「進歩と改革」No.782号    --2017年2月号--


■主張 憲法施行70年、平和を紡いでアジアの共生へ!

 安倍首相の真珠湾訪問―真珠湾だけでなく、中国・朝鮮・シンガポールへ
 

 昨年12月27日(日本時間28日朝)、安倍首相は太平洋戦争に際し奇襲攻撃を行ったハワイ・真珠湾を訪問し、追悼施設の「アリゾナ記念館」でオバマ大統領と一緒に献花し、黙とうをした。「犠牲者を慰霊する」ためである。日本の侵略戦争への反省や謝罪はなかった。

 昨年5月にオバマ大統領が被爆地・広島を訪問したが、それに続いての安倍首相の真珠湾訪問で、日米間で「寛容の大切さ」が謳われ、「和解の力」がアピールされた。「寛容」と「和解」の上に、日米の軍事一体化・軍事同盟強化がすすめられる。「これで戦後は完全に終わりになるかな。いつまでも、私の次の首相まで戦後を引きずる必要はない」と言うのが、真珠湾訪問を前にした安倍首相の言葉だそうだ(『産經新聞』29日)。真珠湾訪問で、戦後は完全に終るのか? 首相の頭の中には「戦後の総決算」しかないようだが、今も米軍基地被害に苦しんでいる沖縄県民のことは完全に忘れ去られている。そして戦後を清算し、日本をどこへ導こうとしているのか。「戦争のできる国へ」「新たなる戦前への回帰」の道を許してはならない。

 この真珠湾訪問に、『東京新聞』(29日)は、作家の半藤一利さんが「不戦の誓いについては、首相は行動が伴っていない。むしろ安保関連法の制定など、どんどん不戦じゃない方向へ行っている。他国から見れば『口ばかり』と批判されるだけだと思う」とし、元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は「首相は演説で、日米同盟の強固さも強調した。安保関連法案で制度化された日米の一体化と合わせ、日米が一枚岩であることによって、中国をけん制する思惑もうかがえた」とした。この両氏の指摘が優れて納得的で、同感できる。

 柳沢氏は「戦争した国との和解の努力は、相手が納得するまで終わりがない。真珠湾でそれができるなら、南京や盧溝橋でもできないことはない」ともした。求められるのは、日米軍事一体化をすすめるための「寛容」と「和解」ではない。アジアの共生へ向けた「歴史認識の共有」と「和解」である。問われているのは、安倍首相が「侵略の定義は定まっていない」などとしてきた粗雑な歴史認識を心底正すことである。

 安倍首相の真珠湾訪問については、日米の歴史学者ら50人が首相宛に歴史認識を質す公開質問状を出した。1941年12月8日に日本が攻撃した場所について、「真珠湾だけではありません」と指摘し、真珠湾だけでなく、「中国や朝鮮半島、他のアジア太平洋諸国、他の連合国における数千万にも上る戦争被害者の『慰霊』にも行く予定はありますか」と尋ねている。村山談話を継承する会は、「真珠湾の帰途にシンガポールに立ち寄って、虐殺犠牲者の追悼碑『血債の塔』に献花することなどが、可能なはずだ。また、南京・ハルピン、朝鮮半島などのアジア各地や日本国内では強制連行・強制労働の追悼碑・記念館等が各地に多数存在している。それらへの献花や存命の被害者に謝罪することに今からでも、安倍首相は取り組むべきである」とした。その通りであり、安倍首相は誠実に実行すべきである。安倍首相の真珠湾訪問で「戦後は終わらない」(朝日新聞)。

 安倍政権・安倍シンパが強調する中国包囲網はすでに破綻


 日米の「寛容」と「和解」が強調される背景にあるのが、とりわけ中国への包囲網を強めようとする安倍政権の意図である。また『産經新聞』(同日)になるが、阿比留瑠比・論説委員は「安倍首相は演説で…『寛容』という表現を7回用いた。……(これは)戦後七〇年以上がたっても過去ばかりに目を向け、すぐに歴史問題を振りかざしては優位に立とうとする中国や韓国に、寛容さの価値への理解を迫るものだ」とした。見出しが「寛容の価値 中韓に迫る」で、歴史を歪曲する安倍政権の正当性と優越性が強調された嫌なものだが、ここには日中国交回復時、日本に対し損害賠償を放棄した中国の寛容さは無視されている。まさに歴史の忘却ではないか。

 阿比留氏に限らず、安倍シンパには中国の台頭を警戒し、その脅威を説くものが多い。その一人、ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、先の安倍・プーチンの日ロ首脳会談についても「日本にとって日ロ関係の発展深化が中国けん制になる。領土問題はもちろん重要だが、同時に尖閣諸島を脅かす中国が現実的脅威である以上、ロシアと友好関係を深めて中国に対抗するのは当然の戦略的判断だ」と語っている。中ロ分断を図り、中国を包囲するためにこそ今回の日ロ首脳会談があったようだ。中ソ対立時代などとっくに過ぎ去り、中ロ分断などできもしないことだが、とにかく尖閣、尖閣と中国の脅威を煽れば、日本の安倍外交は何でも許されるような露骨かつ危険な主張である。しかし、この価値観外交という名の中国包囲網形成は、フィリピンのドゥテルテ大統領が南沙諸島問題で中国との対立を避ける姿勢を示したことなどで、すでに破綻しているのが実際だ。

 同じ『産經新聞』は、「安倍首相には、靖国参拝の再開を改めて求めたい」とした。昭和26年10月、当時の吉田首相がサンフランシスコ平和条約の締結を戦没者に報告するため靖国神社を参拝した例にならって、真珠湾訪問を報告すべきだと言う。これまた靖国神社へのA級戦犯合祀など歴史を気にかけない勝手な主張である。

 立憲主義擁護、改憲阻止の闘いの前進を


 2017年は憲法制定から70年である。日本の政治の危機は、自民、公明、維新など改憲勢力が衆参両院で3分の2議席を占めていることにあり、我われは立憲主義を擁護し、憲法を守りぬかねばならない。1月20日には通常国会が召集される。1月解散・2月総選挙説も完全に消えてはいないが、今秋以降説が強まっている。3月5日の自民党大会では、総裁の3選禁止規定が解除されて3期9年となり、安倍3選への道が開かれる。いうまでもなく、改憲阻止の闘いは安倍政権との闘いになる。7月には東京都議会議員選挙が実施される。

 国際的には1月20日、トランプ米大統領が就任し、TPP離脱が宣言される。4月23日にフランス大統領選挙第1回投票、9月にドイツ連邦議会選挙があり、秋には中国共産党第19回大会が開催される。韓国朴槿恵大統領への弾劾・失脚が米日韓の同盟を揺るがしているが、同時にトランプ大統領の政策が世界の政治・経済・社会に及ぼす影響が注目される。この時代を、「神道政治連盟の国会議員303名と、創価学会を母体とする公明党国会議員60名の宗教組織をもって、狂信的に乗り切ろうという」(幻想史学の会・室伏志畔氏)のが安倍政権である。これに対抗して、「平和・自由・平等・連帯」の政治を強めて行かねばならない。

 「永久に武力をすてし9条よ 殺戮断ちきる叡智とならむ」。読者から届いた年賀状に書かれた歌だ。元旦の『朝日新聞』歌壇には、「不時着と言ひ替へられて海さむし 言葉の危機が時代の危機だ」というプロの歌も載った。沖縄に思いを重ね、9条に示された平和の価値を紡いで、新年の闘いを歩みたい。