「進歩と改革」No.795号    --2018年3月号--


■主張 安倍首相の施政方針演説と新たな「軍事大国」創り

 “今こそ新たな国創りの時≠ニ安倍首相の施政方針演説


 1月22日、第196回通常国会が召集された。会期は、6月20日までの150日間である。昨年11月の特別国会では実質審議が不十分であっただけに、今国会では市民と野党の共同の力を一段と強め、院内外の闘いで安倍政治をとことん追いつめていきたいものである。

 安倍総理の衆参両院本会議での施政方針演説を、自民党機関紙『自由民主』は、「新たな国創りに決意表明」との見出しで報じた。施政方針演説の冒頭を引用すると、次のとおりである。「150年前、明治という時代が始まったその瞬間を、山川健次郎は、政府軍と戦う白虎隊の一員として、迎えました。しかし、明治政府は、国の未来のため、彼の能力を活かし、活躍のチャンスを与えました」。山川は後に東京帝国大学の総長になり、貧しい家庭の若者を助け、女性の教育を重視した。会津・白虎隊出身の山川が明治政府に登用されたように、「身分、生まれ、貧富の差にかかわらず、チャンスが与えられる」。いま日本が少子高齢化という国難に直面するとき、「明治の先人たちに倣って、もう一度、あらゆる日本人にチャンスを創る。今こそ新たな国創りの時」としたのだ。

 こうして「働き方改革」や「人づくり革命」「生産性革命」などが次々に訴えられる。改革や革命という言葉は今や安倍内閣に占有されたようだが、しかしこの安倍演説、“明治政府の会津藩への処遇は苛酷であり、山川は例外であった”“明治は一億総活躍社会のお手本とするような立派なものでは決してなかった”とネットで批判されている。

 本誌今月号の〈国際政治の視点〉での河辺一郎先生の指摘によれば、安倍政権が設置した「明治期の立憲政治の確立等に貢献した先人の業績等を次世代に遺す取組に関する検討会」の報告書には、「明治以降、近代国家への第一歩を踏み出し…短期間に立憲政治を確立した…日本は、非西洋諸国の民主化・自由化のフロントランナーであったとも言えよう」とある。明治礼讃である。安倍首相の施政方針演説にも「明治という新しい時代が育てた数多く(あまた)の人材が、技術優位の欧米諸国が迫る『国難』とも呼ぶべき危機の中で、我が国が急速に近代化を遂げる原動力になりました」とある。明治の礼讃から始まる「新たな国創り」は何処へ向かうのか。施政方針演説の「外交・安全保障」を見てみたい。

 北朝鮮脅威を口実に、長距離巡航ミサイル・敵基地攻撃能力保有へ


 「外交・安全保障」の中にある「北朝鮮問題への対応」と「防衛力の強化」では、次のように演説された。「北朝鮮の核・ミサイル開発は、これまでにない重大かつ差し迫った脅威であり、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後、最も厳しいと言っても過言ではありません」「厳しさを増す安全保障環境の現実を直視し、イージス・アショア、スタンド・オフ・ミサイルを導入するなど、我が国防衛力を強化します」。

 政府は昨年12月の閣議で、米国の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」2基を導入することを決定した。2023年度の導入をめざすという。イージス・アショアは、海上自衛隊のイージス艦に搭載するミサイル防衛機能を地上に固定配備する装置であるが、これは強度の電波障害を発生させるとともに固定式であるだけに軍事攻撃の格好の標的になり、設置される地域の住民を危険に晒すものである。導入には、1基あたり約1000億円かかるとされているが、価格も納期も米国側が主導権をもつ有償軍事援助(FMS)によっている。米国製軍事設備の大量購入へ圧力をかけるトランプ大統領の要求に応じたものだ。

 イージス・アショアとともに導入する「スタンド・オフ・ミサイル」は、長距離巡航ミサイルのことである。航空自衛隊のステルス戦闘機F‐35やF‐15などへの搭載が想定されている。導入が検討されている3種類のミサイルのうち、「JASSM」はおよそ900qの射程があり、日本領空から発射して北朝鮮内陸に届くことから、これは「敵基地攻撃能力」保有に直結する。いうまでもなく専守防衛の枠を外れ、憲法九条違反である。戦争のできる国創りへ、安倍壊憲政治を加速するものと言わねばならない。自衛隊の空母保有問題も浮上している。

 この間、「北朝鮮有事は、早ければ11月半ば以降にもあり得るのだ」(週刊新潮2017年10月26日号、櫻井よし子)と主張されたが、それが外れると今度は「米軍攻撃『決断のとき』は3月だ」(文芸春秋18年2月号、麻生幾)と、米朝戦争を望んでいるとしか思えない右派ジャーナリズムの論調がある。それに乗じて、北朝鮮の脅威を煽れば何でもできるというのが安倍政権の姿勢であろう。やりたい放題である。

 しかし、イージス・アショアの導入は2023年である。安倍首相は、2023年まで北朝鮮との緊張関係がこのまま続くと思っているのだろうか。北東アジアの平和と安定に背を向ける方が、新たな国造り=軍事大国化へは好都合ではあろう。しかし、2018年度予算の防衛費は過去最大の5・19兆円、6年連続の増大となった。補正予算をあわせると5・43兆円である。他方では、社会保障費の自然増削減、生活扶助引き下げである。日朝国交正常化と日中友好の道によって、軍事大国化の道を塞ぎ、暮らしと人権を守りぬくことは我われの課題である。

 改憲「実現の時」とする安倍首相にNO!を


 安倍首相が今年8月の自民党総裁選で3選し、3期目を最後まで務めあげれば、第1次政権を含め首相在任期間は歴代最長になるという。その安倍首相が任期中に狙うのが憲法改正であることは言うまでもない。施政方針演説で憲法改正はどう語られたか。「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法です」と立憲主義への無知を示しつつ、「各党が憲法の具体的な案を持ち寄り、憲法審査会において、議論を深め、前に進めていくことを期待しています」と述べた。憲法九九条は大臣、国会議員、その他公務員に憲法尊重擁護義務を課しているが、ここでも無知を晒した。その安倍首相、通常国会開会前の自民党両院議員総会で、憲法改正について、「いよいよ実現する時を迎えている」と決意を示している。安倍首相が日本会議ら右翼団体と一体となって狙う9条への自衛隊加憲論を葬り去ろう。

 1月25日には、沖縄で相次ぐ米軍機事故を追求した志位共産党委員長の代表質問に対し、自民党の松本文明内閣府副大臣が「それで何人死んだんだ」とヤジを飛ばして辞任したが、「沖縄の方々の気持ちに寄り添い」という安倍首相・安倍内閣の本音を露呈した。今通常国会では、もりかけ問題の引き続く追求に加え、スーパーコンピューター開発の助成金詐欺事件も焦点化される。この詐欺事件は森友・加計での「忖度政治」と同種である。「もりかけスパ」問題への野党追及が期待される。我われも頑張ろうではないか。