「進歩と改革」No.784号    --2017年4月号--


■主張 話し合うことが罪になる、共謀罪法案を止めよう!

 民主主義を窒息させる共謀罪
 

 共謀罪とは、法律に違反する行為を実行しなくても、2人以上の者が話し合い合意しただけで処罰できる犯罪である。話し合うことが罪になる! 共謀罪法を新設して処罰するのは、何より国内法の基本原則に反することである。「我が国の国内法の基本原則は、『既遂』の処罰を原則とし、『未遂』は例外的、『予備』は更に例外的、『共謀』に至っては極めて特別な重大な法益侵害に関するものに限って処罰する」ことになっているからである。

 つまり、次のように説明される。「犯罪は、人の内心で生まれ、共犯の場合は共犯者との合意を経て、準備され(『予備』段階)、実行に着手され(『未遂』段階)、そして実行されて結果が生じます(『既遂』段階)。我が国の刑法は、『既遂』処罰を原則としています。法律で保護された利益(法益)を現実に侵害して、結果が発生した場合に処罰することとしているわけです。『未遂』は、特に法律で認められた場合に処罰されるのであり、例外的なものといえます。このように未遂を例外扱いし、刑罰の減軽を認めていることから、『罪を犯そうとする危険な意思』を処罰するのではなく、『法益侵害の危険性を発生させたこと』を処罰すると考えられています。『予備』の処罰は、『未遂』より更に例外的で、殺人・強盗・放火などの重大犯罪に限って規定されています。現在、『予備』の一種である『共謀』の処罰は、いわば『危険な意思』の処罰といえますが、このような処罰の対象となっているのは、内乱の陰謀罪、私戦陰謀罪など極めて特別な場合に限られています」(日本弁護士連合会リーフレット)。共謀罪はすでにある。改めて広汎な共謀罪を設ける必要などないということである。

 共謀罪法案は、2003年の第156回国会以降、これまで3回提出されたが、いずれも廃案となってきた。2005年には社民党の保坂展人衆院議員(現世田谷区長)が国会質疑で、「目くばせだけでも犯罪が成立する」との政府答弁を引き出して、共謀罪法案の危険性を満天下に明らかにし、反対の世論を高めた。共謀罪法案が成立すると捜査機関の恣意的な運用により盗聴や内偵などで市民・団体の権利が侵害される。思想・言論が処罰される。警察国家・監視国家が強まる。民主主義を窒息させる以外、何ものでもない。

 法案の閣議決定、国会提出、成立を急ぐ安倍政権


 過去3回の廃案という経験を踏まえて、今回、共謀罪の名を変えるという。姑息な手段である。「テロ等準備罪」を新設した「組織的犯罪処罰法改正案」にする。しかし、名前を変えても、これはどこまでも共謀罪新設法案である。安倍政権は3月10日に閣議決定し国会提出するとし、6月18日までの今国会での成立が目論まれている。

 安倍政権の主張は、2000年に締結された「国連越境組織犯罪条約」を批准するためだということである。条約批准には共謀罪かそれに似た参加罪の導入が要件とされている。この条約を批准してテロ対策の国際協力を強めなければならないと強調される。安倍首相は「国内法を整備し、条約を締結できなければ東京五輪・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」とまで述べている(1月23日)。これは、東京五輪・パラリンピックの政治利用の極みである。東京五輪・パラリンピックのために、何でもが許されるわけではないだろう。

 この条約は本来、テロ対策のためのものでなく、マフィアなどの国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策の国際条約であった。同条約の批准は必要であるが、共謀罪法案に反対する日本弁護士連合会や市民団体は、「共謀罪法案がなくても条約は批准できる」と主張している。同条約を批准した国が必ず共謀罪を設けているわけではない。アメリカは共謀罪条項を留保して同条約を批准している。同条約は「自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」と定めており、その通りに実行すれば良いのである。共謀罪新設法案はいらない。

 だが朝日新聞社の全国世論調査(電話、2月18〜19日)で、法案への「賛成」が44%で、「反対」25%を上回った。残念だが、安倍政権の目論みがある程度成功を収めていると見るしかない。しかし同時に、この調査では「『テロ等準備罪』によって、犯罪集団だけでなく、一般の人まで取り締まられる不安をどの程度感じますか」との問いに、「大いに感じる」が13%、「ある程度感じる」が42%、「あまり感じない」が29%、「まったく感じない」が9%であった。55%の人が不安を感じている。共謀罪新設法案の危険を訴え、反対の声を高めたい。その際、次の主張が大事である。「国連その他の国際機関は多くのテロ対策の条約を制定しています。それはハイジャック防止のためにハーグ条約、シージャック防止条約、プラスチック爆弾防止条約などの13の条約です。日本はこれらすべての条約を締結し、国内法も整備しています。このうち国連テロ資金供与防止条約(2002年)に関連し、2004年に国内ではテロ資金提供処罰法が制定され、2014年には更に改正され処罰範囲などを拡大しています。2007年には国連テロリズム防止条約に関連して予備段階から処罰を可能とする法律を制定しています」(パンフ『一からわかる共謀罪』)。「条約を締結できなければ東京五輪・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」などという安倍首相の言葉はまったくの嘘である。

 「市民処罰の余地含む」と東京新聞


 2月末までに共謀罪新設法案の全文が明らかになった。報道されるところでは、処罰対象を「組織的犯罪集団」とし、資金の調達や現場の下見などの「準備行為」を行った時に処罰されるとした結果、2003年に国会提出された共謀罪法案では600以上の犯罪が共謀の段階から処罰対象とされたが、今回277になった。そこで公明党も容認したという。公明党の責任者・漆原良夫衆院議員は、「組織的犯罪集団に限定され、NPO法人、労働組合、一般の会社は対象にならないと明確になった。罪数も縮減された。準備行為がなければ犯罪は成立しないと、要件は非常に厳格化された」(3月1日、『朝日新聞』)と成果を誇るが、果たしてそうか。『東京新聞』(同)は「市民処罰の余地含む」との見出しで、「例えば、基地建設に反対する市民団体が工事車両を止めようと座り込みを決めた場合には、組織的威力業務妨害が目的の組織的犯罪集団に性質が一変したと捜査機関の裁量次第で認定されてしまう懸念がある」と指摘した。市民団体が組織的犯罪集団にされ弾圧される。すぐに思い起こすのは沖縄の闘いであろう。「準備行為」についても拡大解釈されるなど危険は変わらない。あれだけ政府が「テロ防止」を主張しながら、条文には「テロの文言がまったくない」。要は、テロ対策は口実であったということだ。

 先のパンフ『一からわかる共謀罪』で、海渡雄一弁護士は「共謀罪は戦争法と一体」「(政府の)狙いは、戦争できる国づくりに向けて市民監視・管理社会をつくることです」と言っている。外に「戦争」、内に「治安」ということだろう。秘密保護法(2013年)に続く悪法を阻止するため力を注いでいこう。