になってしまった」としたが、まさにその通りになった。

 「モリカケ」問題に加え、自衛隊制服組幹部の国会議員に対する「国民の敵」発言があり、自衛隊のイラク派遣の日報問題も一部でてきて日本の民主主義が問われ、安倍内閣打倒への大きなチャンスを迎えたが、残念ながらそれを実現することなく国会は終った。衆議院、参議院ともに巨大与党と圧倒的少数野党という負の勢力図、さらに野党内には連合右派指導部を背後にもつ国民民主党の存在があり、市民運動もがんばったが、戦争法のときほどに盛り上がらず、韓国「ろうそくデモ」との決定的なちがいを実感させられた。安倍政権打倒へ今後にどう前進するか、我われの課題である。

 トランプ大統領への追随と専守防衛からの転換


 強権的な安倍政治が進行するなかで、自民党の軍拡政策が露骨になっている。政府は、向こう10年間の防衛力のあり方を示す防衛計画大綱と、五年間で進める中期防衛力整備計画(中期防)を年末に決める。それに向け、自民党の安全保障調査会は、防衛費をGDP(国内総生産)比2%へと見直すよう求めた提言を行った(5月25日)。提言には「戦後最大の危機的情勢の中、新たな防衛体制を構築するため、NATOが防衛費の対GDP2%達成を目標としていることも参考にしつつ、必要かつ十分な予算を確保する」と明記されている。1%前後で推移してきた防衛費の対GDP比枠の撤廃を求めたものだ。戦後最大の脅威とは朝鮮および中国のことである。他に、敵基地攻撃能力の整備や海上自衛隊の護衛艦「いずも」を念頭に事実上の空母化の検討を盛り込んだ。つまり、専守防衛からの方針転換がめざされている。

 防衛費の対GDP2%要求は、トランプ米国大統領がNATO(北大西洋条約機構)加盟国に求めていることである。トランプ大統領は、7月のブリュッセルでのNATO首脳会議においては、2%どころか4%への国防費増大を求めたが、自民党の提言は、こうしたトランプ大統領の要求に寄り添っている。昨年11月の日米首脳会談後の記者会見では、トランプ大統領は露骨に米国製武器の購入を迫った。NATO加盟国にはトランプ大統領の要求への批判も強いが、日本は安倍日米同盟路線の下、「トランプ大統領のATMとしてとことん利用されるだろう」(今月号、鎌倉孝夫論文)。すでに安倍晋三首相は昨年3月に国会で、「GDPの1%以内に防衛費を抑えるという考え方はない」と答弁しており、1%枠突破に躊躇はないのである。

 朝鮮半島で「脅威解消」でも日米同盟強化・軍拡を!と『自民新報』


 この自民党安全保障部会の提言は、朝鮮半島の平和・非核化へ向けた南北首脳会談・板門店宣言(4月27日)の動きとまったく背理するものであった。その後に米朝首脳会談も開催された。安倍政権や自民党は、朝鮮半島情勢の変化にどう立ち向かうのか。直近の問題として、安倍政権は“朝鮮のミサイル発射の可能性は低下した”と地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の撤収を開始する一方で、“朝鮮の脅威は続いている”と弾道ミサイルの地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を米国から購入すると、同じ日に発表した。朝鮮脅威の緩和と強化―まさに「政権の混迷」である。イージス・アショアの金額が2基4664億円というのも問題だが、配備は6年先である。日本にとって、朝鮮は6年先まで脅威であり続けるのか。安倍首相がめざす日朝首脳会談で、朝鮮脅威は解消されないのか。配備候補地の秋田市と山口県萩市では反対の声が広がっている。

 同時にここで紹介したいのは、自民党機関紙『自由新報』(6月26日号)に載った川上高司・拓殖大学教授の「北東アジア情勢と日米安保の役割」と題した論稿である。そこでは自民党安保部会提言とちがい、朝鮮戦争終結・平和協定、米朝友好条約締結などで朝鮮半島の脅威が解消することを想定して、「日米同盟は強化に向かう」と主張されている。そして川上氏は、「日本は独自の防衛戦略のもと、日米同盟の役割をこれまで以上に増やすことが急務」とし、「そのためには防衛費の対GDP比2%達成が必要となろう」と、自民党軍拡路線にエールを送っている。彼らにとっては朝鮮半島情勢の変化など関わりなく、トランプ大統領の軍事費増大要求にトコトン従うことが、日米同盟強化の道なのである。朝鮮半島の平和・非核化にむけた動きさえ、軍拡へのチャンスにしようとしている。この道を塞ぎ、転換しなくてはならない。東アジアの非核化・軍縮・平和・共同への道こそ歩まねばならない。