「進歩と改革」No.790号    --2017年10月号--


■主張 安倍再改造内閣発足と求められる朝鮮危機への平和対処

 「不良品」在庫一掃・疑惑隠ぺいの改造内閣


 8月3日、第3次安倍第3次改造内閣が発足した。安倍首相の「森友学園」や「加計学園」をめぐる「政治の私物化」、国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の「日報」隠ぺいに加え、豊田真由子衆院議員の暴言のテレビ放映なども重なって内閣支持率が急落、それは第2次安倍政権以来、最低を記録した。その焦りからか、東京都議選の街頭演説で聴衆のヤジに激昂し、政権と首相個人の独善性を満天下に示した。結果は惨敗、「安倍一強体制」はガタガタと崩れた。

 追い込まれた安倍首相は政権の延命をめざし、内閣改造に臨んで、挙党体制の体裁をつくった。改造後の記者会見では、「国民のみなさまにおわびもうしあげたい」と反省の姿勢を示した。もちろん、言葉だけのことであろう。内閣支持率は下げ止まったが、不支持率は依然として高く、支持率を上回っている。安倍首相は森友学園・加計学園問題を内閣改造で覆い隠そうとしている。安倍首相が行うべきは、改造などではなく、総辞職することであった。社民党の又市征治幹事長は、この改造を「問題閣僚の『不良品在庫一掃』改造であり、『疑惑隠ぺい』改造にほかならない」と強く批判した。的確な批判である。そして安倍退場が催促される局面は続いている。

 「首相、改憲日程軌道修正」とされたが……


 安倍首相は内閣改造後の記者会見で、今秋の臨時国会に自民党の憲法改正案を提出し、2020年に新憲法を施行するとした改憲目標について、「一石を投じたが、スケジュールありきではない」とした。首相側近の萩生田光一幹事長代行が、この発言について「臨時国会で(提出)と一度公言しているので、軌道修正した」と記者団に述べて、「首相、改憲日程軌道修正」と報道機関が指摘した。しかし、この「軌道修正」について、自民党の高村正彦副総裁が「来年の通常国会に(自民党改憲)原案を提出し、衆参両院の憲法審査会で議論した上で発議に持ち込みたいとの考えを表明した」(『産經新聞』8月30日)。自民党改憲原案の提出を先延ばしするだけで、2020年新憲法施行という安倍路線に変更はないことが示された。安倍改憲への警戒を怠ってはならない。

  加害責任を忘却する安倍首相と小池東京都知事


 72回目の敗戦記念の日を迎えた8月15日、政府主催の全国戦没者追悼式が日本武道館で開催された。安倍首相が式辞を述べたが、細川政権以来の歴代首相が踏襲してきたアジア諸国への「損害と苦痛」や「深い反省」に言及することはなかった。五年連続のことであり、極右を支持基盤とし、戦後レジュームからの脱却、日本を取り戻すとする安倍首相の政治姿勢をものの見事にさし示すものだ。

 また小池百合子東京都知事は、9月1日の「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」への追悼文の送付を中止した。石原慎太郎都知事でさえ送付してきた追悼文だが、小池都知事は中止するという。その理由は「関東大震災遭難者及び都内戦災遭難者慰霊大法要で、関東大震災で犠牲となったすべての方々に追悼の意を表しているので、今回特別な形での追悼文の提出は控えた」 ということである。関東大震災犠牲者の追悼は大事だが、自然災害と「朝鮮人が井戸に毒を流した」などのデマが流され、軍隊、警察、自警団により数多くの朝鮮人、中国人が虐殺された事件とは一緒にはできないことである。アジア太平洋戦争に前後する近代日本の加害の歴史に目を覆い、歴史修正主義を導く大きな動きがある。安倍首相、小池都知事がいま歩んでいる道である。

 朝鮮危機打開にむけて―交渉・対話の道を


 8月29日早朝、北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、北海道の渡島半島や襟裳岬の上空を通過し、襟裳岬の東・約1180キロの太平洋に落下した。事前通告なしのミサイル発射であり、船舶や飛行機などへの影響を含めて危険な行為である。当日は、全国瞬時警報システム(Jアラート)が不備ながら作動し、NHKが超人気の朝ドラ「ひよっこ」や「あさイチ」の放映まで中止してニュース報道した。安倍首相は「これまでとレベルの異なる深刻な脅威だ」と北朝鮮の脅威を強調し、新聞、テレビも煽り、国民の北朝鮮への脅威・恐怖・報復感情が極度に高まっている。しかし今回、日本の領海、領土、領空が侵犯されたわけではない。小野寺五典防衛相も国会で、「北朝鮮が発射したミサイルは、武力攻撃に当たると認められず、落下による我が国領域の被害を防止する必要もなかった」と答弁している(8月30日、衆院安全保障委員会、『朝日新聞』)。そうであれば、ここは冷静な対処が必要だ。オスプレイの方がよほど危険ではないか、オスプレイの飛行ルートにJアラートは鳴らないのか、との声も強い。このままいたずらに緊張を煽ったり、朝鮮危機を利用して役に立たない迎撃ミサイル増強・軍事大国化、敵基地攻撃容認、改憲への道に走ることなど許されない。求められるのは北朝鮮政策の転換、関係改善である。

 北朝鮮が批判するのは、8月21日から10日間の日程で行われた米韓合同軍事演習(乙支フリーダムガーディアン(UFG)」である。朝鮮中央通信が、今回の弾道ミサイル発射を「米韓の合同軍事演習への対抗措置」としたことで、それは明らかだ。戦略爆撃機や原子力潜水艦が朝鮮半島周辺に現れ、北朝鮮と指導部を恫喝した。同時に朝鮮中央通信は、107年前の韓日合併条約が公布された8月29日にあわせて「日本人を驚愕させる大胆な作戦計画を立てた」ともしたが、このミサイルの狙いは日本ではなく米国である。

 この間、トランプ政権は「最大の圧力と対話」という北朝鮮政策を採り、「全ての選択肢がテーブルの上にある」と先制攻撃も示唆しながら、北朝鮮との間で激しい舌戦を展開してきたし、米日韓一体の強硬な圧迫政策が展開されてきた。それを経た中での今回のミサイル発射である。核実験の可能性も指摘されている。北朝鮮への軍事的圧力、恫喝、経済制裁では朝鮮は屈せず、朝鮮危機は解決しないことが一層明らかになった。軍事衝突回避のためには米朝対話(外交)による以外にない。そして、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和協定」へ転換するという根本問題へと至ることが肝要だ。

 米朝は対立する一方で、非公式に接触しているとされる。8月20日の『サンデーモーニング』で岸井成格氏は、ニューヨークとオタワでの米朝秘密交渉を指摘していた。ところが安倍首相は、「今は対話のときではない」と断じて、北朝鮮との交渉・対話の道を閉じた。この安倍首相の強硬姿勢では朝鮮危機を打開することはできない。評論家の田原総一郎氏が安倍首相に求めた「政治生命を懸けた冒険」では、「『ミサイル』解決へ 首相は動く」(『毎日新聞』8月22日)とされたが、今こそ実行に移すべきではないか。(9月1日)