「進歩と改革」No.792号    --2017年12月号--


■主張 2017年総選挙闘争―結果と展望
痛苦なる現実を超えていく「新たなる共同戦線」へ   山崎一三


 1 「国家破滅」への道を許してしまった


 またもや自公が3分の2を超える議席を制する結果となった。3年前と同様に、序盤の世論調査分析でマスコミ各社はすべて、「自公で300超うかがう」との見出しを打った。それは中盤においても、最終盤においても、動くことはなかった。まことに厳しい結果が出た今、我われは改めて、この総選挙闘争の意味と、そして3分の2を許すこととなった原因と、さらにはその原因を破砕していく展望について、しっかりと分析していかねばならないだろう。

 そもそも安倍首相は、来年秋の総裁選挙後といわれた衆議院解散・総選挙をなぜこの時期に、まさに突如として打ってきたのか。改憲発議のための3分の2を押さえていたではないか。彼は基本的にはこの局面で勝負をする必然性はなかったはずだ。しかし、彼はギリギリのところまで追い込まれていたのだ、と改めて整理しておくべきではないか。言うまでもなくモリ・カケ疑惑だ。この問題の噴出により、一貫して50%台後半を維持していた内閣支持率は、都議選の大敗を経て、7月段階で一挙に30%を割るところまで激落するに至った。八月三日の内閣再々改造で若干持ち直したものの、40%台半ばで低迷を続けた。モリカケ問題とは、これからが勝負であった。その闘いの炎は、野党が開催を要求し続けた臨時国会の論戦により、大きく燃え上がることは必定であった。国民運動の攻勢により、内閣支持率は20%を切るところまで追い込まれたであろう。

 彼はギリギリ窮地に追い込まれていたのだ。であるが故に、臨時国会では、所信表明演説をも省略するという前代未聞、まさしく国民と国会を無視した形の冒頭解散に踏み切らざるを得なかった。彼は改憲発議の3分の2を割る覚悟で「起死回生」の勝負に出たのだ。

 文字通りの「大義なき解散」以外の何ものでもなかった。彼は、北朝鮮によるミサイル危機を殊更に煽り立てて「国難突破解散」などという自作自演の子ども騙しとも言うべき旗を掲げてコトの本質を隠蔽してきた。「この国を、守り抜く」という自民党のキャッチコピーがテレビ、新聞、ポスター・チラシにより巷に溢れた。

 しかし、「国難」の本質とは言うまでもない。国の最高権力者による、前代未聞の「国政私物化」こそが「国難」であった。このコトの本質を最も鋭く指摘したのは福田康夫元首相であった。彼は8月3日の共同通信インタビューで、国有地払い下げ問題などを踏まえ、安倍政権下での「政と官」の関係を「恥ずかしい」ことだと批判し、「安倍政権は『国家の破滅』を招く」とズバリと述べた。

 何はともあれ、この総選挙の結果、日本のより多数の国民は、福田康夫元首相のかかる重大な警告を受け止めることなく「破滅への道」を選択した。この一点こそ、今次総選挙の歴史的本質点であることを、我われは肝に銘じておかねばならない。

 故湯川秀樹氏らが62年前に結成した有識者のグループ「世界平和アピール7人委員会」が6月14日に、「共謀罪」法案を指弾する緊急アピールを発表したが、この最後の部分を、我われは今日というこの時点で、改めて噛みしめておかねばならない。「安倍政権によって私物化されたこの国の政治状況はファシズムそのものである。この政権はまさしく国会を殺し、メディアを殺し、民主主義を殺そうとしているのである」

 2 「野党自滅」で再び鮮明化した「勝利の方程式」


 自公大勝の原因が、今回ほど鮮明な選挙は無かったのではないか。投票日翌日の各新聞は一様に、「野党分裂で漁夫の利」(朝日)、「敵失、一強は続く」(日経)等の大見出しを打った。日経の社説は「この選挙をひとことで総括すれば『野党の自滅』である」と、今次闘いのもうひとつの本質をズバリと突いた。大勢は公示日に決していたのだ。公示日直後の各新聞報道は、すべからく「野党競合 与党追い風」「野党分裂 割れる政権批判票」などであった。そして、こうした事態の根本原因は、言うまでもなく民進党の分裂であった。

