「進歩と改革」No.730号    --2012年10月号--


■主張 通常国会閉会と「近いうち解散」の行方      



民自公談合の消費増税法案の成立と「近いうち解散」合意
 

 第180回通常国会は、9月8日に閉会する。今国会は、消費税増税法案を柱とする「社会保障・税一体改革」関連法案を成立させた国会として、負の歴史に刻まれるであろう。

 消費税増税法案は、民自公三党修正合意(6月15日)をうけて、8月10日、参議院で可決され成立した。社会保障改革を先送りした「まず消費税増税ありき」の法案であり、強く批判されなくてはならない。

 これに先立つ8日、野田首相と谷垣自民党総裁、山口公明党代表は国会内で会談し、@3党修正合意をふまえて消費税増税法案の早期成立を期す、A成立後、「近いうち」に国民に信を問う、ことで一致した。この会談を招いたのは、自公を除く野党7党・会派の野田内閣不信任決議案の衆院提出であった。消費税増税法案の成立へ民主党と修正合意している自民党は、不信任案に同調できず、そうかと言って反対して野田内閣を信任もできず、独自の内閣不信任決議案提出の構えを見せた。不信任決議案の成立は、「消費税増税を歴史的使命」とする野田首相の政治生命を絶つものである。一方、9月に自民党総裁選を控える谷垣氏にとっては、野田首相から早期解散の確約をとるのが再選のための条件であったが、先の3党修正合意の際には確約はとれなかった。確約を求めた結果が「近いうち解散」である。この合意をうけて

 自民党は不信任案の提出を断念したのみか、民主党・公明党とともに野党7党・会派の不信任案を否決した(9日)。消費税増税へ突き進む姿勢において民自公3党が共通していることが、改めて明らかになった。

 ここに至るには、民主党と自民党との間に、水面下で条件整備が深く進んでいたようだ。野田首相の指南役とされる藤井裕久・民主党政調会長が、伊吹文明(自民党元幹事長)、森喜朗(元首相)、野田毅(税調会長)の各氏ら自民党の長老たちに働らきかけ、自民党長老たちも、進んで消費税増税に協力したとされている。先の総選挙で、民主党は「政権交代こそが政治を変える」としていたが、菅首相下での参議院選で敗北し衆参ねじれ国会となった中で、いまや大連立が形成されている。野田首相の言う「決める政治」とは米官業の利益に奉仕する保守大連立である。そして、自民党長老たちは、臨時予算への関与を狙い、いま民自公大連立の強力なサポーターであり続けている。


「第1党から首相、第2党から副総理」と、構想される民自公大連立


 衆議院の解散・総選挙は、本来、消費税増税法案成立前にやり、消費税についての民意を問うのがあるべき姿であろう。しかし、「近いうち解散」が合意された。その時期はいつか?とマスコミにも騒がれたが、民主党内から多く聞こえてきたのは10月解散・11月選挙であった。10月臨時国会で、赤字国債発行のための「国債発行特例法案」を成立させた後の解散である。きたる総選挙で敗北必至の野田民主党にとっては展望のない話であるが、そこは総選挙後に自公と大連立を組むことが想定されていたようである。消費税増税へむけた三党協力は「擬似連立」とされたが、総選挙後は本格的連立が構想されている。野田首相を始め岡田副総理、安住財務省が主導しているらしいが、先の藤井氏も「第1党から首相、第2党から副総理というのも極めて現実的な案だと思います。3党路線は、3党協議から事実上始まっているんです」と、総選挙後の大連立を提唱している。これでは政権交代の意義は完全に吹っ飛んでしまうし、民主党の分裂は自治体議員を含めて大きなものになろう。

 自民党・谷垣総裁は、「近いうち解散」は、今国会末と判断したのであろうか。民主党が当初示した「近い将来解散」を拒否し、最後は「近いうち解散」に変更になったのだから、谷垣総裁がそう判断しても不思議ではない。一方、民主党内では、輿石幹事長を始め早期解散に反対する声が強かった。野田首相は総選挙の先延ばしを言明し、かつ選挙制度改革法案を衆議院で単独強行採決した。民主党の選挙制度改革法案には自民党が反対しており、参議院で可決されることはないから廃案になるしかないが、これは「自民党が反対したから“近いうち解散”はできない」、つまり解散・総選挙の先延ばし策とされた。「騙したあなたが悪いのか、騙された私が馬鹿なのか」と茶化されている。自民党のネットCMには、若い男性が女性に甘言を弄して口説く「プロポーズ篇」というのがある。これは若い男性を民主党に見立てて、有権者が民主党の甘言に騙され政権交代したと宣伝するものだが、最後に「根拠のない自信に人生を預けられますか」「根拠がある自民党」とナレーションが入る。ただ当の自民党・谷垣総裁の今国会解散要求にも、まるで「根拠がなかった」ようだ。


野田首相問責決議採択で「近いうち解散」はどうなるのか


 8月29日、自公を除く野党の野田首相問責決議案が参議院で採択された。問責決議案の理由には「最近の国会では民主党・自由民主党・公明党の三党のみで協議をし、合意をすれば一気呵成に法案を成立させるということが多数見受けられ、議会制民主主義が守られていない」と正当に指摘してあるが、何と自民党が同調した。問責決議を背景にして解散時期の明示を迫ったものだが、これほど自民党の無節操さと迷走を示すものはない。谷垣自民党の液状化とも言える事態であるが、そこで野田首相問責決議への自民党の同調は、民自公三党合意を破綻させ、大連立の流れを止め、「近いうち解散」も白紙になるのか。

 民主党の政権運営にとって決定的に重要なことは、公債発行特例法案の成立であり、これが成立しなければ財政支出ができないから、秋の臨時国会での最大の課題となる。その協議の際、改めて民自で解散・総選挙日程が話合われることになろう。ただその前に、民主党代表選(9月10日告示、21日投開票)と自民党総裁選(9月14日告示、26日投開票)がある。民主党では、小沢グループが離党し、野田グループの力が高まっているが、自民党では、大連立路線の森喜朗氏ら長老と谷垣氏との齟齬が表面化し、そこに対抗する形で、橋下「大阪維新の会」との連携をめざす安倍晋三・元首相の立候補などが報道され、ゴチャゴチャである。安倍氏は首相時代、再チャレンジ社会とか言っていたが、病気とは言え政権を放り出しながら、今度は自らの再チャレンジを図るというのだろうか。安倍氏は改憲のため維新の会と連携するとしている。維新の会と安倍氏という新旧改憲派の連携は、日本の政治・政界における最右翼の登場として警戒しなくてはならない。いずれにしても解散・総選挙の行方は、代表選・総裁選後の民自のトップ間で談合されるのではないかとの指摘が強い。選挙制度改革と周知期間の如何という問題もあり、12月や来年1月総選挙説も指摘されるが、そう遠い話ではない。維新の会の第3極だけが注目されている中で、社会民主主義の政策に光を当てて社民党を前進させる態勢を築きたい。(9月1日)