「進歩と改革」No.731号    --2012年11月号--


■主張 民主党代表選と自民党総裁選を終えて      


 

 民主党代表選と自民党総裁選が終わった。政権政党と野党第一党のトップ選挙だから、日本の政治の動向に大きな影響を及ぼすものであることは言うまでもない。それぞれに振り返ってみたい。


野田民主党の保守政党への深化
 

 民主党代表選は、9月10日告示、21日投開票で実施された。再選をめざす野田佳彦代表(総理)に対抗して、赤松広隆、原口一博、鹿野道彦氏が立候補し、四人で争われた。結果は野田氏が818ポイント、2位の原口氏が154ポイントで、野田氏の圧勝であった。これは当初から想定されたものである。今回の民主党代表選の特徴は、何と言っても小沢一郎氏らのグループが離党したなかで行われ、そのために有力な対抗馬がいなかったことである。加えて対立候補が一本化されず3氏に別れたため、最初から勝負が決していた。一時、細野豪志環境・原発担当相(当時)の立候補を推す動きが高まったが、野田首相に、それならば早期に解散するぞと恫喝され、その動きは急速にストップしてしまった。細野擁立派は、細野氏への圧倒的な支持を集め、野田氏に立候補を諦めさせようとしたが、野田氏は居直り、失敗した。その結果が野田再選である。

 選挙戦は、盛り上がりに欠けた。党員・サポーターの投票率が、ことのほか低かったのも今回の代表選の特徴であった。何と33万6974人の党員・サポーター票のうち21万9899人が棄権、または無効票を投じた。投票率は33・7%という最低を記録した。党員・サポーター票のうち野田氏に投票したのは21・5%でしかない。今回の代表選での党員・サポーター、及び地方議員の投票締切は9月18日であったが、それまでに選挙広報が届かなかったとされる。街頭演説会も、公務で忙しいという野田氏の主張があり、行われたのは19日の新宿駅頭の一回きりであった。18日に党員・サポーター、地方議員の投票を締め切っておきながら、翌日に駅頭演説会をやるとは何事だ、という不満の声が聞こえていた。投票率の低下には、こうしたことも影響したのだろうが、根底にあるのは民主党という政党組織の空洞化であり、地域からの市民的共感の喪失であろう。

 一方、民主党国会議員の野田支持は、約6割の211人であり、再選の大きな力となった。野田氏は、自らを「保守政治家」と自認している。代表選の選挙公報(『民主』288号)では、他候補が「TPPへの参加は、国益を踏まえ慎重に行う」(赤松)、「TPPへの不参加」(原口)、「TPPへの参加は、慎重を期す」(鹿野)としているなかで、ただ一人「TPP、日中韓FTA、東アジア経済連携協定(RCEP)を同時並行して推進」とした。消費税増税を推し進めたり、武器輸出三原則の見直しに前向きになったりする野田氏の再選は、民主党の保守政党としての深化を示すものである。


右翼タカ派・安倍晋三氏の自民党総裁復帰
 

 自民党総裁選は、9月14日に告示され、26日に投開票された。谷垣禎一現総裁が立候補辞退に追い込まれ、安倍晋三、石破茂、町村信孝、石原伸晃、林芳正の5氏の争いとなった。結果、地方票で第1位となった石破氏を国会議員だけの決戦投票で安倍氏が逆転し、総裁に就いた。野田再選で民主党の保守政党化が進んだので、ならばこちらは右翼タカ派で、ということだろうか。この安倍氏、2006年9月に総理に就任したが、参院選で敗北し、翌年9月、健康を理由に辞任した。その再チャレンジが今回の総裁選であった。テレビで安倍氏の顔をみると、そう健康そうでなく心配だが、演説だけはやけに元気が良かった。尖閣問題をめぐって中国で起きた反日デモに対し、「在留邦人と企業を守る責任は中国政府にある。それができないなら、国際社会の一員としての資格はない」と舌鋒鋭く演説していたが、それでは従軍慰安婦問題で強制性を認め謝罪と反省を表明した「河野談話」の見直しを公約にしたり、A級戦犯を祀る靖国神社に参拝することが「国際社会の一員」としてふさわしいことなのか、問われなくてはならない。安倍氏には、自らを振り返り、日中友好を実現する姿勢はないようだ。

 『朝日新聞』(9月8日)の「記者有論」で、政治部の園田耕司氏は、「自民党が2010年1月に改訂した新綱領は、新自由主義的な信念の『自助自立』を盛り込んだ。生活保護制度の見直しを主張し、『働かざるもの食うべからず』と一部の受給者をやり玉に挙げて激しくたたいた根底には、この考えが流れている。これは同じ保守路線の民主党との差を打ち出す必要に迫られたからだ。次期衆院選の公約でも国家の存在感や公の秩序を強調するなど、ひたすら保守イデオロギーの『先鋭化』に走ってきた印象だ」「それよりも大事なのは、自らが育まれた立脚点を見つめ直すことではないか。自民党はもう一度、日本独自の緩やかな保守層を生んだ地域共同体の共生の精神を取り戻すべきだと思う」と書いている。

 しかし、その主張はかなわず、自民党は「保守イデオロギーの先鋭化」をトコトン突っ走る右翼タカ派・安倍晋三氏の総裁復帰となってしまった。安倍氏がかつて総理に就いたのは、朝鮮による日本人拉致問題が焦点化し、そこへの反発が広がる気運に乗じたものだった。今回の自民党総裁への復帰は、竹島・尖閣問題で反韓・反中国の排外主義が高まる気運に乗じたものであろう。今後、日中関係や日朝協議への負の影響が心配される。逆流を跳ね除ける大衆運動の構築が必要だ。


民自公大連立vs改憲大連合か
 

 一方での野田民主党、他方での安倍自民党。『読売新聞』と『産經新聞』の違いのようなものだという声が聞かれる。野田民主党が『読売新聞』で、安倍自民党が『産經新聞』であり、保守と右翼の差であるというものだ。その『読売新聞』社説(9月22日)は、野田再選に際して、「民自公党首会談で連携確認を」と大連立路線を主張し、『産經新聞』(9月27日)は、安倍総裁誕生に際して、「挫折を糧に『宿題』果たせ」と政治部・阿比留瑠比氏の記事を載せている。宿題とは憲法改正、集団的自衛権の行使容認、教員組合活動の適正化などである。野田民主党がめざすのは民自公三党大連立路線である。安倍氏の場合は、そうでなく、日本維新の会との連携による改憲がめざされているようだ。日本の政治の前に、民自公大連立路線か改憲大連合路線かの選択肢しか見えないのは不幸なことである。しかも、「民も自も『タカ派』」(東京新聞、9月27日)である。安倍氏は、沖縄問題でも、日米同盟強化のために普天間基地の辺野古移設(新基地建設)を進めるべきだと、露骨に発言している。野田氏も、代表選での選挙広報で「尖閣諸島の国有化」を明記し、この間、日中間で尖閣諸島の領土問題の「棚上げ」に合意してきたことへの洞察はない。野田首相は、外交の現実さえ忘却しているタカ派だ。それにしても、痛感されるのは日本政治のリベラル性の欠如である。野田・安倍流政治に対抗する協同が求められている。