「進歩と改革」No.729号    --2012年9月号--


■主張 野田政権は、危険なオスプレイの配備を中止せよ!      



「世界一危険な普天間飛行場」に「墜落するオスプレイ」の配備を計画


 米国の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ(海軍用)の日本への配備が進行している。オスプレイは、ヘリコプターと固定翼のプロペラ機を融合した新型の輸送機である。1989年3月に初飛行したが、開発段階で墜落事故が続出した。1992年にポトマック川に墜落して、乗員7人が死亡した。米軍資料では、2006年から5年間で58件の事故が発生している。2010年4月、CVオスプレイ(空軍用)がアフガニスタンにおいて墜落し、4人が死亡した。オスプレイは、ここ10年間、機体の改良が進み安全だとアピールされてきたが、今年4月、モロッコでの合同軍事演習中に墜落し、2人が死亡。さらに6月には米国フロリダ州でも墜落し、5人が負傷した。要は欠陥機である。

 『沖縄タイムス』(7月27日付)が、オスプレイ問題を報じてきた米誌『ワイアード』のアックス記者に取材している。それによると同記者は、「(アフガニスタンでの事故では)調査委員長が『主因はエンジン出力の低下』と結論付けた報告書について、上層部が『操縦士の責任』と変更するように圧力をかけていた」とし、「(フロリダの事故では)直後に『人為的ミス』と発表した点について『米軍は機体構造と機械的な問題によって生じている事故原因を操縦士の責任にする傾向がある』と疑問を呈した」とある。今回の墜落原因の最終報告はまだ出されていないが、米国政府の結論が「機体は安全だ。事故の責任は操縦士にある」とすることは容易に想像できる。  米国政府はこの危険なオスプレイを沖縄の米軍普天間飛行場(宜野湾市)に配備する。その計画を日本政府に通告した(6月29日)。計画では、今年10月に普天間飛行場に現在配備されているCH46ヘリ24機のうち12機をオスプレイと交代する、そして来年夏ごろに残り12機もオスプレイに交代させて本格運用に入るという。普天間飛行場は「世界一危険な飛行場」とされ、地元住民は騒音と事故の危険に隣り合わせで暮らしている。沖縄県民の多くが一日も早い撤去を望んでいる普天間飛行場に、これまた危険なオスプレイを配備するなど言語道断、あってはならないことである。これは普天間飛行場の固定化につながるものではないか。


全国6ルートで、地上60メートルの低空飛行訓練も


 米軍計画に基づいて、まず山口県岩国市の米軍岩国基地へオスプレイ12機の陸揚げが強行され(7月23日)、市民の抗議行動が展開された。これは当初、オスプレイ配備に反対する沖縄県民の怒りを抑えようと、岩国基地に一時配備し、試験飛行などを実施し、安全性をアピールした後に普天間飛行場に移そうという姑息な手段であった。最初は、岩国基地の他に横田や三沢などの米軍基地の名も上がっていた。モロッコとフロリダの事故があり、反対運動の高まりのなかで、オスプレイの安全が証明されるまで岩国基地での試験飛行は実施されないことにはなったが、安全など証明のしようがないではないか。事故原因の究明も済んでいないオスプレイを急いで岩国基地に陸揚げした米日両政府の行動は許せない。普天間基地と一緒に米国へただちに送り届けるべきである。

 オスプレイ配備の問題は、岩国、普天間だけに留まらない。明らかになった米軍の「環境レビュー最終版」では、全国の6つのルートで低空飛行訓練を定期的に行うとされている。普天間飛行場に配備されるオスプレイ部隊から、岩国基地とキャンプ富士(静岡県)に分遣隊が派遣され、沖縄・奄美以外に東北、北信越、近畿・四国、九州の全国6ルートで低空飛行訓練を行うという。分遣隊の派遣先には厚木基地など他の基地、訓練ルートとしては中国地方も狙われているようである。しかも低空飛行訓練は、地上200フィート(約60メートル)で想定されていることも明らかになった。

 普天間飛行場を抱える沖縄県では、8月5日にオスプレイ配備に反対する県民集会が開催される。知事・県議会・市民団体・労働団体などオール沖縄が結集する集会である。低空飛行訓練に関係する自治体からも反発と運動が高まっており、これをうけて全国知事会議では「関係自治体や住民が懸念している安全性が確認できない状況では受け入れることはできない」と反対する緊急決議を全会一致で採択した(7月19日)。こうしてオスプレイ配備問題は、沖縄の基地問題を全国民が共有する課題として突き出され、民衆の人命・生活をかえり見ない米国と野田政権へ鋭く対抗し、日米安保体制・日米同盟を根底から問うものとなった。


野田首相の対米従属姿勢


 米国がオスプレイの日本配備を強行するのは、オバマ政権の軍事戦略に基づいている。それは、今年1月「国防戦略の見直し」として提起されたが、核心は「二正面作戦(2つの戦争を同時に戦い勝つ)からの離脱」「アジア太平洋地域を米国戦略の最重点とする」ことである(浅井基文氏の指摘による)。オスプレイは、現在普天間基地に配備されているCH46ヘリの後継機であるが、その行動半径はCH46ヘリの7倍以上で、朝鮮半島や台湾などへの展開が容易とされていることから、中国、朝鮮を意識してのものであろう。『読売新聞』(7月23日)は、露骨に中国、朝鮮の脅威を煽り、「オスプレイは、日米同盟の抑止力を高め、日本の南西地域の防衛強化のために必要な米軍の装備である」とした。『読売新聞』は、読者の生命より日米同盟を優先しているのだろう。今年は日中国交正常化40年である。中国、そして朝鮮との友好こそ強調されなくてはならない。

 それにしても情けないのが野田首相の姿勢である。野田首相は、「配備は米政府の方針であり、同盟関係にあるとはいえ(日本から)どうしろこうしろと言う話では基本的にない」とテレビ番組で発言し、あの民主党政調会長である前原氏からも「政府の決定は甘すぎる」と批判をうけた。対米従属度では、前原氏より野田首相がより深いということであろうか。やはり「自民党野田派」というべきか。 もっとも野田首相だけでなく、マスコミ界からも「日米地位協定により、日本はオスプレイをどうこうする権限はない」と野田首相を応援する声が発信されている。ここで思い出すのは、今年3月、伊達判決53周年シンポで聞いた国際問題研究家・新原昭治氏の話である。新原氏の話は、日米地位協定の前身である日米行政協定締結当時、それに関わった外務省の西村熊雄条約局長が青年代議士に説明を求められ、説明を聞いた青年代議士が最後に「要するに、日本は米国の植民地になったということですな」と言ったというもので、その青年代議士は後に首相となる中曽根康弘氏であったという。オスプレイ問題は、日本の対米自主化を突きつけている。

 野田首相は、脱原発・再稼働撤回を求めて毎週金曜日の夜に首相官邸を包囲する市民の声を「大きな音だね」としたが、オスプレイ配備に反対する沖縄をはじめ全国の声もまた、「大きな音」として切り捨てるのだろうか。