「進歩と改革」No.728号    --2012年8月号--


■主張 野田政権の暴走にストップを!
―原発再稼働・原子力基本法改正・消費増税法案衆院可決と対抗主体―




 野田政権の暴走が止まらない。今回、取り上げたのは、「原発再稼働」「原子力規制委員会設置法と原子力基本法改正」「消費増税法案の衆院可決」の問題だが、それぞれの課題にかかわる運動主体について特徴も示されているので、それらを含めて考えてみたい。


原発再稼働に反対し、首相官邸前に結集する「史上空前の市民たち」


 野田首相は、6月16日、関西電力大飯原発3・4号機の再稼働を最終的に決定し、直ちに準備作業に入るように指示。7月1日には3号機が起動した。大飯原発再稼働については、「国会事故調査委員会での福島原発事故の検証もされていない」「原子力安全委員会の斑目委員長でさえ『ストレステスト(耐性試験)は少なくとも1次と2次の両方が実施されないと安全は確認されない』としているにもかかわらず、1次テストだけで再稼働しようとしている」などと、強く批判されてきた。それにもかかわらず、野田首相は、財界の強い要請に応えて脱原発の声に背を向けたのである。それは、当初の「脱原発依存」の政策姿勢を完全に捨て去ったものと言うしかない。

 しかし同時に注目したいことは、この原発再稼働に反対する市民の行動が史上空前の規模で盛り上がっていることである。毎週金曜日に首相官邸前に集まって抗議するこの市民運動を呼びかけているのは、首都圏反原発連合の有志だが、6月15日には、首相官邸前に1万人が集まった。1週間後の22日には、それが4万5000人に拡大した。3月当時は、300名の規模であったが、原発再稼働の動きが強まるとともに、ツイッターなどでの呼びかけに応えて多くの市民が結集している。6月29日には主催者発表で、何と15〜20万人が結集した。この溢れる市民、人、人、人によって、官邸前の6車線の道路は埋めつくされた。参加者に聞くと、4万5000人が結集した6月22日には、1車線のみが参加者で埋められていたというから、6車線を埋め尽くした今回の広がりの大きさが分かる。「アラブの春」を象徴するエジプト・カイロの「タハリール広場」に、首相官邸前を模した人もいるし、アラブの春の「ジャスミン革命」に対し、今回を「紫陽花革命」と呼ぶ参加者もいる。

 原発再稼働に抗議する官邸前行動が、今後さらに広がり、高まることは確実である。きたる7月29日には、「脱原発国会包囲」行動が予定されている。7月16日には、さようなら原発1000万人アクション実行委員会の主催で、10万人集会が代々木公園で開催されるが、この両者が共鳴し合って、日本の脱原発運動の新しい地平が切り開かれつつあるといえよう。原発再稼働を決定した野田首相は、確実に政権衰退の道を歩んでいる。


「原子力規制委設置法」「原子力基本法改正」の危険性を指摘した「平和アピール7人委員会」


 野田内閣の原子力政策には、今ひとつ重大な注意を喚起しておきたいことがある。6月20日に成立した原子力規制委員会設置法の目的(第1条)に「我が国の安全保障に資する」との文言が盛り込まれたことである。これと同時に、「原子力の憲法」とされる原子力基本法が改正され、原子力の平和利用について「平和の目的に限り」という言葉を残しつつも、その安全は「国民の生命、健康、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として」行うとされた。日本における原子力利用は平和主義や「自主・民主・公開」の3原則を基本としてきたが、それが公然と変更されたのである。

 この問題がより深刻なのは、消費増税法案の3党合意の取引に使われたことである。民主党が消費増税のために自民党の要求を飲んだのである。消費税政局のドザクサにまぎれてのもので、衆議院通過までの期間はわずか五日間であった。この原子力政策の重大な変更に異議を唱えたのが、湯川秀樹氏らが創設した世界平和アピール7人委員会であった。撤回を求めて、声明を出した(6月19日)が、そのなかでは次のように指摘されている。

 「『我が国の安全保障に資することを目的として、安全の確保を行う』という文言は何を意味するのであろうか。具体的になにを行おうとするのか全く理解できない。国内外からのたびかさなる批判に耳を傾けることなく、使用済み核燃料から、採算が取れないプルトニウムを大量に製造・保有し、ウラン濃縮技術を保持し、高度なロケット技術を持つ日本の政治家と官僚の中に、核兵器製造能力を維持することを公然と唱えるものがいること、核兵器廃絶への世界の潮流に反して、日本政府が米国に対して拡大抑止(核兵器の傘)の維持を求め続けていることを思い浮かべれば、……実質的な軍事利用に道を開くという可能性を否定できない。国会決議によって、平和利用に限り、公開・民主・自主の下で進められてきた日本の宇宙研究・開発・利用が、宇宙基本法の目的に、『わが国の安全保障に資すること』を含めることによって、軍事利用の道を開いたことを忘れることもできない。……世界平和アピール7人委員会は、原子力基本法と原子力規制委員会設置法に、何らの説明なく『我が国の安全保障に資する』という表現を含めようとする計画は、国内外から批判を受け、国益を損ない、禍根を残すものと考え、可決にむけて審議中の参議院において直ちに中止することを求める」

