「進歩と改革」No.783号    --2017年3月号--


■主張 第193通常国会召集と安倍首相の施政方針演説

 「日米同盟」「共謀罪」、そして「改憲」
 

 第193回通常国会が1月20日に召集された。安倍首相の施政方針演説が行われたが、「これまでも、今も、そしてこれからも、日米同盟こそが我が国の外交・安全保障政策の基軸である。これは不変の原則です」と日米同盟路線の強化を訴えた。露骨で許せないのは、沖縄の基地負担軽減について、「かつて『最低でも』と言ったことすら実現せず、失望だけが残りました。威勢のよい言葉だけを並べても、現実は1ミリも変わりません」と鳩山由紀夫内閣を批判しつつ、「最高裁判所の判決に従い、名護市辺野古への移設工事を進めてまいります」と、沖縄県民が反対する辺野古新基地建設を明言したことである。それからわずか半日後、米国でトランプ新大統領の就任式が行われたが、安倍演説は発足するトランプ政権を強く意識して、「日米同盟は永久に不滅です」とラブコールしたものだった。しかし、トランプ大統領は23日、安倍首相の執着するTPP(環太平洋連携協定)から「永久離脱」する大統領令に署名した。安倍首相の願いはまずTPPで破られた。

 安倍首相の施政方針演説では、「テロなど組織犯罪への対策を強化します」と主張された。狙いは共謀罪の創設にある。共謀罪は過去3回廃案になっているが、今回、共謀罪の名を変え、「テロ等準備罪」を新設する「組織犯罪処罰法改正案」の国会提出がめざされている。個人の内心の自由を侵害し、監視写会を強め、民主主義の破壊を加速するものである。安倍首相は、法を整備しないと「東京五輪・パラリンピックを開けない」とするが、「日本はすでにテロ防止に関連する諸条約を批准し国内法制化を行っているのに、あえて共謀罪を創設する必要はない」(又市征治・社民党幹事長)。安倍首相にとって、東京五輪・パラリンピックのために本来やるべきことは、IOC総会での招致演説で首相自ら約束した福島第一原発の「アンダーコントロール」ではないか。

 また演説で安倍首相は、憲法施行70年の節目に、「次なる70年に向かって日本をどのような国にしていくのか、その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか」と述べた。この発言に対し、「民進党議員からは『行政府の長が立法府に説教するな』とヤジが飛んだ。蓮舫代表も……『立法府の審議の内容を指示するのは、あまりにご都合主義』とクギを刺した」(『朝日新聞』1月21日)。この民進党から飛んだヤジと蓮舫代表が刺したクギは、極々正当なものであり、有用な批判である。

 『50年前の憲法大論争』に学ぶ


 『50年前の憲法大論争』(保坂正康監修/解説・講談社現代新書)という本がある。1956年(昭和31)3月16日に開かれた衆議院内閣委員会公聴会での憲法論議を紹介したものである。当時の鳩山一郎内閣が提出した憲法調査会法案についての3人の公述人に対し、与野党8人の議員が質問し、白熱した議論が展開されている。

 この中で特に教訓的なのは、「憲法改正は内閣の提案すべき事項にあらず」と題された戒能通孝公述人(法社会学者)の発言である。「内閣は憲法の忠実な執行者であり、また憲法のもとにおいて法規をまじめに実行するところの行政機関であります。したがって、内閣が各種の法律を審査いたしまして、憲法に違反するかどうかを調査することは十分できます。しかし憲法を批判し、憲法を検討して、そして憲法を変えるような提案をすることは、内閣にはなんらの権限がないのであります」「内閣は、けっして国権の最高機関ではございません。したがって国権の最高機関でないものが、自分のよって立っておるところの憲法を批判したり否定したりするということは、矛盾でございます」。いまは行政府の長・安倍首相が「私は立法府の長」と発言して(2016年5月)、何ら恥じない時代である。しかも安倍首相は改憲を煽り、今回も「行政府の長が立法府に説教する」姿勢を示した。この本が発刊されたのは2007年、憲法施行60年の年である。それから10年が経過したが、この本は憲法の原点をみずみずしく説いて、いまの安倍改憲批判・憲法擁護に活かせるものである。

 同じ公聴会で中村哲公述人(政治学者・後に社会党参院議員)は言っている。「現在の憲法ほど各国の憲法に比べて民主主義的であり、平和主義的であり、しかも基本的人権の保障においてよその国よりも厳重であるという憲法は――私は、比較憲法上はこれがもっともすぐれた憲法だと思います」。憲法の理念は破壊されつづけてきたが、この60年前の言葉は今日も輝きを失ってはいない。この言葉を胸に刻みたい。