「進歩と改革」No.796号    --2018年4月号--


■主張 「働き方改革」法案を許さない! 安倍政治の転換を!

 「裁量労働制」拡大の削除に追い込まれた安倍政権


 第196通常国会の審議について見てみたい。まずは安倍首相が今国会の最重要課題にすえる「働き方改革」関連法案についてである。この法案は、「残業上限規制」と「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度=残業代ゼロ制度)新設と「裁量労働制の適用対象拡大」をセットにした労働基準法改定案、「同一労働同一賃金関連法案」(パート労働法、労働者派遣法、労働契約法等の改定案)など8つを一括した法案として提案される予定であった。目的は、労働生産性の向上にある。

 この内、「裁量労働制の適用対象拡大」について、安倍首相は「裁量労働制で働く方の労働時間は、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」と発言して、その成立をアピールした(1月29日、衆院予算委員会)。裁量制の労働者は1日9時間16分、一般労働者は9 時間37分働いているとする厚生労働省の「2013年度労働時間等総合調査」によるデータを発言の根拠とした。裁量労働制は、実際に働いた時間にかかわりなく、事前に決めた分だけ働いたとみなす制度であり、いくら長時間働いても決められた時間しか働いていないと見なされる制度である。狙いは労働時間規制を外すことにあり、経営側にとって都合のよい「働かせ方」への転換である。要は、働く者からの搾取強化と経営側の利益増大に本質がある。

 ところがこのデータ。一般労働者の労働時間が長くなるよう「最長の残業時間」を使うなど“ねつ造”されていたことが明らかになった。ある労働者の残業時間が1日で「45時間」、1カ月で「13時間24分」となっているなど、数値の異常が400以上あることも明らかになった。ずさんな調査とねつ造したデータで、「働き方改革」関連法案を上程、成立させることなど許されるものではない。法案の前提が崩れている。野党の追及、国民世論の批判を前に、安倍首相は「私の答弁を撤回するとともに、おわび申し上げたい」と陳謝し(2月14日、同)、さらに「働き方改革」関連法案から、「裁量労働制にかかわる部分は全面削除する」と表明した(3月1日、参院予算委員会)。法案を強行して、9月自民党総裁選と憲法改正作業へ影響することを心配しての判断だという。

 「働き方改革」関連法案と連合の立ち位置


 この安倍政権の方針変更に対し、日本労働組合の最大ナショナルセンターである連合は、次のような相原康伸事務局長談話を発表した。

 「連合は、かねてより裁量労働制の対象業務拡大は実施すべきでないとの考え方を一貫して主張してきた。このことに加え、今般、衆議院予算委員会の審議において、労働時間に関する調査データや不適切な答弁をめぐる野党の追及などもあり、裁量労働制の対象業務を拡大することの問題点が、社会的に広く認知されてきた。裁量労働制の対象業務の拡大は長時間労働を助長しかねないという、働く者・国民の懸念が一定程度反映されたものと連合は受け止める。政府提出予定の『働き方改革関連法案』には、連合が強く懸念を示してきた『高度プロフェッショナル制度の創設』も含まれている。連合は、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金に関する法整備は早期に実現すべきであるが、高度プロフェッショナル制度の創設は実施すべきではない、との考え方に沿って、野党3党と引き続き連携を強化し、真に『働く者のための働き方改革』が実現するよう、全力で取り組む」 。 

 高プロ制度は、裁量労働制以上に労働時間規制が弱まることになる。究極の労働規制の緩和であり、連合が反対するのは当然である。「働き方改革」関連法案から裁量労働制拡大を削除した今、高プロ制度も削除、撤回さすことは労働運動の課題である。しかし、連合には強い反省が必要ではないか。当初、安倍政権は「働き方改革」関連法案について強硬であった。『朝日新聞』(2月3日)は、「『働き方』国会 深まらず 高プロ批判 連合の迷走足かせ」の見出しで、次のように報じていた。

 「首相の強気の背景には『残業代ゼロ法案』と高プロを強く批判してきた労働組合の中央組織の連合が一時、働き過ぎ防止策を見直すとの条件付で高プロの導入の容認に転じたことがある。連合は結局、組織内外の強い批判を受けて従来の反対に立場を移したが、連合が条件として提案した働き過ぎ防止策を政権は取り込んだ」「立憲の長妻昭代表代行が先日の衆院予算委で『裁量労働制の適用範囲をさらに拡大すれば労働時間の歯止めがなくなり、過労死がさらに増える』と懸念を示したのに対しても、首相は『(連合の)神津(里季生)会長からの要請を受けて対象業務を明確にした』と切り返した」。

