「進歩と改革」No.798号    --2018年6月号--


■主張 南北・米朝首脳会談から東アジアの非核・平和へ!

 完全な非核化・核のない朝鮮半島実現、朝鮮戦争「終戦宣言」へ合意


 4月27日、韓国・文在寅大統領と朝鮮・金正恩国務委員長の首脳会談が、軍事境界線のある板門店の韓国側施設「平和の家」で開催され、「完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現する」ことを明記した「板門店宣言」に署名した。北朝鮮の核だけではない。朝鮮半島の非核化であり、大きくはアメリカの対北朝鮮核威嚇政策の放棄をめざすものである。これは2005年9月、「6者協議共同声明」に謳われていたことだ。朝鮮戦争の終戦を宣言することが合意されたことも画期である。朝鮮戦争の休戦協定が結ばれたのは1953年7月である。休戦協定には、調印発効後3カ月以内に北朝鮮からすべての外国軍隊の撤収と朝鮮問題の平和解決のために関係国(朝鮮、中国、米国)の政治協商を開催することが義務付けられていた。しかし、それは実現せずに休戦状態が続いてきたが、休戦協定から65年を経過する今年に終戦を宣言することが謳われたのだ。朝鮮戦争の「休戦協定」から「終戦宣言」へ、その後に「平和協定への転換」「平和体制構築」にむけ南北朝鮮と米国の3者か中国を加えた4者による会談開催も宣言された。朝鮮半島、東アジアの冷戦史の転換であり、心から歓迎する。

 南北首脳会談は、2000年6月、韓国・金大中大統領と朝鮮の金正日国防委員長、2007年10月に韓国・盧武鉉大統領と金正日総書記との間で行われている。しかし、今回3度目の南北首脳会談は、トランプ米国大統領が「すべての選択肢がテーブルの上にある」と北朝鮮への軍事攻撃、北指導者への「斬首作戦」を公然と唱え、それに対する北朝鮮の核・ミサイル開発が強行に進められ、軍事緊張から戦争勃発の危機が極度に高まった経過をうけてのものである。核問題打開、戦争の危機回避にむけた特段の意義をもつものと言わねばならない。

 求められる米朝首脳会談での「非核化のロードマップ」合意


 南北首脳会談をうけて、6月にトランプ大統領と金正恩委員長の米朝首脳会談の開催が予定されている。首脳会談の場で、朝鮮半島の非核化をめぐるロードマップが、平和協定、米朝国交正常化問題と一体で論議されることになる。警戒すべきはトランプ大統領が「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を短期間に求めて、北朝鮮に対する圧力姿勢を変えていないことだ。その前提にあるのは、この間の米朝枠組み合意(1994年)と6者協議の9・19合意(2005年)が北朝鮮に破られてきたということだが、これは一方的な認識・宣伝で、韓国大統領統一外交安保特別補佐官・文正仁氏は、アメリカの責任にも言及している(4月3日「朝日新聞」)。

 しかも、「核廃絶は一つのボタンを押せば実現できるというものではない。非核化は時間がかかる。非核化の目標にどう到達し、どう具体的にやるのか、その段階的な作業の間に『核放棄』の見返り(非核化のロードマップ)つくりが進むことになる」と指摘されている(3月28日、村山談話を継承し発展させる会主催「中国・朝鮮脅威論を超えて市民集会」で李鐘元早稲田大学大学院教授)。その点で、きたる米朝首脳会談に求められているのは「包括的、段階的アプローチ」の合意である。米朝首脳会談での実りある成果実現へ、非核・反戦・平和への声と力をアジアと世界から強めよう。

 日本政府は「足を引っ張る」のか


 朝鮮半島の緊張緩和にむけて南北朝鮮をはじめ関係国が努力しているにも関わらず、それを妨害するのが日本政府である。河野外相は3月31日の高知市での講演で、「過去、(北朝鮮が)核実験をした実験場でトンネルから土を外に移し、次の核実験の準備を熱心にしているものも見える」と発言した。この河野発言には、アメリカの研究所が、最新の人工衛星画像を基に、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場では「過去数カ月に比べて活動は大幅に減少している」と反論した(4月2日)。河野発言の背景にあるのは首脳外交に取り残されている焦り、朝鮮半島の緊張が緩和することへの警戒であろう。情けない日本外交の姿である。

 この河野発言、中国外交部から「日本よ、安心しなさい。半島の非核化、国連安保理の朝鮮関連決議を全面的かつ完全に履行するという国際社会の意思は非常に明確であり、確固として変わることはない」と諭され、また「半島情勢の緩和を推進し、半島問題の解決を再び対話協議の正しい軌道に乗せるために共同して努力することを望む。みんなが共同して努力しているときに『足を引っ張る』ものはいらない」と批判されている。日本が対北朝鮮外交の「蚊帳の外」なら他に迷惑はかからないが、足を引っ張り妨害することなど許されないことだ。朝鮮労働党中央委員会は4月20日の総会で、21日から核実験と大陸間弾道ロケット試射発射の中止、核試験場の廃棄を発表した。これを河野外相はどう聞いたのであろうか。北朝鮮の決意は本物だ。

 東アジアの冷戦構造解体・東アジア共同の道を


 河野外相に劣らず、安倍首相もまたお粗末である。安倍首相は、日米首脳会談(4月17日、18日)を政権の危機脱出・支持率回復の契機にしようとした。その中心は、トランプ大統領から米朝首脳会談で拉致問題解決への協力を求めることで、これは合意されたと報道されたが、安倍政権の支持率回復に貢献しなかった。問われるのは、拉致問題解決がアメリカ、韓国頼みで、日本の自主的対応が見てとれないことだろう。

 拉致問題については、広島平和研究所の前所長で元外交官の浅井基文氏が自らのHPで、次のように発信している。「拉致問題は平壌宣言(2002年)第3項で外交的に解決済みです。『拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし』とアベが言う『拉致問題』とは被拉致生存者の帰国ですが、これは平壌宣言第3項と別な問題で、日朝国交正常化とは切り離して扱うべきものであり、ましてや朝鮮半島非核化問題に絡めるべき筋合いの問題ではありません」。同感である。

 南北首脳会談では、金正恩委員長から文在寅大統領に「日本と対話する用意がある」と伝えられたと報道された。しかし安倍政権は、「拉致問題が解決しないかぎり、国交正常化は行わない」「8人死亡の根拠は薄弱であり、全員生きていると判断する。全員を直ちに帰せば、問題解決と考える」との立場に立っている。拉致問題解決はみんなの願いだが、この条件のままで対話・交渉進展と問題解決は可能かが問われているのだ。

 朝鮮半島をめぐる今日の動きは、「東アジア冷戦構造解体」「東アジアの共同」へ向けた歴史的局面である。そこへ日朝の国交正常化が貢献・合流すべきだが、安倍首相は北朝鮮脅威論を煽りに煽り、それを9条改憲に利用してきた。朝鮮半島の非核化・南北関係改善の動きが鮮明になった今、やはり安倍政権には退場を迫るときである。