「進歩と改革」No.732号    --2012年12月号--


■主張 「領土問題」の悪循環を止めよう      



「日本の市民のアピール」を大きく広げよう
 

 竹島、尖閣諸島の領有問題をめぐり日韓、日中関係が悪化、緊張した現状を憂い、9月28日、有志による「『領土問題』の悪循環を止めよう―日本の市民のアピール」が発表された。『社会新報』(10月24日号)一面にも紹介されたが、このアピールに賛同した市民が、10月18日夕、衆議院議員会館前に集い、キャンドル行動を展開した。本誌は、アピールを強く支持し、読者とともにその輪を大きく広げたいと思う。

 アピールは、まず冒頭、「『尖閣』『竹島』をめぐって、一連の問題が起き、日本周辺で緊張が高まっている。2009年に東アジア重視と対等な日米関係を打ち出した民主党政権の誕生、また2011年3月11日の東日本大震災の後、日本に同情と共感を寄せ、震災地に温家宝、李明博両首脳が入り、被災者をはげましたことなどを思い起こせば、現在の状況はまことに残念であり、悲しむ事態であるといわざるを得ない」「韓国、中国ともに日本にとって重要な友邦であり、ともに地域で平和と繁栄を築いていくパートナーである」と始まり、最後に「私たちは『領土問題』をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作ることを提案する」と結ばれている。

 アピールを詳しく紹介する紙幅はないが、共感し同感できる一つは、領土問題にかかわる歴史認識である。アピールは「現在の問題は、『領土』をめぐる葛藤といわれるが、双方とも『歴史』(近代における日本のアジア侵略の歴史)問題を背景にしていることを忘れるわけにはいかない」とする。そして「日本の竹島(独島)編入は日露戦争中の1905年2月、韓国の(当時、大韓帝国)の植民地化を進め、すでに外交権も奪いつつあった中でのものであった。韓国民にとっては、単なる『島』ではなく、侵略と植民地支配の起点であり、その象徴である。そのことを日本人は理解しなければならない。また尖閣諸島(釣魚島=中国名、釣魚台=台湾名)も日清戦争の帰趨が見えた1895年1月に日本領土に組み入れられ、その三カ月後の下関条約で台湾、澎湖島が日本の植民地となった。いずれも、韓国、中国(当時、清)が、もっとも弱く、外交的主張が不可能であった中での領有であった」としている。正当な指摘である。

 次のようにも主張する。「領土問題はどの国のナショナリズムをも揺り動かす。国内の矛盾のはけ口として、権力者によって利用されるのはそのためである。一方の行動が、他方の行動を誘発し、それが次々にエスカレートして、やがて武力衝突などコントロール不可能な事態に発展する危険性も否定できない。私たちはいかなる暴力の行使にも反対し、平和的な対話による問題の解決を主張する」「『領土』に関しては、『協議』『対話』を行なう以外にない。そのためには、日本は『(尖閣諸島に)領土問題は存在しない』といった虚構の認識を改めるべきである。誰の目にも、『領土問題』『領土紛争』は存在している。この存在を認めなければ協議、交渉に入ることはできない」。ここには、平和憲法の精神が強く反映しているし、現実的な外交努力の不可欠性が強調されており、賛成できる(アピール文は、http://www.annie.ne.jp/~kenpou/)。


都知事辞任・国政復帰をめざす石原慎太郎氏の戦争挑発・改憲を許すな!
 

 尖閣諸島の領有問題を煽ったのは、東京都知事の石原慎太郎氏であった。石原氏は、尖閣諸島の都有化を宣言し、買収のための資金を一般から募り、右翼ナショナリズムを煽った。日中国交回復時の「尖閣問題の棚上げ」合意を破棄することに石原氏の狙いがあった。8月、尖閣諸島の購入問題で野田首相と会談した際には、「(中国と)『戦争も辞さず』みたいな話をした」(前原・国家戦略担当相)ともされる。

 その好戦派で改憲派、日本独自核武装論者の石原氏が、東京都知事を任期中途で辞任した。国政に復帰するため、「たちあがれ日本」を母体にして、自らを党首に「石原新党」を結成するという。自民党に安倍晋三総裁、日本維新の会の橋下徹大阪市長、それに加えて石原慎太郎氏という改憲トリオの登場には、当然に警戒と対抗が必要だ。石原氏のめざす「改憲第三極」形成の先行きは不透明である。しかし、石原氏が国政復帰をめざす行動の根底に、尖閣諸島領土問題での対中国敵視姿勢があることは明らかであろう。それだけに、「『領土問題』の悪循環を止めよう―日本の市民のアピール」の重要性が高まっている。