「進歩と改革」No.789号    --2017年9月号--


■主張 安倍政権打倒へ力強い戦線を築こう―民進・連合に思う

 稲田朋美防衛相が辞任、次は安倍首相だ!


 「大臣、逃げるのか」「何か言ったらどうなんだ」、7月27日の夜、記者会見を終え無言で立ち去る稲田朋美防衛相に、記者から鋭い詰問の声が飛んだという。稲田氏が防衛相を辞任した。辞任の理由は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題で、陸上自衛隊が「廃棄した」としながら保管していたことを、稲田氏が報告をうけながらも隠蔽していたのではないかという疑惑など、トップとして防衛省の混乱を招いたことの責任をとったという。

 この稲田防衛相、第3次安倍第2次改造内閣(2016年8月)で防衛相に就任したが、安倍内閣の右翼性をものの見事に象徴する人物であった。もともと、雑誌『正論』の対談(2011年)で、「長期的には日本独自の核保有を単なる議論や精神論ではなく国家戦略として検討すべき」と発言するような核武装論者でもあった。防衛相就任会見では「現時点で核保有を検討すべきではない」と逃げたが、将来の核保有を否定しなかった。2016年12月27日午前(日本時間28日朝)に、安倍首相がオバマ大統領と真珠湾を訪ねた翌29日、A級戦犯を祀る靖国神社に参拝する人物である。直近の都議選では、自民党候補の集会で「防衛省、自衛隊、防衛大臣としてもお願いしたい」と応援演説し、自衛隊を政治利用し、公務員の地位を利用した選挙運動を禁止する公職選挙法に違反した。しかも、この違反にまったく自覚がなかったことが記者会見で判明したのは救い難いことだった。それにもかかわらず、安倍首相は稲田防衛相を「将来の首相候補」として重用し続けたのである。その責任は極めて重いと言わねばならない。

 共謀罪法案の強行可決、森友・加計学園問題での情報隠ぺいなどで安倍内閣の支持率が低下した。都議選での街頭演説では、「安倍辞めろ」「安倍帰れ」コールに見舞われ、「こういう人たちに負けるわけにはいかない」と激昂したが、これが安倍首相の独善性を満天下に示すものとなった。小池都知事の「都民ファーストの会」が圧勝、自民党惨敗で、安倍一強の体制に風穴が開いた。内閣支持率はさらに低下し、政権基盤がガタガタと崩れ、いまや安倍政権の退陣が「催促」される政局に至っている。安倍首相は改憲に執着し、政権延命にむけて8月3日に内閣改造をするが、求められるのは内閣改造などではない。稲田防衛相に続いて安倍首相が辞めることである。

 蓮舫辞任に追い込んだものは!?


 安倍内閣の打倒へむけて絶好の時期にあるときに、野党第一党の民進党の混迷が表面化した。蓮舫代表の辞任表明(7月27日)であり、都議選敗北の責任をとった形である。蓮舫氏は2016年9月、岡田克也代表辞任後の民進党代表選に立候補して勝利した。立候補に際しては、「9条は絶対に守る」と発言し、そのリベラルな政治姿勢が期待された。2016年7月の参議院選(東京選挙区)では約112万30000票獲得という圧倒的な人気を示したが、その力は先の都議選では消え失せた。この間に何があったのか。二重国籍問題での批判はあったが、それよりもやはり代表就任後、幹事長に野田佳彦氏(前首相)を選んだ人事が蓮舫民進党の清新さをかき消すことになったのではないか。この人事に対しては、当初から民進党内部に「蓮舫氏のえこひいき」という厳しい声が聞こえていた。蓮舫氏は都議選敗北直後には代表続投を宣言していた。しかし、野田幹事長の後を引き受けるものが誰一人いなくて、結局は代表を辞任せざるをえなかった。「蓮舫氏の人望のなさ」ゆえのことだと言われている。党内ベテラン実力者から代表辞任の引導を渡された。蓮舫氏は民進党の挙党体制を築けなかった。

 新代表を選出する民進党代表選は8月21日告示、9月1日投開票の日程で行われる予定である。投票権は党所属の現職国会議員のみならず、国政選挙の党公認予定候補者・党所属の地方自治体議員・党員およびサポーターにも認められる。立候補者は、前原誠司元外相と枝野幸男元官房長官などの名が上がっている。すでに国会議員票では前原先行などと噂されているそうだが、新代表に望みたいのは何よりも、民進、共産、自由、社民の野党4党による「安倍政権の下での憲法9条の改悪に反対する」との合意(6月8日)を推進すること、先の参院選の32選挙区で実現し、11選挙区で勝利した野党統一候補の闘いを引きつぎ、次の総選挙へ市民連合とともに発展させることである。

 あゝ連合よ!


 連合がこれまで強く反対してきた「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」についての方針を転換し、一定の法案修正を条件として容認すること、それを政府、経団連との「政労使」で合意する予定であることが明らかになった。高プロ制度は、年収要件などを満たす労働者を労働時間規制の対象から外すものであり、いわゆる「残業代ゼロ法案」である。これは労働時間規制の根幹を崩すものであり、この間に連合が反対してきたのは当然であった。それを変えるという。しかも、この修正合意にむけた連合内の議論や了承手続きは行われていなかった。

 安倍内閣は「働き方改革」を打ち出し、今年3月には政労使で時間外労働の上限規制について合意している。 上限を「単月100時間未満」にするなど問題ある合意である。この働き方改革関連の労基法改正案とすでに国会提出済みの高プロ創設など同法改正案を一体化して、秋の臨時国会に出すとされる。そこへむけた安倍内閣の連合執行部の取り込みが今回の根底にある問題であろう。『朝日新聞』(7月14日)によれば、連合内で今回の合意を進めたのは、3月と同様に逢見直人事務局長、村上陽子総合労働局長らで、神津会長も直前まで具体的な内容を把握していなかったという。神津会長もほめられたものではないが、まっとうな組織のやることではない。今秋の連合人事では、神津氏は歴代会長が2期4年務めた会長職を1期で退き、逢見事務局長が会長職に就くとされてきた。「『連合の古だぬき』高木が神津会長降ろし」(『FACTA』5月号)とも書かれたが、これは高木剛元連合会長のことで、逢見氏と同じUAゼンセン出身である。どうやら連合内ではUAゼンセン(連合内最大産別)の力が強くなり、他方で組織運営の官僚化、独断化、非民主化が一段と進んでいるようだ。逢見氏は事務局長就任直前の15年6月、官邸で安倍首相と懇談して批判を浴びた。この時期は安保法制が国会提出され、国会・官邸を市民運動が包囲しているときである。問われているのは、連合指導部の安倍政権へのスタンスである。

 連合指導部の「残業代ゼロ」容認方針は、傘下産別や地方連合から批判を受けて撤回、予定されていた政労使合意も見送られ、会長人事も振り出しに戻った。ひとまずは良かったが、問題はこれからだ。連合が全労働者を代表して闘う姿勢をもって安倍政権に立ち向かうよう現場からの声を高めたい。