 今次総選挙は、前回(14年)、前々回(12年)と比べて大きく異なる情勢下にあった。安倍内閣の支持率が、過去2回は50%台後半にあったが、今回は37%〜38%でしかなく、不支持が50%に迫る水準であったことだ。第2次安倍政権成立以来初めての、野党が攻勢に出れる最大のチャンスであった。安倍政権を倒すまっとうな形の闘いの陣形が形成されるならば、間違いなく自民党を過半数割れに追い込む結果をつくり出せたであろう。

 「まっとうな形の闘いの陣形」――すなわち安倍政権打倒にむけた野党候補の一本化なら、野党競合の227選挙区において 、毎日新聞では84選挙区、共同通信では62選挙区、読売新聞では64選挙区で与野党が逆転した可能性があるとの分析を行なっている。

 それ故にこそ我われは、このような勝利の陣形を今次総選挙で形成しえた沖縄と新潟の闘いに注目し、しっかりとした総括を行なう必要があるであろう。

 沖縄は前回同様に、「米軍基地撤去」をめざす「オール沖縄」共同戦線により、4区では僅差で敗れたが、全県では自民党を圧倒した。新潟では6つの選挙区で、ほぼ基本的な形で野党と市民の共同戦線を形成し、4勝2敗と自民党を圧倒した(前回は1勝5敗)。敗れたものの、5区の新人候補の惜敗率は86・7%で、6区新人は97・6%と、まことに僅差の激闘を展開した。全国の投票率は前回比でわずか1ポイント増であったが、新潟では10ポイント増という驚くべき結果となった。大勢の無党派層が足を運んだのだ。地元紙・新潟日報の白抜き大見出しは「野党共闘 一強に風穴」「本県自民 逆風吹く」であった。沖縄と新潟の闘いは、安倍一強という歴史の逆流を「逆流」させる結果をたたき出した。  小選挙区というこの苛酷な選挙制度における「勝利の方程式」とは、アインシュタインの方程式E=mc2の如く、それ自体まことに簡潔で鮮明なものだ。自公を打倒する闘いの陣形はこれしかない。日本型「オリーブの木」共同戦線の形成しかない。そして、このまっとうな市民・民衆の側に立つ闘いの陣形形成に対し、楔を打ち込み解体に追い込んだのが、民進党の前原誠司代表であり、そして小池百合子・希望の党代表(東京都知事)であった。234人もの候補者を立てた希望の党は、死屍累々の敗北となったが、野党戦略を混乱させ、見事に安倍を救うという反革命的役割を担った。前原代表は、戦後の最も重大なこの歴史的局面で、「万死に値する」役割を演じたのだ。

 3 「改憲阻止共同戦線」形成へすべての力を


 日本の社会民主主義者の、この時代における歴史的な任務とは、「新たな戦前」に対抗していく「新たなる共同戦線」にあることを、我われは一貫して主張してきた。そして我われは、1年前の参議院議員選挙の総括に基づき、1人区決戦で自公を制した「勝利の方程式」=野党・市民の共同戦線を、「政権戦略連合」へと深化発展させようとの訴えを発した。「安倍政権を倒した後、どうするのか」という国民の問いにしっかりと答え、野党が与党に代わる「希望」を示すことこそ、勝利と前進の鍵であると総括したからだ。