 連合の危うい立ち位置が示されている。連合は「時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金に関する法整備は早期に実現すべき」とするが、時間外労働の規制では、繁忙期の上限を「1月100時間未満」と政労使合意され、ここへは批判も強い。働く者の命を削る法案は阻止しなくてはならない。安倍首相は、裁量労働制拡大の分離・削除を明言したが、これは今後への先延ばしである。撤回ではない。また安倍首相は、これ以上の妥協は許さないとする経団連の要求をうけて、高プロ制度創設には固執している。連合はここは裁量労働制拡大削除に力を得て、名誉挽回、高プロ制度創設撤回へ組織をあげて地域職場での取り組みを強めるべきである。

 「有償軍事援助」(FMS)による武器購入


 通常国会審議で、いま一つここで取り上げたいのは「有償軍事援助」(FMS)をめぐる問題である。FMSとは、米国国防総省が行っている対外軍事援助プログラムで、同盟国や友好国に最新鋭の武器や装備品を有償で提供する契約である。購入国は「米国側の価格見積もり」や「代金の原則前払い」「提供時期は確定ではなく予定に過ぎない」「米国政府は契約を解除できる」ことなど、米国から提示される条件を受け入れなければならない。

 2月14日の衆院予算委員会で、無所属の会の原口一博氏が、このFMSの現状を質問した。会計検査院「決算検査報告」に基づいて、米国から調達した防衛装備品に対して不具合報告書を送付していたケースが107件、2276億円余にも上ること、納品記載内容が違うなどの混乱案件が671億円に上ること、代金を支払っても物が届かない未清算件数も多くあること、そして安倍内閣になってからFMS調達が著しく増加していることも指摘した。

 これに関して思いだすのは、昨年11月、アジア歴訪に際して日本を訪問したトランプ大統領と安倍首相の日米共同記者会見である。トランプ大統領は、「とても重要なことですが、日本の首相が、必要な防衛装備品を大量に購入しようとしているということです。我々は、他に類を見ない、最高の装備品を製造します。首相はそれを米国から購入します。完全なステルス能力を持つ、世界最高のF‐35戦闘機や、さまざまな種類のミサイルです。米国にとっては多くの雇用につながり、日本や、同様に米国から多くの装備品を購入する他の国々にとっては、大きな安全につながります」と、あからさまに武器購入を要求した。  これに対し安倍首相は、「日本は防衛装備品の多くを米国から購入しております。そして北朝鮮情勢が厳しくなるなかにおいて、アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなるなかにおいて、我々は日本の防衛力を質的に、また量的に拡充していかなければならないと考えております。今大統領が言及されましたように、F‐35Aもそうですし、またSM‐3ブロック2Aも米国からさらに導入することになっております。またイージス艦の量・質を拡充していく上において、米国からさらに購入をしていくことになるのであろうと、こう思っているわけでございます」と、臆面もなく発言した。

 「ポンコツ武器の押し売りにダンマリの安倍政権」


 原口議員の質問に、安倍首相は「(FMSは)最新鋭の装備品を調達でき非常に重要だ」とした。しかし、FMSと原口質問を取り上げた2月17日の夕刊『ゲンダイ』は、「ポンコツ武器の押し売りにダンマリの安倍政権」との見出しで、その実態を報じている。外交評論家の天木直人氏のコメントを紹介してみたい。「多額の税金が装備品の購入に費やされ、その上、ポンコツ製品を買わされている現状は、深刻ですよ。日本は米軍基地の負担や武器購入などで多額のカネを払っているにもかかわらず、トランプ大統領は日本を『ドロボー』呼ばわり。それでも、安倍政権は何ら抗議することなく唯々諾々と従っている。対米従属もここに極まれり、です」。

 1月31日にハワイで行われたSM‐3ブロック2Aを用いた実験が失敗した。安倍首相が日米共同記者会見でふれた迎撃ミサイルで、新型である。最大の特徴は長い射程距離と高い射高にあり、その能力は今のSM‐3に比べ2倍とされ、自衛隊は次期新型イージス艦と陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に配備を予定している。そのミサイル実験が失敗したのだ。無駄な兵器に血税を使い、米国にむしり取られる。安倍政権は米国の軍産複合体への追従、奉仕の道を断ち、東北アジアの平和創造と軍縮の道へ舵を切るべきだ。