「進歩と改革」No.800号    --2018年8月号--


■主張 南北・米朝首脳会談から東アジアの非核・平和へ―創刊800号を迎えての決意―

 6月12日、トランプ米国大統領と金正恩朝鮮国務委員長の首脳会談がシンガポールで開催され、共同声明に合意された。朝鮮戦争終結、朝鮮半島非核化へむけた初めの一歩であり、歴史的な米朝首脳会談となった。

 朝鮮戦争が始まったのは1950年6月25日である。朝鮮の大地を焦土にし、停戦協定が結ばれたのが1953年7月27日。この戦争で「朝鮮・中国の死傷者は200万から400万人、韓国40万人、アメリカ14万人といわれ」「そのほかにも、およそ1000万もの人びとが、南北に分断されて暮らす離散家族」になった(五味洋治『朝鮮戦争はなぜ終わらないのか』)。停戦協定調印以降、平和協定へと至る道が閉ざされたままに65年が過ぎ、米ソ冷戦崩壊から27年を経て、東アジアに残された冷戦の最前線・朝鮮をめぐって米朝の首脳が会談した。まさに東アジア冷戦という現代史を大きく変えようとする意義ある出来事であり、我われはこれを強く歓迎する。韓国における「ろうそくデモ」による朴槿恵政権打倒、その後の文在寅大統領誕生が、この米朝首脳会談を導いた根底的な力である。心から敬意を表したい。

 「新しい米朝関係の樹立」「朝鮮半島に永続的で安定した平和体制」へ


 米朝首脳会談では、「トランプ大統領は朝鮮に対して安全の保障を提供することを約束した。金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた堅固で揺るがない決意を再確認した」。ここではトランプ大統領がまず朝鮮の安全を保障し、それをうけた金委員長が朝鮮半島の非核化を決意した形になっているのが特徴である。

 両氏は「米国と朝鮮は、新しい米朝関係を樹立する」「米国と朝鮮は、朝鮮半島に永続的で安定した平和体制を築くために協力して取り組む」など4項目で合意した。このなかでは「板門店宣言にのっとって、朝鮮は朝鮮半島の非核化に向けて取り組む」と、さる4月27日に文在寅韓国大統領と金正恩朝鮮国務委員長との間で合意された「板門店宣言」の意義が米朝によっても確認されている。

 日本のマスコミ・評論の多くは、共同声明にCVID(完全かつ検証可能で不可逆な核廃絶)が盛り込めていなかったことから、「拙速だった歴史的会談」(6月13日、東京新聞)などと批判的である。しかし、停戦から65年経ってもまだ“拙速”か。「米韓合同軍事演習を巡るトランプ米大統領の発言を聞くと、米朝は互いの懸案について相当深い議論を交わしたものと思われる。文言が具体性を欠くことを理由に、会談の成否を論じるのは早計だ」(李寛世・慶南大極東問題研究所所長、6月13日、日経新聞)という評価がある。

 東アジアの冷戦構造終結に向けて


 米朝首脳会談と共同声明合意は、朝鮮半島の非核化へむけたプロセスの出発点である。大事なことは行動対行動の原則で米朝合意が前進することであり、世界の反核・非核・平和勢力が力を合わすべきである。我われは、トランプ政権の合意破棄を許さず、朝鮮半島をはじめ東アジアの平和と共同を発展させる取り組みを強めたい。

 米朝首脳会談は軍拡反動派に大きな衝撃を与えている。「(トランプ氏は記者会見で)将来的な在韓米軍の撤退にも言及した。わが耳と目を疑った、最大の失敗であり、大統領が決して言ってはいけないことだ。東アジアで今後、対中国の戦略を考えないといけないときに、自ら飛車・角を捨てるようなもの。日本にとっても在韓米軍の撤退は絶対に避けねばならない」(香田洋二・元自衛艦隊司令官、6月13日、産經新聞)などと危機感を露わにしている。

 これは、東アジアでの冷戦構造の維持を願うものたちの中国脅威論である。朝鮮に代って今また中国の脅威を煽り、日本の軍事大国化が推し進められようとしている。我われはそれに対抗し、東アジアの平和・共同へと合流するため「イージス・アショア」阻止はもちろん、日本の軍縮、在沖縄米軍基地撤去をめざしていかねばならない。

 東アジアに残された冷戦構造を終結させるためには、米朝だけでなく日朝の国交正常化が不可欠である。そのためには拉致問題を政治利用し、平壌宣言、ストックホルム合意に徹底的に背理してきた安倍政権の姿勢が鋭く問われてこよう。

 東アジアに新時代を迎えようとしているとき、本誌は創刊800号を迎えた。この歴史の積み重ねを支えて頂いたすべての皆さんに感謝申し上げ、いよいよ決意強く前に進みたい。