 しかし、今次総選挙闘争における痛苦なプロセス、すなわち野党中軸たる民進党の自己解体劇により、「政権戦略連合」形成への展望は一旦切断されることとなった。こうした中、我われ社会民主主義者は、この地点において「一歩後退 二歩前進」の戦略を再構築すべく、土台のところから努力を始めていかねばならない。再構築の条件は目の前に開けている。  第1に、主体的条件の基礎は今次総選挙闘争において形成された。民進党解体劇において、安倍極右政権と対抗すべしという多くの真っ当な民衆の声に押し上げられて、「立憲民主党」というリベラル政党が一挙に登場することとなった。そして直ちに、立憲、社民、共産、自由の四野党と市民の選挙大連合が形成された。結果として、立憲は55議席を獲得し、希望を制し、野党第1党の座を占めることとなった。立憲の野党第1党としての地位は、安倍極右政治に対抗していく「新たなる共同戦線」の形成にとって巨大な意味をもつ。分岐した旧民主党の諸集団の動向や、共産党との踏み込んだ共闘に拒否感をもつ連合中央の動向など、さまざまな流動的要因がありつつも、「新たなる共同戦線」形成にむけて基礎は明白に存在していることを確認し合いたい。  政治闘争においては、1年半後の統一自治体選挙と連続する次なる参院選を射程にした闘いに入る。そうした今後の闘いの具体的展開過程と結合しながら、野党・市民の共同体制を各県、各地域から再構築していこうではないか。

 第2に、共同闘争再構築の客観的条件は目の前に迫っている。改憲阻止の闘いだ。そのための共同戦線の形成だ。これこそ焦眉かつ最も重要な課題だ。平和フォーラムや9条の会、広範な市民団体などにより既に9月8日、「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」が結成された。これまでの「総がかり行動」を越える、さらに幅広い一大市民運動がスタートしている。我われ社会民主主義者は、まさに命がけでこの市民運動を支え、広げていかねばならない。

 今後の政治情勢は明白だ。9条改憲をめぐり切迫した闘いに入っていく。安倍首相は投票翌日の記者会見において、「自衛隊明記」を含む憲法改正4項目を公約の主要項目として初めて盛り込んだことを強調した。そして、「公約に沿って、党としての案を国会の憲法審査会に提案したい」と語った。  次の参院選は2019九年だ。参院で改憲勢力が3分の2以上を占めているうちに、改憲発議に持ち込むというのが基本的な考え方であろう。だとすれば、来年の通常国会で衆参両院の憲法審査会に改憲案を提出。会期中に発議し、来年中に国民投票に踏み切ってくるのか。はたまた、19年参院選との同時投票をもくろむか。彼らの思惑通りに進むかは予断を許さないが、今次総選挙の結果、3分の2どころか、改憲を公約にかかげた維新の会と希望の党を加えると今や衆院では八割の議席を改憲派が占める結果となったことは重大だ。憲法改正を主導する「日本会議」が10月25日開催した集会で、安倍首相最側近の衛藤晟一首相補佐官は、「3分の2」を得たことを挙げ、「天の時を得た。発議ができるまで頑張っていきたい」と宣言した。まさに今から改憲をめぐる緊迫した政治情勢に突入していく。

 国民の動向はどうか。朝日新聞が10月23、24日に実施した全国世論調査では、「9条自衛隊明記」については、反対45%、賛成36%の結果だ。また同日に行なわれた読売新聞の世論調査では、反対39%、賛成49%だ。2社の調査は新聞社のスタンスの違いもあり正反対の数字となっている。  言うまでもなく、憲法改正の賛否を決定するのは国民投票である。我われは現状、国民意識は五分五分と見ておかねばならない。自民党は権力を行使して、日本会議、神社本庁集団などの保守草の根運動を総動員してくるであろう。そのような攻勢に対抗して、野党四党の共闘態勢を強固にし、そして平和と民主主義の草の根市民大連合の運動をどこまで広げていけるのか。まさに「新たなる共同戦線の課題」とは、当面、「改憲阻止共同戦線」の形成にすべての力を傾注していくことだ。

 4 安倍的「国家戦略」の破綻と我われの3本の旗


 以上の総括と課題を踏まえつつ、さらに次の2点について提起させていただきたい。

 第1点目は今後の日本の外交戦略に関してである。安倍首相は公示日の第一声から最終日まで、全国各地の街頭演説で北朝鮮の暴発による戦争危機を煽り立てた。原発列島というべき日本の最高責任者が米・トランプ大統領をも上回る挑発政策をわめく姿は、モリカケ問題隠ぺいのためとはいえ、あまりにも異常だ。最大の当事国である韓国の文在寅大統領は、一貫して「平和解決は国際合意。韓国の同意なしに、誰も半島で軍事行動を決められない」とし、平和的解決にむけた戦略的姿勢を明確にしている。また、北朝鮮を九月に訪問した共同通信系記者によれば、戦争に向かうなどという緊張感は街にも市民にもなかったという。これが客観的な事実なのだ。こうした中、日本こそが米国のみならず中国、ロシアとの外交的協議を深化させ、六か国協議の枠組みを再生させるべく真の意味での主導権を発揮するべきではないのか。その場合の最大のポイントは中国との外交関係だ。

