「進歩と改革」No.720号    --2011年12月号--


■主張 TPP・沖縄で対米追随へ突出する野田政権


  
「早く結果を出せ」「全力を尽くす」とオバマ・野田会談

 政権発足から約2カ月。野田首相が政権運営で気を付けているのは、「派手なことはしない」「余計なことは言わない」「突出しない」という「三ない主義」であるという。しかし、米国に対しては随分と勝手が違い、「三ない主義」は通せないようである。野田政権の対米追随の突出した姿勢がはっきりとした姿をもって現れてきた。

 さる9月22日、ニューヨークでオバマ大統領と初めて会談した野田首相は、オバマ大統領から、沖縄の米軍普天間飛行場問題で、「結果を求める時期が近づいている」と、日米合意に基づく名護市辺野古への移設(新基地建設)へ具体的な進展を強く迫られた。これに対する野田首相の答えは「全力を尽くしていく」であった。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加問題でも、オバマ大統領は「日本の取り組みと議論を歓迎する」とし、野田首相は「できるだけ早い時期の結論を出したい」と明言した。また、オバマ大統領は、米国産牛肉に対する日本の輸入制限に対しても「長い時間が経過しており、進展させてほしい」とした。これは、日本がBSE(牛海綿状脳症)に侵された米国産牛肉の輸入防止のため、月齢20カ月以下の若牛に限って輸入を認めていることに規制緩和を求めたものである。

 これらオバマ大統領の要求の背後には、米国の経済財政事情の深刻な危機と、それを受けた米国議会の強い圧力がある。昨年11月の中間選挙では、ティーパーティー(茶会)の躍進で、オバマ政権の民主党は「歴史的大敗」を喫し、下院は共和党が多数を握り、政策決定もままならない。一方で、反失業・反格差を主張するウォール街占拠デモが高揚し、全米・世界へ拡大している。就任時、70%を超えたオバマ大統領の人気も低落し、来年11月の大統領選での再選が見通せない。オバマ大統領にとって、成果を上げるためには、新米の日本の首相に政策的猶予を与える余裕もないのであろう。それにしても、このオバマ大統領の要求に対し、軍事基地撤去を求める沖縄の願いやTPP反対の国民の声を何ら主張することなく、唯々諾々と従ったのが野田首相であった。


TPP交渉参加に反対の声を大きく!

 日米首脳会談を受けて、野田首相は、まずTPP問題では、11月にハワイで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議での、日本の交渉参加表明をめざしている。

 TPPについては、本誌でも鎌倉孝夫氏や木村毅氏が強く批判してきた。TPPは、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリという小国のFTA(自由貿易協定=相互に関税を下げ、非関税障壁をなくして自由貿易促進をめざす二国あるいは多国間協定)から始まったが、〇九年一一月、オバマ大統領がTPP参加を決め、そのイニシアティブをとることが明らかになった。その性格は、「TPP協定に参加する国の経済関係を全面的に自由化しようとする、いわば国家間の究極の新自由主義実現をはかるもの」であり、オバマ政権の狙いは「米国の競争力の高い商品(工業製品、その中では武器・軍事技術、そして農業)の輸出拡大、さらに金融・保険分野の進出・支配を図るという戦略を推進しよう、ということである」。これはまた「中国主導のアジア経済圏形成に対する対抗の狙いをもつ」(鎌倉孝夫、本誌五月号)ものである。中国が参加しないため、TPP実現のためには、国内市場が比較的広い日本の参加が不可欠で、いまそれが迫られているのである。

 このTPP参加を打ち出したのは菅政権であった。これを宇沢弘文東大名誉教授は「パックス・アメリカーナ(アメリカの平和)の忠実な僕となって、卑屈なまでアメリカの利益のために奉仕している」と痛烈に批判したが、その路線は野田政権に引き継がれている。しかも、野田政権が厄介なのは、TPP参加を主導する日本財界の全面的な支援をうけていることである。10月28日の所信表明演説では、「結論先延ばし」をしたが、いまは交渉参加を表明する時期を狙っているのであろう。ここは国民的な運動の展開で、TPP反対の声を高めていかねばならない。

 TPP反対運動は、大きく盛り上がってきた。10月26日には、JA全中(全国農業協同組合中央会)が、与野党の国会議員356名の賛同を得て、約1167万人の署名を政府に提出するとともに、東京・日比谷野外音楽堂で 3000人の決起集会を開いた。TPP反対・阻止にむけ、国民共同の闘いが一段と求められている。

野田政権は、「環境影響評価書」の年内提出を止めよ!

 沖縄問題では、野田首相は、すでに最初の所信表明演説(9月13日)で、「普天間飛行場の移設問題については、日米合意を踏まえつつ、普天間飛行場の固定化を回避し沖縄の負担軽減を図るべく、沖縄の皆様に誠実に説明し、理解を求めながら、全力で取り組みます」と述べていた。この演説の酷いところは、辺野古移設ができないなら、普天間飛行場は固定化するという恫喝を含んでいることである。マスコミでは、野田首相は「低姿勢」と評されている。しかし、その野田首相の、沖縄への「高姿勢」は、政権の対米追随ぶりを示すものであろう。

 10月27日には、野田首相は官邸で、沖縄県の仲井眞弘多知事、稲嶺進名護市長と就任後初めて会談し、「環境影響評価書」(アセスメント)を年内に沖縄県に提出する方針を直接伝えた。「環境影響評価書」提出は、辺野古沿岸部の埋め立て申請に直結し、辺野古での新基地建設をワンステップ押し上げるもので、これは許されないし、仲井眞知事は受け取りを拒否すべきである。ジュゴンや辺野古の人々の静かな暮らしが守られねばならない。

 先立つ10月24日には、パネッタ米国防長官が来日し、野田首相や玄葉外相や一川防衛相と会談、日米合意の履行を迫った。これで思い出すのは、09年10月、新しく誕生した鳩山政権下で、普天間問題が混迷したときに来日した前任の米国防長官ゲーツ氏である。ゲーツ氏は、当時の岡田外相、北沢防衛相、そして鳩山首相と会談して、日米合意へ強烈な圧力をかけた。このゲーツ来日が鳩山政権に県外・国外移転案を放棄させる転機となったとされている。その再現であろうか、あまりにも露骨な米国の行為である。

 財政危機の米国では、グアム移転費が想定より高く見積もられることや、普天間移設が進展していないことを理由に、グアム移転費が凍結され、その行方は不透明になっている。それだけに、日本のカネで作らせる辺野古の新基地に圧力をかけているし、日本政府もそれを進めようとしている。これほど沖縄県民の願いに背く行為はない。いうまでもなく、沖縄県民の多くの声は、普天間飛行場の返還であり、辺野古への移設(新基地建設)反対である。いま新崎盛暉沖縄大学名誉教授ら七氏によって「脱“沖縄依存”の安全保障」が提唱されている(『世界』10月号)。野田政権は、米国追随ではなく、こうした新時代を拓く提言にこそ向き合うべきである。