「進歩と改革」No.786号    --2017年6月号--


■主張 朝鮮半島に非核・平和の実現を!

 トランプ大統領が仕組んできた朝鮮危機


 「すべての選択肢がテーブルの上にある」。北朝鮮への武力行使も辞さないというトランプ米大統領の発言である。トランプ大統領は、国際法を無視して、内戦が続くシリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃し(4月7日)、またアフガン東部のISに対し、核兵器以外の通常兵器では最大の破壊力をもつ「大規模爆風爆弾」を使用した(4月13日)。トランプ大統領は、先制的軍事攻撃の構えをもって、その刃を北朝鮮に向けてきた。

 ここで、一つの数字から考えてみたい。北朝鮮の国民総所得である。それは韓国銀行の推定で304億9850万ドル(共同通信社『世界年鑑017』)、1ドル112円で計算して、3兆4158億円となる。日本の岩手県の県民所得が3兆4930億円、奈良県が3兆4990億円(総務省統計局『日本の統計2017』)だから、単純に比較してほぼ同じになる。国の評価は経済力だけでは測れないし、北朝鮮は自主を謳う国だが、経済規模で日本の県と同程度の国を、17兆9469億ドルの国内総生産、国防予算が6190億ドルで、1367発の戦略核弾頭を配備済み(『世界年鑑2017』)の軍事超大国アメリカが、米韓合同軍事演習に合わせて、圧力をかけてきたのだ。理不尽なことではないか。米韓合同軍事演習では、ステルス超音速戦略爆撃機など最新兵器を動員して北朝鮮に迫り、指導者を殺害する「斬首作戦」まで構想されてきた。また、原子力空母「カール・ビンソン」が投入され、これが「米、対北圧力を強化 空母、朝鮮半島へ」(4月25日、『読売新聞』)などと、いまにも戦争が開始されるかのようにマスコミで喧伝された。

 朝鮮危機を政治利用する安倍首相


 安倍首相は、トランプ政権が仕掛ける朝鮮危機に追随してきた。空母「カール・ビンソン」と海上自衛隊の護衛艦の共同訓練が行われ、また安保関連法に基づき、自衛隊艦船による平時の「米艦防護」が初めて実施された。安倍政権は、朝鮮危機を絶好のチャンスとばかりに政治利用し、日米軍事同盟強化に走っているという以外にない。4月30日(日)のTBSテレビ「サンデーモーニング」で、ジャーナリストの青木理さんが、米日の共同軍事訓練などを「憲法9条(1項)違反」と発言したが、思わず拍手してしまうほど共感した。

 1994年の第1次朝鮮半島危機の際、当時の韓国大統領の金泳三氏が、韓国の在留米国人の避難計画を進めていた駐韓米国大使を青瓦台に呼び、「米国の北朝鮮に対する強硬な政策は受け入れられない」として、強く抗議したという。それに比べ、安倍首相は今回、「(北朝鮮が)サリン弾頭の着弾能力を保有している可能性」を発言したりして、危機回避へむけて努力する姿勢が見られない。北朝鮮との過去清算もできないこの国の首相から、対話・平和解決へのメッセージが出されないのは情けないことだ。

 「経済制裁」「外交的措置」を打ち出した米国の新朝鮮政策だが


 ティラーソン米国務長官が、「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」と発言したことから、米国の新しい朝鮮政策が注目されている。ティラーソン氏は、「我われの目的は北朝鮮の非核化であり、北朝鮮の体制転換ではない」ともして、その後、マティス国防長官、コーツ国家情報長官を加えた3長官「共同声明」(4月26日)では、「経済制裁」「外交的措置」「(北朝鮮政権が)対話の道に復帰するよう説得する」ことなどが打ち出された。これで軍事的選択が回避されたのなら前進だが、新政策は北朝鮮への軍事攻撃を排除してはいないようだ。また、経済制裁やテロ支援国家再指定、中国へ圧力を加え、その力を借りて北朝鮮の核放棄を迫るようだが、米国の一方的な政策に北朝鮮が屈することはないだろう。

 2005年9月19日の6者協議共同声明では、「6者は、協議の目標が、平和的な方法による朝鮮半島の検証可能な非核化であることで一致して再確認した」と合意された。歴史的な声明である。しかし、この合意による朝鮮半島非核化の進展を、いちゃもんを付けて妨害してきたのが米国・ネオコンであった。根本的に求められるのは米国の反省で、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和協定」へ転換すること、米韓合同軍事演習と北朝鮮の核実験の中止による緊張緩和、朝鮮半島の非核化へ米朝2国間、6か国協議を実施することである。