 投票日翌日の日経新聞一面で、内山清行政治部長が、安倍首相は選挙期間中、北朝鮮を叩くばかりで、中韓両国との近隣外交について一切言及がない、と論評している。そして、「中国の習近平国家主席は共産党大会で、今世紀半ばまでに世界トップレベルの国家になると表明した。その時、日本はどんな国であろうとしているのだろうか」と述べている。まさに、現在そして将来において、日本が存在するアジアで国と国、民族と民族の関係をどのような方向と形でつくり上げていくべきなのか。自民党の長文の公約においても、安倍首相の口からも一切言及がなされていない。「北朝鮮の脅威から、国民を守り抜く」という空虚なスローガンのみであった。実に情けないことだ。

 今や、アジアは歴史的大変動期に突入しつつある。中国は、PPP(購買力平価)ベースのGDP(国民総生産)で2014年に米国を抜き世界のトップに躍り出たが、35年にはインドが日本に追いつき、50年には世界第2位になる見通しだ。有史以来、18世紀半ばまでの長い間、中国とインドで世界のGDPの半分以上を占めていたが、今世紀後半にはその再来となる可能性が強い。インドネシアも30年には日本と横並びになると予測されている。アジア域内での物流がますます増大している。ASEAN(東南アジア諸国連合)と日中韓のアジア域内の貿易比率は五割を超え、域内直接投資は六割に達し、今やEU(欧州連合)の水準に近づいている。「アジアの世紀」が迫りつつある情勢下、安倍的レベルの狭量かつ米国一辺倒の外交政策は行き詰まり破綻することは目に見えている。恐らくは、今次総選挙で延命した安倍政権の外交戦略は、今後四年間の中で必ずデッドロックに乗り上げる局面を迎えるであろう。我われは、安倍政権を超えていく国家戦略を形成していかねばならない。我われは、@アジア共同体、A小国主義、B村山談話の3本の旗をこれからもしっかり掲げ続けていかねばならない。

 第2点目は、保守化する日本の若者の問題である。朝日新聞(5月29日)の分析によれば、2012年に安倍首相が政権に返り咲いた以降の年代別支持率では、一貫して20代が最も高い。30代以降も若い層ほど高く、60代にかけて下がる傾向となっている。今次総選挙でも、この傾向は貫徹したであろう。こうした事実を我われはどのように受け止めるべきか。世界的状況とは真逆なのである。「若者が政治を動かす」「若者が支配秩序を逆転させる」という動きが、いま世界的に発生している。その典型の一つが今年4月の韓国での大統領選挙だ。半年間も続いた朴槿恵前大統領弾劾のキャンドル市民革命を主要に担ったのは10代、20代の若者たちであり、彼らの7割を超える投票行動が文氏を大統領に押し上げた。また六月に行なわれた英国の総選挙において、保守党・メイ政権への若者の怒りが爆発し、18歳から29歳までの若者の65%以上がコービン労働党に投票し、圧勝予想の保守党を過半数割れに追い込む結果を創出した。新自由主義が席巻する現代の資本主義国家において、若者の「対抗運動」がこの10年来、世界各地において一歩一歩確実にうねりをつくり出しているのだ。

 平和と民主主義が殺されようとしている危機の時代、日本の若者はどのように変化していくのか。水にカエルを入れてゆっくりと熱すると、飛び出すきっかけを逃して死ぬという、あの「ゆでガエル」になってしまうのか。はたまた、2年前の戦争法反対の闘いの中で登場したシールズの若者たちの如く、ファシズムに抗する「新たなる共同戦線」の一翼を担うことができるのか。我われが掲げる3本の旗の進路とは、まさしく日本の若者たちの今後の動向にかかっている。