 今回、世界平和アピール7人委員会の声明によって始めて問題の存在を知った人が多い。この原子力規制委員会設置案は成立し、原子力基本法も改正され、今後に大きな禍根を残したが、問題の危険性を提起し、突きつけた世界平和アピール7人委員会の知的役割の大きさも発揮されることになった。


民自公の密室談合による消費増税法案に「早期成立を求める連合」
 

 原発再稼働に反対して首相官邸前に続々と駆けつける市民がおり、日本の原子力政策の変更を心配して声明する知的集団がいる。一方、脱原発にむけた行動を何ら取らないのみか、民自公の密室談合政治による消費増税法案に抗議もせず、むしろその早期成立を促し、民主党内造反グループを批判する労働集団がいる。「連合」である。

 民主、自民、公明の3党による修正合意を受けて、6月26日、消費増税を柱とする税・社会保障一体改革関連法案が、衆議院で民自公と国民新、たちあがれ日本の賛成で可決・通過した。通常国会は9月8日まで延長され、今後は参議院を舞台に闘いが展開されることとなる。今回の修正合意の特徴は、「まず消費増税ありき」であり、「社会保障改革の棚上げ・後回し」である。政府・民主党の一体改革案の目玉は、最低保障年金であったが、これは後期高齢者医療制度とともに「結論を出さずに(社会保障制度改革国民会議に)棚上げする方向で一致した」。しかし、その社会保障制度改革会議より「3党合意がやや先行する」と、自民党は社民党・中島隆利衆院議員の質問に答えている。その自民党の機関紙『自由新報』(7月3日号)には、次のような記事もある。「会期延長問題の大詰めを迎えた21日、わが党に民主党の輿石東幹事長、前原誠司政調会長連名で『申し入れ』書が届けられた。『最低保障年金はなくなったとの合意はない』などとしたうえで、わが党がこれに反する発言をしているのは『容認できない』との内容だった。民主党内をまとめるために『マニフェストは撤回していない』と言い張らなければならない苦しさが読み取れる」。また修正合意の問題点として、「所得税・相続税の取り扱い」を挙げなくてならない。そこでは、「政府案にあった所得税の高額所得者への課税強化及び相続税の課税強化は今後検討し、来年度の税制改正で必要な財源措置を行う」とされた。今月号の福留久大先生の論文「消費増税からTPPへ」のなかで、神野直彦・東大名誉教授のコメントが引用されている。「結局、今回の消費増税は財政再建のためという目的が前面に出てしまった。だが、これまでに積み上がった国の借金を返すのなら、消費増税ではなく、高所得者や資産がある人の税を増やすしかない。格差社会がさらに拡がるからだ」。同感である。

 そこで連合である。連合は、めざす「働くことを軸とする安心社会」を支えるトータルビジョンとして、「新21世紀社会保障ビジョン」と「第3次税制改革基本大綱」を打ち出してきた。その税制改革基本大綱では、第一に「所得税や資産課税を見直し、税による所得再配分機能を強化する」とし、次に「消費税は社会保障制度の維持・強化に全額充当する。2020年ごろに10%程度の引き上げが必要」とある。これが連合の政策であり、立場であるが、今回、衆院で可決された3党修正合意案は、連合の立場と大きく乖離しているのではないか。

 しかし、それにもかかわらず、連合は南雲事務局長談話で、「消費税の段階的引き上げにあたり、社会保障の安定財源化、中小事業者などの価格転嫁対策の強化、低所得者対策の実施などについて合意に至ったことは、連合が求める改革の方向性と合致している」と評価した。また「衆議院本会議において社会保障・税一体改革関連法案が賛成多数により可決された。重要法案であるにも拘わらず与党内から反対が出たことは誠に遺憾である。今後は参議院での審議となるが、与野党は真摯な議論を通じて国民への理解をはかり法案を早期に成立させるよう、求める」と高圧的である。「国民の生活が第一」路線から完全に乖離した談話であり、こうした談話が良く出せるものだと思う。連合内部からこの談話への批判が高まることを望みたい。